2月20日

トラブルなんて当たり前、洋楽アーティストの来日と歌番組ブッキングの裏事情!

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私はほぼ80年代を CBSソニー洋楽の制作ディレクターとして多数のアーティストのマーケティングとプロモーションにたずさわってきました。

洋楽はご存知の様に国内にアーティストは不在です。アーティストを売り出す時には、質量ともに十分なパブリシティを露出しなければいけません。そのためには絶対に本人の協力が必要になります。海外に乗り込む場合もありますが、まずはプロモーション来日の要請をかけます。特に大型の TV 番組に出演させたい時は、まずは本人が日本にいないと話になりません。そういう、特に歌番組ブッキング時の想い出です。

ちなみに80年代当初は、洋楽アーティストが出演できる TV の大型歌番組と言えば、『夜のヒットスタジオ(夜ヒット)』でしたが1986年秋からは『ミュージック・ステーション(Mステ)』もスタートしています。以降、この二つの番組は、アーティストや音楽のタイプにもよりますが、プロモ来日の主たる目的になっていました。

出演が決まると、営業の動き的にも CD ショップに対して、その新譜の追加オーダーや店頭展開プッシュの絶好の後押しになっていました。日本のメディア、特に TV 事情をよく知るアーティストサイドからは、大型 TV 番組出演が可能ならプロモ来日してもいい、という逆の条件を突き付けられる事もありました。TV 局からしていても、お茶の間にガイジンを出すわけですから、それなりの知名度の高さや話題の人でないと困るわけです。

実はこういう悩みもありました。どちらの番組でもブッキングを欲しがる人気アーティストの場合です。これは大変でした。二つの番組に出演できれば最高ですが、それはあり得ないのです。『夜ヒット』は水曜日。『Mステ』は金曜日の生放送で、それぞれがライバル番組です。プロモ来日期間中に水曜日と金曜日の両曜日が含まれる時は、結構難しい判断を迫られたこともあります。

どちらかを選ぶと、片方にどう説明するのか。共に今後の付き合いもあるし、真剣に悩みます。国内ものでしたら、社内にも沢山アーティストいますしマネージメント事務所もあります。仮にどちらかの番組を贔屓せざるをえなかった場合でも、なんとかお返しができる他のアーティストがいたり企画があったりと、メディアとの持ちつ持たれつが成立しますが、アーティスト不在の洋楽ではそうはいきません。

日程が多少調整できる時は、出演させたい方の曜日を含むスケジュールを作りあげたこともあります。片方には、“すみません、日程が合わずに…” という堂々とした説明ができるというものです。

無事ブッキングできると次のテーマは、洋楽アーティストが一番苦手な長い待ち時間の対応です。日本の歌番組はセットの豪華さでも分かるように、番組の作り方が丁寧です。リハーサルからランスルーまで、衣装に合わせた照明の調整やカット割りまで含めて、時間をかけてクオリティ高いものを作ります。しかも出番終わっても、最後までスタジオにいなければなりません。それでも洋楽アーティストは特別扱いされてスタジオ入りは遅めの時間だったはずですが、3分間の出演に5~6時間くぎ付けされるというわけです。

この長い待ち時間を、如何に飽きさせずに、文句言わさずに、本番までご機嫌に過ごさせるかが、大事な仕事でした。洋楽アーティストの場合は、ゲストとして特別な応接室が楽屋代わりに用意されています。

ここで、仲間のラジオ担当者の出番です。全国のラジオ番組へのメッセージ録りを行います。番組名や DJ の名前を呼んでもらったり、あらかじめもらっていた質問に答えたり、と、このラジオ ID 録りはこちらも慣れたものですし、来日時には必ずどこかでやらねばならい定番の作業でした。

地方の TV 番組用には、それなりの撮影機材も持ち込んで映像メッセージも撮ってました。当時は色々と番組も多かったので、AM、FM、TV あわせて50番組分ぐらいはあったかもしれません。これは結構、間がもちましたね。

また、この待ち時間を利用して一度だけ他メディアの取材をいれたこともありました。これはケニー・ロギンスの時だったと思いますが、他の日が都合悪く、こちらとしては一石二鳥のつもりで、そういう時間にインタビューをやりました。リハなどの進行によって取材時間が不確定だという事を理解してくれた上での事でしたが、双方とも集中できず、あまりいい取材にはならなかったです。こういうのはこの一回だけでした。

所詮は時間つぶしですから、ラジオ ID や番組や読者プレゼントなどで使えるようにサイン色紙に署名させたりなどの作業系の方が向いているようです。そうやって、長い時間を有効に使いつつ、アーティストからクレームを言わせないように、色々と工夫していました。


