リレー連載【ミリオンヒッツ1996】 vol.6
チェリー / スピッツ
▶ 発売:1996年4月10日
▶ 売上枚数:161.3万枚
「ロビンソン」の大ヒット以降、と少しずつ変わっていくスピッツの作風 筆者が通院している横浜市内のクリニックモールでは、BGMで1990年代から2020年代初頭あたりのJ-POP楽曲が、優しく穏やかなオルゴール・サウンドでランダムに流れている。今回取り上げるスピッツの「チェリー」はもちろん、次はどんな曲が流れるのだろうかと、多少のワクワク感をもって診療の待ち時間を過ごしている。
「チェリー」は1996年4月10日、スピッツの13枚目のシングルとして発売された。この文章を書くにあたり、2026年3月25日から1年間の期間限定配信としてリリースされている、スピッツのデビュー35周年を記念したプレイリスト『CYCLE HIT PLAYLIST 2025→1991 Spitz Debut 35th Limited-time Edition』を聴いてみた。ここには2025年に発表した最新シングルからデビューシングルまでのシングル曲が51曲収録されている。
デビューシングルから遡って1曲ずつ聴いてみると、1991年のメジャーデビューの頃。1993年頃から笹路正徳や土方隆行をプロデューサーとして迎えた頃。そして1995年の「ロビンソン」の大ヒット以降と少しずつ作風が変わり、作品として徐々にわかりやすくなっていった、そんな印象がある。
160万枚を超える売り上げを記録した「チェリー」 デビューしてしばらくの間、スピッツは音楽業界内では注目されていたものの、一般に認知されたのはやはり1995年4月リリースの11枚目のシングル「ロビンソン」からだろう。リリースから半年かけてじりじりと知名度を上げ、結果161万枚の大ヒットとなった。続く1995年7月発売の「涙がキラリ☆」も最高位2位で98万枚の大ヒット。
そして年が明けた1996年1月からフジテレビ系で放送されたドラマ「白線流し」で、少し前の1994年4月に発売された8枚目のシングル「空も飛べるはず」が主題歌に使われてシングルチャート1位を獲得。ドラマ人気もあり、スピッツの楽曲が人々の耳目に触れる機会が一気に広がっていった。そんな中でリリースされたのが13枚目のシングル「チェリー」であった。
「チェリー」のレコーディングは、1995年の後半から1996年前半にかけて行われた計46本のツアー『SPITZ JAMBOREE TOUR "TONGARI '95-'96"』の最中、1996年の年明けに行われた。回顧録である『旅の途中』(幻冬舎 / 2007年)では、草野マサムネが以下のようにコメントしている。
「チェリー」を作ったときの正直な感想は、「また地味な曲作っちゃったな。こりゃ、売れねえな」だった。ところが、「チェリー」はスピッツ初のオリコン・チャート1位になってしまう。
そう、「チェリー」は初登場2位、発売から4週目にオリコンチャート1位を獲得し、160万枚を超える売上を記録した。「ロビンソン」同様に、当初タイアップはなかった。
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楽曲をきらめかせる草野マサムネのボーカル “地味” と表現しているが、果たしてこれは地味な曲だろうか? 確かに、同時期にリリースされた小室サウンドやSMAP、サザンオールスターズ、B’zなどの楽曲と比べると音数も少なく、華やかさという意味では目に留まる曲ではなかったかもしれない。ドラムのフィルで始まるイントロから、ドラム、ベース、ギター、キーボード、そしてコーラスとほんの少しの管弦楽器という、シンプルな音で構成されている。
そして楽曲をきらめかせる草野マサムネのボーカル。せつなさが溢れる、心をくすぐる絶妙な歌詞。簡単なコードで構成される、シンプルで親しみやすいメロディ。底抜けに明るいのではなく雲間から光が差すような歌だからこそ、どこかしら聴く人の心に残り、テレビやラジオなどで知った人々の間で静かに広まり、結果として多くの人々に支持されて大ヒットしたと筆者は考えている。歌だけでなく楽曲のあらゆる場面において、人間の気持ちをしっかりと込めたような表現がされているあたりも、多くの人に愛される理由ではないだろうか。
国内外で数えきれないほどのアーティストが「チェリー」をカバー かくして愛される楽曲となった「チェリー」だが、リリースから10年後の2006年、大阪のラジオ局:FM802のキャンペーンソングとしてaiko、押尾コータロー、KAN、斎藤誠、スキマスイッチ、PUFFYなど、様々なアーティストによるカバーバージョンがオリジナルと共にオンエアされた。関連して同年5月には「チェリー」をカバーしたアーティストが集まってのオムニバスイベント『COLORS OF CHERRY』が開催されている。その後も、有名無名を問わず、国内外で数えきれないほどのアーティストが「チェリー」をカバーしている。
「チェリー」は合唱曲としての採用も多い。YouTubeには多数の合唱動画がアップされており、多くの楽譜がダウンロード販売されている。音源としては2014年には千葉県の幕張総合高校合唱団が『桜コーラス』というCDを発売しており、心が洗われるような美しいコーラスを聴かせてくれている。またオルゴール・アレンジも多数存在し、そのメロディは多くの人々を癒している。
CDの売上枚数が160万枚を突破したことは前述したが、2025年11月にはBillboard JAPANチャートにおけるストリーミングの累計再生回数が3億回を突破し、2025年7月には日本レコード協会認定にてダウンロード(フル配信)でのミリオンが認定された。2010年4月から配信されているスピッツ公式の「チェリー」YouTube配信の再生回数も1億3,000万回を超えている。商業的な成功はもとより、時代性を感じさせない「チェリー」は、これからも日本のスタンダードナンバーとして多くの人に愛される楽曲でありつづけるだろう。
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2026.05.25