艶っぽくセクシー、憧れの杏子おねえさま
「私もきっと大人になったら、杏子おねえさまみたいになれるんだろうなぁ」なんて信じて疑わなかった高校時代。80年代の音楽シーンには、数多くの歌姫がいた。渡辺美里、小比類巻かほる… 多くが初々しく清純で、明るく光り輝く存在だった。
そんな女性ボーカルの中で、一線を画していたのがバービーボーイズの杏子。その低音ボイスとステージングはあまりにも艶っぽくセクシーで、“大人の女性” という言葉がぴったりだった。
アシンメトリーのスカートの裾をひらひら揺らしながら、ストールを振り回し歌い舞うのが杏子スタイル。一つにまとめたポニーテールの髪を無造作にほどき、髪を振り乱しながら歌いあげていく姿は圧倒的な迫力だ。
時にはスタンドマイクに向かいながら、背中のボタンをはずしていく衣装チェンジ(なんという艶めかしさ‼)。そんな杏子に誘われて、観客のテンションも最高潮へと昇り詰めていく。それがバービーボーイズのライブの大きな魅力の一つでもあった。
また『ARENA37℃』という音楽雑誌の中で連載されていた「コンタ&杏子の恋愛相談室」というコーナーも当時の音楽好きの高校生には人気で、読者からの恋愛相談をバッサバッサきっていく二人のコメントは秀逸だった。当時の杏子は同性から「かっこいい大人のおねえさま」として憧れの存在だったことに間違いない。
ツインボーカルで男女の駆け引き、こんなに刺激的で大丈夫?
バービーボーイズの歌詞は、そのほとんどが男女の駆け引きを描いたものだ。もう一人のボーカル KONTA が男性の心理を、杏子が女性の心の機微を、かけ合いのように歌い上げていく。曲中で男女がもがき、せめぎ合う姿がなんともリアルだ。もちろん歌詞の中にはエロティックな表現もある。代表曲「目を閉じておいでよ」の歌詞
目を閉じておいでよ
顔は奴と違うから
ほら いつもを凌ぐ
熱い汗と息づかい
目を閉じておいでよ
癖が奴と違うなら
でも 馴れた指より
そこがどこかわかるから
どうだろうか。「こんなに刺激的で大丈夫?」とこちらが心配になってしまうほど、きわどいではありませんか。
KONTA と杏子の逆転リアリティ、そして圧倒的バンドサウンド
ギターのいまみちともたか(イマサ)が作る歌詞の素晴らしさはもちろんだが、それに加えて KONTA と杏子の声質がさらに歌詞の世界にリアリティを与えているように感じる。KONTA のハイトーンボイスと杏子の力強い低音ボイスには、男女の声質の逆転の面白さがある。
恋愛ではどう転んだって本質的なところでは女性のほうが強く、男性のほうが繊細だ(と思う)。そんな恋愛の本質的な部分、つまり「女性の強さ」を杏子の低音ボイスが、「男性の繊細さ」を KONTA のハイトーンボイスが見事に表現。恋愛の心の機微にさらなるリアリティが加わっている。
そしてギターのイマサを中心にベースの ENRIQUE、ドラムスの小沼俊明(コイソ)の力も忘れてはならない。
イマサのギターはまるでストーリーテラーのようだと聴くたび思う。歌詞を一文ずつなぞるようにギターの音が変幻自在に表情を変えていく。リフとカッティング、どれをとっても素晴らしいプレーだ。KONTA の歌の合間のソプラノサックスもまた、曲に鮮やかな色を添える。そして ENRIQUE のメロディアスなベースの低音の響きと、コイソによるドラムの抜群の安定感がしっかりとバンドを支えている。
29年ぶりの新作「PlanBee」リリース、円熟味を増したバービーボーイズ
さてそんなバービーボーイズが昨年、活動を再開。35周年を迎え、嬉しい知らせが続々と届いている。昨年12月18日には、29年ぶりとなる新作『PlanBee』をリリース。
リードトラック「無敵のヴァレリー」はキャッチーなメロディーと、彼ららしい歌詞の世界に思わずニヤッとしてしまった。特に KONTA の声は以前と比べて円熟味が増していて素晴らしかった。1月13日にはライブも開催され、ライブビューイング、WOWOW での生中継も。ぜひ、魅力溢れるバービーボーイズの音楽に触れてほしい。
さてさて。今、こうして大人になって、ストール片手にアシンメトリーなスカートを着て街を闊歩する私ですが、やっぱり杏子おねえさまのような色っぽさだけは手に入れることができませんでした。そんなやるせない私の気持ちを表した歌詞が「STOP!」にありました。
あ、ああ ときどき あたしがばかみたい
いやいや、あきらめちゃいけない… そうですよね!? 杏子おねえさま!
歌詞引用:
目を閉じておいでよ / バービーボーイズ
STOP! / バービーボーイズ
2020.01.13