アメリカ国内での私は空手も柔道も黒帯ということになっている。
中学時代の1年間をアメリカの片田舎で過ごしたのだが「ユーはカラテをするのか」とか「ジュードーをするのか」とかしつこく聞かれ、適切に説明する英語力もないので、もう面倒くさくなって「両方ともブラックベルトだ!」と言い放ってしまったのだ。
次の日からその友人が学校で「彼はカラーリのブラックベルトだ」と言いまくったので、既成事実として私は黒帯になったのである。
その学校に日本人は私と姉しか居なかったので、日本の情報はすべて私と姉から伝達された。
1979年の話なのだが、当時のアメリカ、特に田舎においては「日本」などファーイーストのちっぽけな島国で、電気製品を作るのが上手くらいの認識でしかない。だから私がしゃべることが彼らにとっての日本なのである。
例えば私が日本の大統領はランちゃん、スーちゃん、ミキちゃんの三人体制で運営されていると言えばそれが真実となり、赤と白のリバーシブルの帽子(赤白帽)が流行していると言えばそれが日本のトレンドとなったのだった。
もうやりたい放題だった。
よく外国バンドのPVで「それって日本じゃなくて中国でしょ」とか「今時そんな日本人はいないよ」といったものが散見されるが、もしかしたらその責任は私にあったりして。
さて、休み時間に廊下で友人と話していると、絵に描いたような黒人が肩に大型のラジカセを乗せ大音量を響かせながら歩いてきた。スピーカーから流れてくる音楽に耳を傾けて、
「ヘイ、いい曲じゃないか、誰のなんていう曲だい?」片言の英語で質問する私。
友人は「あれはザ・ナックというバンドのマイ・シャローナっていう、今一番ホットな曲だよ。」と教えてくれた。「スペルはこうだ」そう言うと “The Knack” とルーズリーフに書いてくれた。
当時、私は “n” の前に付く “K” は発音しないことなど知らなくて「こいつ、俺が英語が判らないのをいいことに、適当に教えてるんじゃないか?」と勘ぐっていた。なぜなら私自身が日本のことを適当に教えているので、逆にそんな事でも疑心暗鬼になっていたからだ。
ちなみにアメリカでは、石野真子が私のガールフレンドという事になっている。
2017.04.23
Youtube / TheKnackVEVO
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