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連載【90年代の伊藤銀次】vol.24
いよいよ始まった「ガッツだぜ!!」のレコーディング
1年近く続けてきた、真剣勝負だったウルフルズとの音楽制作。ときには衝突もあったりいろんな難局があったけれど、それを乗り越え乗り越えて継続してきたおかげで、1995年後半に入ってようやくその効果が出てきたのか、彼らの人気や知名度が目に見えて上がってきた。
うれしいことだが、そのタイミングで僕たちチームに求められたのは、そんな世の中の期待に応えてさらにドーンとブレイクの頂に乗り上げる楽曲。プロデュースを始めたときからずっと、彼らがブレイクするのはきっとサザンの「勝手にシンドバッド」みたいな、ぶっ飛んだ詩でパンチのある曲。そうずっと思っていた僕にとって、ひょんなことから見えてきた「ガッツだぜ!!」というとんでもないタイトルの曲はまさに天からの授かりもの。レコーディングがもう間近でもあったからまさに “火事場の馬鹿力” 。迷うことなく、メンバーとたった1日のリハスタでの作業で、ロックバンドにあるまじき掟破りな、なんちゃってディスコの形がおおかたできあがり、いよいよレコーディングスタジオでの作業が始まった。
「アッと驚く為五郎」のようなシンセリフにメンバーから直訴が
たった1日だったが、リハスタでの濃密なプリプロダクションが効いて、リズムトラックの録音は、ディスコ的な曲ということもあって、キーボードの助っ人としてオリジナル・ラブの木原龍太郎君にも参加してもらい、さらに細かいところにも手を入れて順調に進んでいった。だが、よくなってくると今まで見えてなかったあらたな問題点が見えてくるもの。
ウルフルケイスケが初めてトライしたというイントロのワウワウギターは、曲の入り口としてはもう申し分なくすばらしくキャッチーだったけれど、さすがにトータスの歌が出てくるまで聴くものをずっと惹きつけておくことが難しいことに気づいたのだ。さてさて、どうしたもんかと迷ってるヒマなんかまったくなかった。何かないかと懸命に試行錯誤を始めた僕の脳みそが弾き出した答えは、なんと、まったく予想もしてなかった、ハナ肇とクレイジーキャッツの「アッと驚く為五郎」という曲のイントロに使われていたピョヨヨーンという効果音のようなシンセサイザーだったのだ。
このシンセのように、特にこれといった意味もないけど、何か他のことをしながら聞いてる人さえも振り向かせることができる、イヤー・キャッチ力のある響きをイントロの後半に入れてみたらどうだろうと閃き、木原君にお願いして、ムーグっぽい、いかにもシンセという感じのリフを弾いてもらうことにした。するとその途端、メンバー全員が僕の前にきて “銀次さんこの音は好きじゃないです。僕らのサウンドには合いません” という直訴が始まったのだった。
未知の音楽ファンとウルフルズをつなぐことができた曲
かつて佐野元春の「ガラスのジェネレーション」のレコーディングのときも、当時流行りだったジェイ・グレイドン風なツインギターを佐野君は好まず直訴されたが、このフレーズはヒットさせたいという目的なので、もしこれが好きじゃなかったら別のなにかを入れないとと、おだやかに説得したところ “わかった” と受け入れてくれた体験を持つ僕。このシンセのアイデアが浮かんだ時すでに、メンバーからのNOは予想していたので、ひるむことなく目的を説明したら不承不承納得してくれた。
この曲は彼らの中から自然に湧いてきて、作りたくて作った曲ではないだろうけれど、彼らとまだ彼らの前に現れていない未知の音楽ファンとをつなぐことができた重要な曲。音楽ファンがウルフルズのところまでやってくることができる乗り物のような曲。今思えばそれがこの曲の役割で、これによってトータスの中にある、男の美学みたいなものがやっと大衆に広く届くことになったのだと思っている。
自分を除く他のメンバーが全員で、それでいいと思っている空気の中、これがおもしろいということを主張しなければならないプロデューサーはときには孤独な存在でもある。のちに、GREAT 3の片寄明人君があのシンセがいいですねといってくれたのはとてもうれしかったね。
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2026.05.28