1995年 4月5日

【ミリオンヒッツ1995】スピッツ「ロビンソン」YouTube1.9億再生の国民的ポップソング

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リレー連載【ミリオンヒッツ1995】vol.3
ロビンソン / スピッツ
▶ 発売:1995年4月5日
▶ 売上枚数:162万枚

シングルA面に選ばれたことに疑問を感じていた「ロビンソン」


大ヒット曲がこの世に誕生したその瞬間、生み落としたアーティスト当人の反応は大きく2パターンに分かれるようだ。1つは手応え十分の会心の出来に快哉を叫ぶパターン。たとえば「CROSS ROAD」の制作段階で、Mr.Children 桜井和寿は “遂に100万枚セールスする曲ができた!” と叫んだという。

一方で、それといった感慨もなく粛々と曲が生まれることもある。スピッツの「ロビンソン」はこのパターンに当てはまる。その名曲ぶりを思えば信じがたい話ではあるが、当初草野マサムネは候補曲の中から「ロビンソン」がシングルA面に選ばれたことに疑問を感じていたというのだ。

つまり「ロビンソン」は、シングルのカップリング曲や、アルバム収録曲として世に出る可能性も十分あったわけだ。それでも「ロビンソン」ほどの楽曲であれば、“隠れた名曲” 的な立ち位置でじわじわと支持を集め、結果的には大ヒットの運命を辿っていたようにも思える。

そんなシンプルながら恐ろしいほどの個性と普遍性を兼ね備えた永久不滅のスタンダードナンバー「ロビンソン」は、この4月でリリースから早30年を迎える。

阪神・淡路大震災が起こった当日の1月17日にレコーディング


ちょうど30年前の1995年、日本は絶望と不安に覆われていた。年明けすぐに起こった阪神・淡路大震災による未曾有の大被害。まだその慌ただしさが続く中、3月にはオウム真理教による無差別テロ、地下鉄サリン事件が発生した。

「ロビンソン」は、その大震災が起こった当日の1月17日にレコーディングされたという。当時のスピッツは “ブレイク間近” という位置付けの若手アーティストだったが、そうしてプッシュされた期待株のほとんどが、ブレイクを果たせず志半ばで業界を去ってゆくのもまた事実だった。現にスピッツは前年にリリースした4作目のアルバム『空の飛び方』が初めてオリコンチャート初登場14位とスマッシュヒットを記録したものの、それまでの3作は100位圏外と苦戦。またシングルも30位前後に留まっており、お世辞にもブレイクが約束されているような立場ではなかった。

時を同じくして、アマチュア時代の同志かつライバル関係にあったMr.Childrenが空前の大ブレイク。セールス面だけで見れば、途方もないほどの大差をつけられた格好だった。おそらく多少の焦りもあった中で、スピッツは通算11枚目のシングル「ロビンソン」を、それといったプロモーション活動もなく控えめにリリースした。



約160万枚という驚異的なセールスに到達


ところが周囲の予想に反し、「ロビンソン」は絶大な反響を呼んだ。初登場でチャート9位に食い込み、バンド初となるシングル、アルバム通じてのトップ10入りを果たしたのだ。その勢いは一過性に留まらず、初夏の5月から梅雨の6月を経て、蝉時雨の響く7月に至るまでトップ10の座を守り、安定した人気を誇った。

当時は多くの音楽番組が週間チャートを重視しており、モノクロ映像が印象的な「ロビンソン」のミュージックビデオは、数ヶ月にわたって各局の音楽番組で繰り返しオンエアされた。その結果、最高4位ながら数字以上のインパクトをもたらし、異例のロングセラーを記録。最終的に約160万枚という驚異的なセールスに到達し、年間チャートでも堂々9位に輝くなど音楽史に名を刻んだ。

