リリース30周年!渡辺満里奈の名盤「Ring-a-Bell」
毎年恒例、大滝詠一『A LONG VACATION』の発売日に因んで3月21日に展開されるナイアガラ・デイ。今年は1976年の『NIAGARA TRIANGLE Vol.1』 50周年と、大滝詠一プロデュースによる1996年の渡辺満里奈のミニアルバム『Ring-a-Bell』30周年記念リリースの2本立てになる。
『Ring-a-Bell』は1996年3月21日発売。1994年に設立されて大滝が取締役を務めたソニー傘下のOo RECORDS(ダブル・オーレコード)の Yoo-Looレーベルからのリリースだった。レーベルのネーミングは養老の滝に由来するが、読みかたはユールー。1997年にOo RECORDSが活動を停止した後は品番を替え、Sony Recordsから再発されている。2006年には渡辺の20周年記念ボックスに紙ジャケ仕様で復刻された。
6曲入りのミニアルバムだが、本来はフルアルバムの予定であったという。今回のリリースは当時未発表に終わった2曲がプラスされたデラックス・エディションとして、CDとLPで発売される。アナログ盤になるのは今回が初。CDにはさらなる未発表音源も収録される予定だ。
ナイアガラワールドにおける極めて重要なアルバム
渡辺満里奈と大滝詠一のタッグは本アルバム以前からある。それがフジテレビ系アニメ『ちびまる子ちゃん』第2期の初代オープニングテーマとなった「うれしい予感」であった。エンディングテーマの植木等「針切じいさんのロケン・ロール」との両A面シングルとして1995年2月にリリースされた。1988年、小泉今日子に書き下ろした「快盗ルビイ」以来、久々の楽曲提供となった本作には、コンポーザーとしての想いが込められている。
当時関係者に配られたプロモーションCDには、 ナイアガラ宣言と銘打って活動再開に際しての所感が綴られている。戦後50年の年、“60代の植木、40代の大滝、20代の渡辺による3世代ミュージック” であり、さらには “ナイアガラ・トライアングル Vol.3がここに実現しているような気がしてならない” とまで書かれていた。大滝のプロデュースで同年の7月に出された植木のアルバム『植木等的音楽』では、『A LONG VACATION』の楽曲「FUN × 4」がカバーされ、曲中の台詞「散歩しない?」を渡辺満里奈が担当したのもこの上なくうれしい仕掛けであった。これは、オリジナル版における太田裕美のポジションにあたる。
その「うれしい予感」から約1年後に発表された『Ring-a-Bell』は、大滝にとってラッツ&スターの『SOUL VACATION』以来、約10年ぶりとなるトータルプロデュースのアルバムであった。プロモーション用のパンフレットに、"私にとっての『Ring-a-Bell』は、須藤薫さんの「あなただけ I LOVE YOU」で始まった、ナイアガラ第二期を終了するメモリアルなものです" と大滝自らが記している。
そして翌年の大滝自身のシングル「幸せな結末」(1997年)へ。そう、ナイアガラワールドにおける極めて重要なアルバムであることが見えてくる。当時、HMVでの購入者特典として作られた渡辺自身の声による楽曲解説の8cmCD『LINER NOTES BY MARINA'S VOICE』を聴きながら、改めて収録曲を振り返ってみよう。
佐野元春の作詞・作曲、「ダンスが終る前に」
オープニングを飾るナンバー「金曜日のウソツキ」は、大滝とは古くから親交が深い音楽評論家の萩原健太が作曲・編曲。夫人でやはり音楽評論家の能地祐子が作詞している。コーラスにはウルフルズが参加して曲を盛り上げる。ウルフルズは前年5月に大滝の「福生ストラット」のカバー「大阪ストラット・パートⅡ」をシングルリリースしていた。渡辺満里奈は、“おしゃべりも入って私の中では珍しい、これまでなかったようなタイプの曲。素直になれない女の子の気持ちをわかってもらえる曲なんじゃないかな” と語っている。
「ばっちりキスしましょ」はアーヴィング・カウフマンが1926年にリリースした「いちごの片想い」(Tonight You Belong to Me)がオリジナル。能地祐子が可愛らしい歌詞を施している。かつてはシリア・ポールもカバーしていたオールディーズ・ナンバーである。
「ダンスが終る前に」は佐野元春の作詞・作曲。渡辺がナイアガラの扉を開いたのが『ナイアガラ・トライアングル Vol.2』であったことから、大滝が佐野からの楽曲提供を提案したという。スタジオへ激励に訪れた佐野はそのままレコーディングにも参加。当初は「ガール」という原題が付けられており、渡辺は男の子から見た女の子の曲という印象を受けたそうだ。
「約束の場所まで」は渡辺も出演したブルボンのCMソング。アレンジで杉真理が参加した。“最初はコマーシャル用のサビの部分だけがあって、ギター1本で歌うのもいい感じだったんですけど、温かいアレンジで情景を思い浮かべやすく、女の子の微妙な気持ちが出ているんじゃないかと思います。私もスタジオを暗くして歌う工夫をしてみました。ヘッドフォンとかで聴くと、 ムフゥーなんて思っちゃうかもしれないですね” と渡辺は語る。
「あなたから遠くへ」は大滝が初めてプロデュースした女性アーティスト、金延幸子が1972年にリリースしたアルバム『み空』に収録されていた曲のカバー。オリジナルのアレンジは細野晴臣だった。ここでは大滝がボッサ風味を施し、井上鑑がストリングス・アレンジで仕上げている。このアルバムで井上が果たした役割も極めて重要。現在のナイアガラ関連のステージでは必ず音楽監督を務めるキーマンである。
全8曲のフルアルバムが30年越しの実現
そしてラストは「うれしい予感」のアルバムバージョンで締めくくられる。渡辺の声のライナーノーツも、 “このアルバムを聴いてあなたの胸のチャイム(ベル)が鳴ったら私はちょっとうれしいです。” と洒落たメッセージ。以上の6曲に加え、今回のデラックスエディションには、未発表だった2曲、大貫妙子が書き下ろし、井上鑑がアレンジと演奏で参加している「高い空遠い街」と、ジャパニーズポップスのルーツを渡辺と大滝で共唱した「冬の星座(Duet with 大滝詠一)」が収録され、全8曲のフルアルバムが30年越しの実現となる。
昨年のナイアガラ50周年記念コンサートにも参加して、ナイアガラファミリーの末娘を自称していた渡辺満里奈。久々に「うれしい予感」と「ダンスが終る前に」を披露して大喝采を浴びていた。ソロデビュー40周年を迎え、今年もまたステージで歌を聴かせてくれる機会がありそうで楽しみしかない。末娘サン、どうかよろしく頼みますゾ。
*本稿では大瀧詠一でなく、大滝詠一という表記に統一しています(編集部)
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2026.03.02