10月26日

小泉今日子「快盗ルビイ」インテリキラーアイドルは大瀧詠一キラーアイドル?

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インテリ層に好まれるアイドルたちの共通点は?


“インテリキラーアイドル”がいる。

読んで字のごとく、インテリ層に好まれる女性アイドルである。

古くは、1970年代の南沙織サンがそうだった。一般にアイドルと言えば、天地真理やアグネス・チャンら少女たちの憧れの存在だったのに対し、南サンは大人も堂々とファンを名乗れる希少なアイドルだった。吉田拓郎サンが「シンシア」という曲を作ったり、ティン・パン・アレーが彼女のバックバンドを務めたり、映画監督の羽仁進や作家の大岡昇平らお堅い人たちもファンを公言した。

80年代前半は薬師丸ひろ子サンが、それに近いポジションだった。彼女を発掘した角川春樹社長はもちろん、主演映画を2本撮った相米慎二監督や、カンヌ国際広告祭で金賞を受賞した資生堂のロングCM「色」をディレクションした実相寺昭雄監督ら、彼女と仕事をした大人たちは、みんな彼女の虜になった。当時の男子大学生が部屋に唯一貼ることが許された女性アイドルのポスターが、薬師丸サンだった。

90年代前半は渡辺満里奈サンがそのポジションにいたと思う。とんねるずの2人から可愛がられ、あのフリッパーズギターから楽曲「大好きなシャツ」を贈られ、あまつさえ解散の原因とも噂され―― 極めつけは、アニメ『ちびまる子ちゃん』の主題歌「うれしい予感」を作詞・さくらももこ、作曲・大瀧詠一の “神座組” で提供されるという、見事なインテリキラーぶりを発揮する。

ちなみに、今ならPerfumeの3人がそのポジションに近いだろうか。そんなインテリキラーアイドルたちに共通して言えるのは、ファンがそれを公言することでちょっと賢く見えることと、作り手の創作力を掻き立てる伸びしろである。広告との相性も比較的いい。

80年代後半の “インテリキラーアイドル” 小泉今日子


で―― 今回の本題だけど、80年代後半にそのポジションにいたのは、KYON² こと小泉今日子サンだったと思う。同期の中森明菜サンがディーバ(歌姫)的な貫禄を身に着ける一方、小泉サンは軽やかに自己表現しつつ、周囲の大人たちとのコラボレーションも楽しんでいる風に見えた。

秋元康サンとのコラボで「♪なんてったってアイドル」と一周回ってアイドルを謳歌したり、コピーライター仲畑貴志サンとのコラボで「ベンザエースを買ってください」とCMでストレートに言い切ったり――。

そんな小泉サンの伸びしろの魅力は、あの映画でもいかんなく発揮された。時に、1988年11月12日に公開された和田誠監督のロマンチックコメディ『快盗ルビイ』と、その17日前の10月26日にリリースされた大瀧詠一作曲の同名主題歌である。

KYON² 主演映画「快盗ルビイ」、同名主題歌を手掛けた大瀧詠一


 キラキラダイヤモンド
 赤いルビイも輝く夜
 夢みれば上がる温度
 光るエメラルド心はおどる

もう、その座組からしてインテリキラーアイドルの本領発揮だ。本映画の監督を務めた和田誠サンは、三谷幸喜サンのエッセイの装丁などイラストレーターの仕事で馴染み深いけど、実は著書『お楽しみはこれからだ』シリーズでも知られる当代きっての映画通。初監督作品の前作『麻雀放浪記』が、1984年度キネマ旬報ベストテン4位に選ばれたのは、決してビギナーズラックではない。当時の本作への期待の高さが分かるというもの。

そして、主題歌を手掛けたのは、御大・大瀧詠一サンである。ご存知、1981年にリリースしたアルバム『A LONG VACATION』がミリオンセラーの大ヒット。80年代は他の歌い手への楽曲提供も活発で、太田裕美サンに「さらばシベリア鉄道」、松田聖子サンに「風立ちぬ」、森進一サンに「冬のリヴィエラ」、薬師丸ひろ子サンに「探偵物語」、小林旭サンに「熱き心に」―― 等々といずれも爪あとを残しており、こちらも期待せずにはいられない。

和田誠監督が描くロマンチックコメディ、その作風は?


映画のテイストは、和田監督が信奉するビリー・ワイルダーやヒッチコックの作品を彷彿とさせる、50年代のハリウッド映画黄金期の匂いがする。後年、三谷監督に受け継がれる、あの作風だ。

キャストは、主人公・快盗ルビイを演じる小泉サンに、それに振り回されるサラリーマンの相棒役に真田広之サン。基本はこの2人のやりとりで進み、オムニバス作品のごとく5つの“盗み”の話が展開される。そこに、天本英世サンや吉田日出子サンら名優たちがカメオ出演するという、映画マニア垂涎ものの作りになっている。

ちゃんと原作があって、ヘンリー・スレッサーの短編集『快盗ルビイ・マーチンスン』がそう。彼は、アメリカのテレビドラマシリーズ『ヒッチコック劇場』の脚本も手掛けており、ここにもヒッチコックを崇拝する和田監督のオマージュぶりが伺える。

