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連載【90年代の伊藤銀次】vol.23
火事場の馬鹿力から生まれた「ガッツだぜ‼」
昔から、切迫した状況になると思ってもいなかったパワーが出てくることを、火事場の馬鹿力と表す。リハーサルスタジオで僕とウルフルズのメンバーが「ガッツだぜ‼」の曲作りをしている時はまさにその状況だったのだ。
まずは元となるトータスの歌詞と曲ができあがり、やったあ!と思いきや、通して歌ってもらうと、Aメロ、Bメロと歌ってきて、サビのCメロになるとメロが低くなってしまうという想定外の壁にぶちあたった。A、B、Cどのメロもすごくいい感じだったからこれは変えたくない。どうしようか? 切羽詰まった状況の中、僕の頭に浮かんだのは、転調というアイデア。
専門的な話になるが、トータスが最初に作ったスケッチでは、サビのコードが《Bマイナー》で、AメロとBメロのコードが《Dメジャー》になっていた。この2つのコードは関係調なので、サビのメロが低くなってしまう原因はそこにあったのだ。そこで閃いたのは、AメロとBメロのキーを《D》ではなく《B》にするというアイデア。試しにそれでトータスに歌ってもらったら、ばっちりサビのメロが上がった。いやーよかった!何事もあきらめずにいると必ず欲しいものが降りてくるもの。もう少しのところで壁が崩れるところだったが、大きな一歩で前進することができた瞬間だった。
のちに「ガッツだぜ‼」が無事リリースされヒットし始めた頃、僕がパーソナリティーを務めていたFMとやまの『Coke Sound Shuffle』に、小田和正さんがゲストに出てくださり、曲がかかっていてマイクがオフになっている時、小田さんが “「ガッツだぜ‼」って銀次君だよね? あの転調は誰が考えたの?” と話してくれたのにはびっくり!この曲の転調に気がついていた人はそんなにいなかった。さすが小田さん、恐るべし。さらに “あの転調がいいんだよ” と褒めていただいた時はほんとにうれしかった。
サンコンJr. が叩き始めたワイルドなディスコビート
さて、メロディーができたので、スタジオでその様子を見ながら待機していてくれたバンドメンバーといよいよアレンジにかかることに。とにかく何が何でも “なんちゃってディスコ” でいくつもりだったので、ドラムのサンコンJr. には “♪ドッチードッチードッチードッチー” というハイハット裏打ちのドラミングをお願いしたのだが、リハが始まると、どうもロックバンドがディスコビートをやることに抵抗があるのか、いつのまにか普通のエイトビートに変わっている。う~ん、気持ちはわからなでもないが、ここはがんばって叩いてもらわないと。中途半端はだめ。なにごとも振り切らないとというのは大滝詠一さんから学んだこと。
そこで、キッスも「ラヴィン・ユー・ベイビー」で、ローリング・ストーンズも「ミス・ユー」で、ロッド・スチュワートも「アイム・セクシー」で、なんちゃってディスコを大ヒットさせてるじゃないかと説得。やっと納得してくれてサンコンらしい生きのいいワイルドなドラミングでディスコビートを叩き始めてくれ、またひとつ壁を乗り越えることができた。
印象的なギターフレーズを生み出したウルフルケイスケ
すると今度は、ギターのウルフルケイスケが、“ディスコみたいな曲をやったことないんですけど、僕はどんなふうに弾いたらいいですか?” と。確かに、ウイルコ・ジョンソンのようなパンクっぽいギターが得意なケイヤンが戸惑うのは無理もないこと。一瞬考えて浮かんだのは自分でも驚きのアイデア。そこで、同じくスタジオで待機中で、ギターやベースの音色を任せていたギターテクニシャンの山添昭彦さんに “ワウワウありますか?” と訊いてみた。
ラッキーなことに山添さんの機材にこのエフェクターがあった。 “ケイヤン、これでやってみて” とワウワウを渡すと、ケイヤンは “僕ワウワウ使うのん初めてなんですけど” 。そう言われても、もう迷ってるひまはない。ちょっと不安もあったけど、なんとかなるさとかいい加減な言葉で励まして、リハが始まるといきなりあの印象的なイントロのワウを使ったフレーズが!とてもはじめて使ったとは思えないかっこいいフレーズ。基本的にパンクっぽい大技のギタリストに見えて、実はポップな引き出しを持っていることがこのフレージングでわかった。こういったウルフルケイスケのセンスがのちに「ええねん」などのキャッチーなフレーズを生み出す源なんだろう。
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2026.04.05