出会ったときが新曲!世代を超えてつなぎたい50年前の名曲 vol.5▶ タイトル:屋根の上の猫
▶ アーティスト:PANTA
▶ 収録アルバム:PANTAX'S WORLD
▶ アルバム発売日:1976年4月25日
伝説というイメージを背負った頭脳警察とPANTA
1976年4月、筆者が小学4年に進級するのとほぼ時を同じくして、PANTAのファーストソロアルバム『PANTAX'S WORLD』がリリースされた。当然だが、テレビだけが情報源だった田舎の子どもだから、ダウン・タウン・ブギ・ウギ・バンドは知っていても、PANTAや頭脳警察の名など耳に入るはずもない。筆者とPANTAの初遭遇は、おそらく1980年の映画『狂い咲きサンダーロード』でPANTA&HALの楽曲を耳にしたときだろう。
政治的にラジカル過ぎて、放送の電波にほとんど乗ることのなかった頭脳警察が、今や伝説として語り継がれているのはご存じのとおり。反体制や社会闘争を歌にしたことでレコードは発売中止や発禁処分を受け、その事実が “伝説” を強固なものにしているが、PANTAの回顧録『PANTA自伝 1 歴史からとびだせ』(K&Bパブリッシャーズ)によると、これは少々重荷だったようだ。“頭脳警察というバンド名で、何をやろうと俺の勝手だ、と思ったんだけど、イメージの方が強大だった” と彼は振り返る。発禁になるようなレコードをファンは期待する一方で、PANTA自身には他にやりたい音楽がたくさんあったのだ。
ラブソングを歌いたかったPANTAがたどり着いた「屋根の上の猫」
そんなこんなで頭脳警察を解散したPANTAが、最初に発表したアルバムが『PANTAX'S WORLD』。書き溜めていた曲の中には、頭脳警察ではやれないようなラブソングも多く、当初はそういう楽曲でアルバムを作ろうとしていた。ところが、他のアーティストたちのコンサートをめぐるうちに “改めて、今の日本のロックは軟弱だと思った” とのこと。結果、このアルバムは頭脳警察の延長線上というべき内容、PANTAいわく “ナタでぶった切るような音楽” になった。
全7曲、どれも花も棘もあるロック&ブルース・ナンバー。先述の軟弱ロックに言及した「ロックもどき」や、シュールな詞を連ねた9分におよぶ大作「マーラーズ・パーラー」、ボ・ディドリー風のリズムから高速ロックンロールに転調する「三文役者」など、聴きどころは多く、個人的にも大好きな曲ばかりなのだが、どれかひとつとなると、やはりアルバムの顔というべき1曲目にして、シングルにもなった「屋根の上の猫」について触れたい。
PANTAのハードなボーカルに呼応する Charのギターフレーズ
トランペットの独奏による静かなイントロは “ワン、ツー、スリー・フォー!” というPANTAのシャウトによってぶった切られ、怒涛のハードロックに突入。耳を引きつけるのはなんといっても、勢いのあるブラスセクションだ。歯切れがよいし、とにかくエッジが効いている。PANTAX HORNSと名付けられたこのブラス隊は、この曲の他にも5曲でソウルフィーリングあふれる力強い音色を響かせている。
サウンド面でもうひとつ特筆すべきは、ギターに竹中尚人、すなわちCharを起用していること。ホーンが前面に出ているため聴き逃しがちだが、荒々しくも小刻みなカッティングや、PANTAのハードなボーカルに呼応する、短いながらもインパクト大のフレーズが、とにかくかっこいい。彼もまた、このアルバムでは5曲に参加している。
さて、肝心の歌詞だが、ラブソングといえばラブソング。しかし、そんなに単純ではない。「♪瓦に頬をすり寄せて 俺はきみになる 身体に愛をつきさして きみは俺になる」という血が噴き出るような状況から「♪俺はいつか なぜか きっと猫になる そして そのまま Ah また屋根の上」というシュールなサビへ。PANTAが傾倒していたシュルレアリスムの影響が色濃く出たような歌詞なのだ。正直、難解だ。しかし、PANTAがシャウト気味に歌うと、意味がわからないなりに説得力を帯びる。
PANTAはなぜ「屋根の上」に戻ったのか?
難解で済ませるのもナンなので、自分なりの解釈をしてみる。先に述べたとおり、50年以上前、頭脳警察はラジカル過ぎた。世間に広く届く音楽というより、屋根の上でうなっているようなアウトサイドの存在だった。そこから離れ、ソロになってラブソングという地上の歌を歌おうとしたものの、表現の狂暴さゆえに、やはりまた屋根の上にいる。そんな自分のことを歌ったのだろうか…… などと考えた。社会批判めいた歌詞ではないものの、屋根の上から地上を眺めるような、PANTAらしいシニカルな視線も透けて見える。そういう意味では、この時点でのPANTAにとって、アーティストとしてのステートメントのような曲ともいえるのではないか。
ちなみにアルバム『PANTAX'S WORLD』にもシングル「屋根の上の猫」にも、リリース時のレコードには歌詞が掲載されていない。これは、聴き手のイマジネーションを大切にしたいというPANTAの強い希望によるもの。したがって、先に記した「屋根の上の猫」の歌詞も筆者の聞き取りによるものである。イマジネーションに正解はない。それは聴く人間の頭の中に、つねに広がっている。そういう意味でも、「屋根の上の猫」のシュールな世界観は今聴いても斬新だ。
『PANTAX'S WORLD』のジャケットには屋根の上に立つPANTAの姿がとらえられ、その後ろにはテレビのアンテナが立てられている。頭脳警察で悪名を馳せたPANTAがこの頃、テレビ番組に呼ばれて歌うことはほとんどなかった。それを思えば、皮肉なジャケットだ。地上の波に乗った曲は確かに多くの人に届きやすい。その点、アンテナを通さず、屋根の上で歌われる曲は、限られた人にしか届かない。それでも、時にそれは上から下へ、加速度とともに聴き手の体に突き刺さる。
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2026.09.24