抱腹絶倒の全国ツアー開催中！清水ミチコのファーストアルバム「幸せの骨頂」の魅力

音を題材にしたネタがたくさん！清水ミチコはミュージシャン

清水ミチコをミュージシャンといて捉えている方はどのくらいいるだろう。ものまねタレント、ナレーター、女優など、様々な分野で活躍されているし、ダウンタウンやウッチャンナンチャン、野沢直子と共演したテレビ番組『夢で逢えたら』で演じた強烈キャラクター “伊集院みどり” を覚えている人は、お笑い芸人として認識しているだろう。もちろん、どの分野においても素晴らしい活躍をしているのだが、音遊びのプロフェッショナル、という点で、私はミッチャンをミュージシャンと認識している。

ライブではものまねはもちろんのこと、ボーダーラインスレスレの風刺の効いた替え歌を歌ったり、”このミュージシャンならこんな感じで作曲するのでは？” という “○○作曲法” をいくつも作ったりと、音を題材にしたネタがたくさん披露される。特に “作曲法” は、松任谷由実から始まり、中島みゆき、ドリカム、井上陽水などの大御所からスピッツ、ミスチル、椎名林檎、サカナクション、最近ではOfficial髭男dismまで、実に幅広いネタを持っている。

岐阜県飛騨高山のご実家はジャズ喫茶、学生時代は昼休みに学校の音楽室に籠もって、ピアノを相手に友だちと遊んでいたというミッチャン。ものまねやピアノを使った数々のネタを生み出すセンスは、きっと音楽に囲まれていたこの頃に培われたものなのだと思う。

“究極のひとり遊び”、「幸せの骨頂」

そんなミッチャンが世に出てきたのは、ラジオ番組の構成作家になったことがきっかけである。そこから渋谷の小劇場 “ジァン・ジァン” でライブデビュー。テレビ番組『冗談画報』や『笑っていいとも！』に出演したことでタレントとしてブレイクした。

その頃にリリースされたのがファーストアルバム『幸せの骨頂』である。このアルバムはビクター青山スタジオでのライブを収録したものだが、内容は “究極のひとり遊び”。昭和世代の方は、昔々カセットテープに自分の話し声や歌声を録音して遊んだことはないだろうか？ まさにあれのプロフェッショナル版なのである。

前半は音ネタを中心に構成されている。例えば「放送特別音楽講座」は “調音” がテーマ。言葉や様々な音を音符にしてみる、というものだ。「うっそー？ やっだー！ まっさかー！」や「たすけてー！」などのフレーズをドレミファソラシドの音階にしてみたり、逆に音階からそのフレーズを当てるという問題では、暴走族がよく鳴らしていたクラクションを音階にしてみたり、という斬新な切り口で笑わせてくれる。

私が一番好きなのは「音楽講座・オン・ピアノ」。これは「ねこふんじゃった」をいろんなミュージシャンがピアノで弾いたらどんな風になるか？ というもの。やたら可愛らしく弾く松田聖子から始まり、「恋人よ」風の暗いイントロから始まり、メロディーが短調になる五輪真弓、「海を見ていた午後」ならぬ「イリオモテ（ネコ）が死んだ朝に」を切々と歌う松任谷由実… と続くのだが、スゴいと思ったのはこのあと。モーツァルト、ベートーヴェン、キース・ジャレット… とクラシックやジャズまでもネタにしてしまうのだ。これらはピアノのスキルがないとこんなに簡単には弾けないし、絶対に思いつかない発想だ。

ものまねのレパートリーの広さに圧倒

途中に差し込まれる架空CM「柴山ビニール」「カメヤマ美容室」などは、昔のラジオCMを思わせる内容で、まさにひとり遊びの極致と言える。ドの音だけで構成する「ドのジャズ」や「オーメンのテーマ」を演奏する「ピアノであそぼう」は、学生時代の音楽室でのネタ。電動えんぴつ削りの音をヘリコプターのプロペラ音のように聴かせながら富士山上空からの中継を模した「富士山爆発」は、バカバカしくもそのアイデアが素晴らしくて笑える。