結成8年目にしてようやく実現したブレイク。それも特大のメガヒットとなったが、 “すごいバンドが出てきたぞ” と色めき立つ世間の盛り上がりとは裏腹に、あまり積極的にメディア出演しなかったのも、いかにもマイペースを貫くスピッツらしい。

試行錯誤の末に辿り着いたのがアコースティックの要素を取り入れたサウンド


 
 新しい季節は なぜかせつない日々で
 河原の道を自転車で 走る君を追いかけた
 思い出のレコードと 大げさなエピソードを
 疲れた肩にぶらさげて
 しかめつら まぶしそうに

「ロビンソン」はどこかフォークソング的なムードが漂う作品だ。個性的なファッションでお馴染みのギタリスト・三輪テツヤによる美しいアルペジオのイントロから始まり、「♪河原の道」「♪思い出のレコード」といったフレーズがほんのりとノスタルジーを呼び起こす。横文字のタイトルや歌詞が急増していた当時の音楽シーンにおいて、こうした世界観はひと昔前の温かみと共に新鮮な魅力を放っていた。

実際、スピッツはごく初期に “フォークロック” というキャッチコピーで売り出されていたこともある。しかし、初めからフォークリバイバルを目指したグループだったかといえば、全くそうではない。何しろスピッツの結成当初はパンクバンドを志しており、何年もかけて方向性を模索しながら試行錯誤の末に辿り着いたのがアコースティックの要素を取り入れたサウンドだった。

スピッツのアイデンティティは、まさにその “試行錯誤” にこそ宿っているのではなかろうか。彼らは単純にフォークの伝統を受け継いだわけでも、1980年代バンドブームの模倣でもなく、結成から苦節を経て草野マサムネを中心とした4人による独自の音楽スタイルを形成していったのだ。

“宇宙の風” を表現する絶妙な言語センス



 ルララ 宇宙の風に乗る

「ロビンソン」といえば、あまりにも有名なこのフレーズ。「♪ラララ」ではなく「♪ルララ」。こんなオノマトペは他に聴いたことがないし、凡人がどれだけ頑張っても思いつかないような不思議な語感である。しかし、“宇宙の風” を表現するのであればこれしかないという、あまりにも絶妙な言語センスには思わず感嘆してしまう。

記憶がおぼろげながら、当時どこかのテレビ局がヒットソングにおける歌詞の時代変遷のような特集を組んでいて、この「♪ルララ」が昭和の歌謡曲には無かった今日的な語感なのだと、大学教授か誰かが解説していたのを見た。言われてみれば、従来の歌謡曲なら “僕は” 宇宙の風に乗るとか、“君と” 宇宙の風に乗るとか表現していたかもしれない。

ただ、この解説は半分正解で半分間違いだと私は思う。そもそも宇宙空間でいわゆる “風” は吹かないのでは? という野暮なツッコミは置いておくとして、フォーク然とした長閑な風景から一転して宇宙にまで飛躍する表現の振り幅も含め、これは平成以降のアーティストゆえに書けるものではなく、あきらかに草野マサムネだからこそ書ける歌詞だ。「♪ルララ」はその豊かな才能を端的に示した3文字だといえよう。

YouTube公式チャンネルで驚異の1.9億再生回数


後に、草野自身が “なぜあの曲がこんなに長く売れているのか、と当時抱いた疑問の答えはいまでもわからない” と述懐しているように、「ロビンソン」は大型タイアップを獲得したわけでもなく、ことさら広告宣伝に予算をかけたわけでもない。

しかし、あれから30年経っても色褪せるどころかますます評価は高まる一方で、なんとYouTube公式チャンネルでのミュージックビデオは1.9億再生回数という驚異的な数字を叩き出している。時代、そして世代を超えてリスナーの心をつかむ「ロビンソン」は、もはや “国民的ポップソング” の地位を確立したと言ってもいいだろう。



【参考資料】
『旅の途中』草野マサムネ(幻冬社)

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2025.03.30
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カタリベ
1985年生まれ
広瀬いくと
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