待ち時間といえば、こういう傑作な話もあります。バンドは TOTO。『夜ヒット』への出演で楽屋の特別応接室に入ります。このバンドは、マネージャーを始めとして、子どもじみた可愛いやんちゃボーイズです。ホテルの部屋で熟睡している仲間の部屋に忍び込み、こっそりベッドを廊下に出したり、部屋をノックして、寝ている仲間を起こして顔出した瞬間に、廊下に引きずり出して部屋のロックをかけたり、と、いかにもカリフォルニアのいたずら小僧がそのまま大人になった… という具合です。

隣の応接室は北海道のある有名な文化人でした。他の番組の収録でいらしたようで、不用心にも部屋にロックをかけないでスタジオに入ってしまいました。応接室入り口付近をブラブラしていた TOTO の面々、無人の隣の部屋を見つけました。興味津々です。ここからが彼らの真骨頂です。

部屋にはカメラが残されていました。これを見たメンバーとマネージャー。何をするかと思えば、そのカメラを手に取りました。何を撮ろうとしているのか、互いにズボンを下ろして、お尻をアップで撮り合ってます。「コラコラ!」ですね。そして何事もなかったような顔して、カメラを元の位置に戻し、自分達の部屋に戻りました。


こちらは待ち時間ではなく番組収録のエピソードです。バングルスの『夜ヒット』出演時の事。リハが終わって、マネージャーから呼ばれました。“ガールズのショットはみんな均等な長さでなければならないから、TV プロデューサーに伝えてくれ” と。

ガールズバンドにはよくある話です。リハでのカット割は当然ですが、ほとんどがフロントのスザンヌ・ホフスです。彼女の流し目がまた魅力的なバンドでした。どんなバンドでも例外なくリード・ヴォーカリストがグループの顔として長い時間映るものです。そうでなければいけません。

私は、“分かった、そう伝える” と返事して、TV 局側に伝えるフリだけでした。あり得ない話ですね。そんなこと、怖い番組プロデューサーに言えるわけありません。でも、これが生放送のいいところです。いざ本番が始まったら誰も何も言えません。3分たったら全てが終わってます。マネージャーにしても、本番のカット割りは見ているはずですし、ほとんど他のメンバーは映ってない事も分かったはずです。でも何も言いません。ただ彼は自分の仕事として、私に伝えたというだけだったのかも知れませんね。


ところが、ウィリー・ネルソンの『夜ヒット』出演では、私の仲間が苦労していました。スケジュール的に本番当日の夕方成田着です。これがそもそもきついわけですが、成田から TV 局に直行しなければいけません。ところが、車中、“TV 生出演の話は聞いてない” とか、そういうとんでもないレベルで事件が勃発しました。“TV 局に行きたくない、ホテルに行きたいシャワー浴びたい” とすったもんだありますが、車の主導権はこちらですから、まずは TV 局に強引に連れて来たのです。

やや観念したものの、歌う曲数が2曲、その曲名を聴いたら、今度は“最近歌ってないから歌えない” と言います。そんなことはありません。しっかりツアーで歌っているのですから。もちろん、スタジオのセットは、その曲のイメージで立派なものが作られていました。

『夜ヒット』のセットはその豪華さでも有名でした。それだけに、このあたりの “出演、聞いてない” のクダリを番組側に伝える事などできません。無事楽屋に入りました、とだけ伝わっています。もう、どっちみちぶっつけ本番しかできない時間です。

何よりもフジ TV 看板の生放送で、まさかドタキャンできるわけありません。私の上司が土下座して懇願した末 “違う曲ならやってもいい” と、彼らから提案。本番は近づいてます。こちらは、もう死んだつもりでプロデューサーに伝えるしかありません。今度は TV 局スタッフに土下座して、彼らが提案した2曲に変更してもらいました。違和感あるセットでしたが、本番はカメラも照明も全てアドリブ。歌も見事な出来映えで、番組スタッフも安堵のため息をつきました。私の上司は帰り際に “もう番組に来ないで下さい”、と、出入り禁止の一言もらいました…。

もちろん全てのやり取りは来日前の事前交渉で確認されているわけです。CBS を経由して先方のしかるべきスタッフと話をしているものの、プロモーション来日の時には、この期間だけ雇われるマネージャーもいます。本国での意思疎通の問題があったとしても、到着して、なにより真っ先に取材スケジュールを綿密に確認します。しかし、ウィリー・ネルソンの場合では、この時間がなかったがための悲劇でした。


といった具合で、今回はTV歌番組ブッキングで経験した一部をご紹介しました。歌番組だけでなく、色々な TV 番組と付き合ってきました。ブッキングして、何も問題なく収録が終わる、というケースの方が少ないかもしれません。ですから、現場では、いつもトラブルがある、という覚悟で挑んでいました。それだけ打ち合わせしても、それはマネージャー相手の事。本人が直接取材の打ち合わせにアテンドすることはありません。後は、マネージャーと本人のコミュニケーションに期待するしかないのです。

2019.06.26
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カタリベ
1950年生まれ
喜久野俊和
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