後半はモノマネネタ。いろんな芸能人が寿司屋にやってくる「寿司屋の注文」、幸田シャーミンが歌う「アルプス一万尺」、倍賞千恵子と倍賞美津子の違いを「二人の比較」、アグネス・チャン、欧陽菲菲、ジュディ・オングが３人で中華料理店に入ったという設定で状況を説明する「謎の中華三昧」、４人の女優（桃井かおり、大原麗子、黒木香、樹木希林）が歌う「オーシャンゼリゼ」、元NHKアナウンサー・加賀美幸子、桃井かおり、黒柳徹子、吉田日出子、楠田枝里子という個性の強い５人が歌う「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」など、ものまねのレパートリーの広さに圧倒される。

楠田枝里子が６人同時に登場する「やな六人」はそのタイトルだけで笑えるし、「ドレミのうた」は清水ミチコ本人から始まり、桜田淳子、戸川純、矢野顕子、山口百恵、チェリッシュのえっちゃん（松崎悦子）、吉田日出子… と７人も登場する上にラストは全員で合唱するという凝ったもの。よくぞこれだけいろんなシチュエーションを考えられるものだ。

矢野顕子に対するリスペクトの深さと果てしない愛情

スタジオライブのアンコールの曲は、「10年前の矢野顕子」。本人が憑依しているかのようなピアノの演奏と歌声で聴かせる「あんたがたどこさ」と「ひょっこりひょうたん島」。多少のデフォルメはあるが、矢野顕子に対するリスペクトの深さと果てしない愛情がわかる。以前テレビでミッチャンが矢野顕子と共演していた際に、矢野顕子の姿を少し離れたところから眺めているうちに涙ぐんでしまう場面があり、「本当に心の底からこの人のことを好きなんだろうなぁ」と思ったものだ。

ちなみにミッチャンは松任谷由実のことも大好きで、たくさんのネタを持っている。以前はご本人によく思われていなかったようだが、ここ数年は和解したのか（笑）“松任谷ユーミソ” と名乗ってネタを披露し、念願の共演も果たしている。矢野顕子への想いがストレートな愛情なのに対して、ユーミンへのそれはかなり屈折したものにも思えるが、それも愛情の深さゆえだろう。そういえば「私、好きじゃないとものまねできない」と話していたような気がする。

アルバムの締めくくりは、ミッチャンのものまねレパートリーの中からあいうえお順（阿川泰子から吉田日出子まで総勢27人）で歌う「LOVER COMEBACK TO ME」。なお、このスタイルは現在のライブのエンディングでもよく使われている。

このアルバムはオリコンアルバムチャートで最高28位を記録。100位以内に11週チャートインし、売上枚数は４万６千枚だった。内容的にかなりマニアックな作品ではあるが、当時からきちんと評価されていたんだということがわかる。

１月３日には年明け恒例の武道館ライブを開催

ミッチャンは、このアルバムを含め現在までに10枚のアルバムをリリースしているが、どの作品もたくさんの秀逸なネタが揃っている。『幸せのこだま』に収録されている「音楽講座ドラマ編」では、サスペンスドラマにおける効果音をピアノを使って解説していて、その考察がとにかく笑える。『歌のアルバム』に収録されている「野球中継」は、野球がよくわからない人には野球中継がこう聞こえているだろう、という設定。それも適当に野球用語を並べて話しているだけというもの。確かに野球がよくわからない人にはこんな風に聞こえているのかもしれないが、よくこんなネタを思いつくなぁ、とその発想力にただただ感心する。

来年１月３日には年明け恒例の武道館ライブが開催される。たくさんのものまねレパートリーや音ネタはもちろんだが、ミッチャンフリークとしては、テレビではなかなか見ることのできない、結構ヤバげなネタの数々も楽しみのひとつである。

武道館公演を含む『清水ミチコアワー 〜ひとり祝賀会〜』と銘打ったツアーは2024年２月まで開催中。全国を回るようなので、ライブに行ったことがない方はぜひ足を運んでみていただきたい。清水ミチコのイメージが変わるはずだ。


清水ミチコアワー ～ひとり祝賀会～
https://4325.net/information/

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2023.12.28