但し、原作は主人公が男性で、相棒である語り部はその従弟。和田監督は主人公を女性に、2人をマンションの上下階の他人の設定に改変することで、男女のロマンチックコメディに仕立てたのである。

チャーミングな楽しい映画「怪盗ルビイ」


物語は、さして難解ではない。。ある日、真田広之演ずるさえないサラリーマンの徹の住むマンションの上の階に、小泉今日子演じるスタイリストの留美が引っ越してくる。ひょんなことから2人は親しくなるが、留美は徹に自分の正体は犯罪者のルビイだと打ち明ける。ところが彼女―― 犯行計画は立てるものの、まだ一度も実行に移したことはないという。

「協力して。私と組むの」
「ダメだよ。僕は犯罪者向きじゃないよ」

―― と嫌がりつつも、気がつけばルビイに押し切られ、相棒として犯行計画に加担する徹―― この気弱な真田サンと、チャーミングにグイグイ押してくるKYON² のやりとりこそが、この作品の魅力である。公開前に、和田監督はこんな風に同映画を紹介している。

「犯罪映画だけど血は流れない、恋愛映画だがベットシーンはない、コメディーだけど、コメディアンは出ない。ないないづくしだけど、チャーミングな楽しい映画です」

事実、劇中のKYON² はとても魅力的である。さすがスタイリストの設定だけあって(世を欺く仮の姿だけど)、ルビイのファッションや髪型はいつもオシャレ。多分、和田監督は彼女をオードリー・ヘプバーンに見立てて撮ったんだと思う。一方の真田広之サンは運動音痴の冴えないサラリーマン。いわばジャック・レモン的な役どころ。自転車にすら乗れない設定で、見事な転倒を見せてくれる。言うまでもなく、運動音痴の演技は、運動神経がよくないと出来ないもの――。

劇中でかかる挿入歌「たとえばフォーエバー」のシーンは、ちょっとミュージカル仕立てになってて、キュートな魅力全開のKYON² の歌声とパフォーマンスを堪能できる。

挿入歌「たとえばフォーエバー」小泉今日子のキュートな魅力が全開


 この部屋の隅で 涙ぐんでるより
 星屑の海で 泳いでいたいな
 りんごひとつもいで 噛ればすっぱい
 あたしの思い出 たとえば苦さもいっぱい

驚くことに、同曲は和田監督の作詞作曲である。劇中でも屈指の名シーンで、往年のハリウッド映画黄金期をオマージュする監督の思いが伝わってくる。ある映画人の言葉「映画の半分は音楽で出来ている」は本当かもしれない。

そして、ラスト――。
すったもんだがあって、ルビイはいつも隣りにいる、この冴えない男こそが、自分にとって大切な人だと気づく。劇中、徹はずっと度の強いメガネをかけているが、ここでルビイは徹のメガネを外す。

「……ハンサムね」
「知らなかった?」

ルビイは微笑むと、徹の首に手を回し、熱い口づけをする。徹もルビイの背中を抱きしめる。しばし、2人の時間が流れる。その周りをゆっくりとパンするカメラ。ある映画人の言葉「映画は、女優とラストシーンで出来ている」は本当かもしれない。

エンディング――。
また、新たな犯行計画を話し合う2人。笑顔だ。窓辺に並んで夜空を眺めつつ、2人の話は尽きない。そこへ主題歌「快盗ルビイ」の前奏が流れる。作詞:和田誠、作曲:大瀧詠一。映画版の編曲は御大ではなく、映画音楽のベテラン八木正生サンが手掛けている。

なるほど、この古き良きハリウッド映画を思わせる手練のイントロを監督は求めたのだろう。ちなみに、和田監督と八木サンは、フジテレビの『ゴールデン洋画劇場』の2代目タイトルバック(1981年4月~1995年9月)でもタッグ(イラスト:和田誠、音楽:八木正生)を組んでいる。

大瀧詠一作曲の主題歌「怪盗ルビイ」


 ねらいをつけたら
 もう逃がさないから
 海賊が埋めたあの宝
 手に入れたらすぐサヨナラ

もう、一聴した瞬間、御大の仕事と分かる珠玉の大瀧メロディである。ソングライターには2種類あって、楽曲を提供する歌い手の世界観に合わせるタイプと、一貫して軸足を変えないタイプである。御大の場合、明らかに後者。だが、その歌い手に力があると、逆に大瀧サンの世界へ寄せてくる。結果、その歌い手の新しい世界が開ける。松田聖子サンの「風立ちぬ」がそうだった。そして、KYON² もまた、大瀧メロディに寄せることで、彼女の新たな表現力が生まれようとしていた。

 誰かの熱いハート
 盗んでいたのいつのまにか
 はばたく 天使の鳩
 今度の恋は たしかに間近

そう言えば、御大は薬師丸ひろ子サンと小泉今日子サンと渡辺満里奈サンと、都合3人のインテリキラーアイドルに楽曲を提供している。
もはや、大瀧キラーアイドルと言い換えてもいいかもしれない。

40周年☆小泉今日子!

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2022.03.14
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カタリベ
1967年生まれ
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