1987年、香港ノワール『男たちの挽歌』が大ヒット。続編『男たちの挽歌Ⅱ』のほかに、その後も次々と香港からド派手なガンアクション映画がやってきた。『狼 男たちの挽歌・最終章』とか『ハードボイルド 新・男たちの挽歌』とか。ジョン・ウー監督の男臭い演出には、たしかにハマりまくっていたが、映画ファンにとって許せないある現象が起こっていた。
「コレ、『男たちの挽歌』じゃないじゃん!」
配給会社が付けた邦題にまんまとハメられて『男たちの挽歌』の続編でも何でもない、まるで別の映画を観せられていたのだ。それがたとえ面白かろうが関係ない。パチモンのファミコンソフトに引っかかったようなものである…
そんな折、時任三郎さんが香港映画に出ると言うので観に行った映画が『アゲイン/明日への誓い』だった。その邦題は当時「24時間、戦えますか?」というキャッチフレーズが流行語になった栄養ドリンク・リゲインに確実にかけている。嫌な予感…。そして、私はまたしても配給会社の「やりたい邦題」に騙されるのであろうか。
時は1974年、ベトナム戦争末期のサイゴン。軍刑務所にぶち込まれた従弟(レオン・カーフェイ)を助けるために保釈金を持って香港からやってきた主人公マークに人気絶頂のチョウ・ユンファ。その敵として登場するベトナムのヤクザ社会を支配する中国系ベトナム人・ホーに時任三郎(父親は日本人という設定)。そして、映画が始まった途端、『英雄本色Ⅲ』という中国語のメインタイトルが流れる。
「オイ、ちょっと待て!これ『男たちの挽歌』だよ!!!」
英雄本色というのは『男たちの挽歌』の原題であり、正統なシリーズであることを意味している。そう、この映画はパチモンではない待ちに待った本物だったのだ。それなのに、まるで別の映画であるかのような邦題で宣伝されたせいで、私は何も知らずに劇場に入り映画を観て初めて気付いたという次第。
そして、映画の冒頭には耳慣れた曲が流れる。近藤真彦の「夕焼けの歌」(1989年)のインストゥルメンタルである。前作までは銃撃戦メインのヤクザ映画、そのパート3のサウンドトラックが導入部分から日本の歌謡曲とはあまりに意外な組み合わせ。監督は2作目までプロデューサーを務めたツイ・ハークなのだが、同曲の優しい旋律を用いて大胆にも映画のストーリーを恋愛ものにシフトチェンジさせてしまう。今まで通り派手な銃撃戦はあるものの、男女の三角関係などのメロドラマが中心で肩透かしを食らうことになった。
ユンファと時任三郎が同時に愛してしまうヒロイン、キティをアニタ・ムイが演じているのだけれど、彼女がエンディングで朗々と感情を込めて歌う「夕陽之歌」は素晴らしかった(夕焼けの歌のカヴァー)。気が付くとアニタの美しい歌声に胸がいっぱい。「斜陽無限無奈只一息間燦爛(夕陽は無限なのに、煌めくのはホンの一瞬)」…愛する男の腕の中で息果てるヒロインの横顔がいつまでも忘れられず心に残っている。
夕陽之歌 / アニタ・ムイ(梅艷芳)
作詞:陳少琪
作曲:馬飼野康二
発売日:1989年(平成元年)8月
■ 男たちの挽歌シリーズ
『男たちの挽歌』(1987年日本公開)
『男たちの挽歌Ⅱ』(1989年日本公開)
『アゲイン/明日への誓い』(1990年公開)
■ ジョン・ウー監督&チョウ・ユンファ主演の別作品
『狼 男たちの挽歌・最終章』(1990年日本公開)
『ハードボイルド 新・男たちの挽歌』(1992年公開)
2016.11.03
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