11月25日

全アルバム一斉配信【ザ・ルースターズ】大江慎也と花田裕之が放つ唯一無二の存在感!

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バンドが生命体であるかのように変化を厭わず、駆け抜けたルースターズ


2023年11月1日、ザ・ルースターズ(以下ルースターズ)が日本コロムビアからリリースした10枚のオリジナルアルバムにライブアルバム、シングル&EPを加えた全118曲のデジタル一斉配信が開始された。バンドが生命体であるかのように変化を厭わず、駆け抜けた約8年間の軌跡は、数多くのミュージシャンがその影響下にあり、リアルタイムを知る音楽ファンのみならず、若い世代にまで、その存在感と音楽性の豊潤さはしっかりと継承されている。

デビュー期のメンバーは大江慎也(ボーカル)、花田裕之(ギター)、井上富雄(ベース)、池畑潤二(ドラムス)。1974年に池畑らが結成したバンド ”薔薇族” に大江が加入、その後大江、池畑は “人間クラブ” 結成に参加。これを母体として1979年にザ・ルースターズは結成される。そして1980年11月1日、シングル「ロージー」でレコードデビュー。

初期ルースターズは、マスコミが “めんたいロック” と称した博多、北九州周辺のバンドがそうであったように、この土壌ならではのメインストリームの流行に感化されない独自性が極めて高かった。それは、ブルースから始まり、60年代のブリティッシュ・インヴェイジョン、70年代のパブロックなどルーツに回帰した音楽的背景を内包させながら、オリジナルに昇華させているというものだ。

音楽性の土台として選んだ初期ローリング・ストーンズ


バンド名の由来がローリング・ストーンズもカバーしたハウリン・ウルフの「リトル・レッド・ルースター」からというエピソードからも分かるように、ルースターズが自らの音楽性の土台として選んだのは初期ストーンズだった。2017年に花田が公開したストリーミング・サービスで聴けるプレイリスト『ルースターズ初期にバリバリ練習したストーンズ・ナンバー』の中には、デビュー期の彼らのライブでも披露され、レコーディングもされた「カム・オン」、「バイ・バイ・ジョニー」、「リトル・バイ・リトル」、「アンダー・マイ・サム」などが並ぶ。

若き日のストーンズメンバーがリハーサル時に交わした合言葉が「テンポを落とそう」だったという。つまりこれは、若さからの激情に任せてプレイすると気付かぬうちにテンポが速くなり、従来の楽曲の持ち味が失われるという理由だ。しかし、ルースターズは、そんなストーンズのエピソードとは真逆のスタンスを取ることになる。パンクロックを経由した影響から、よりスピーディーにエッジを効かせ50年代、60年代の名曲を時代に即した最新型に仕上げた。

切れ味の鋭いナイフのようにリスナーの心を深く抉るファーストアルバム





ファーストアルバム『THE ROOSTERS』に収録されている「カモン・エヴリバディー」(エディ・コクラン)や「モナ(アイ・ニード・ユー・ベイビー)」(ボ・ディドリー)を聴けば一目瞭然なのだが、古き良き50年代のノスタルジーを完全に吹き飛ばすようなエナジーこそが、80年代という新たな時代と向き合う彼らの回答だった。

そんな彼らのバックボーンが垣間見られるカバー3曲を含んだ『THE ROOSTERS』は、切れ味の鋭いナイフのように、ギラギラとした無鉄砲な東映やくざ映画の主人公のように、リスナーの心を深く抉る。黒人ミュージシャンのようにスーツを着こなし、不敵な面構えでカメラを睨むジャケットもまた、彼らの音楽性を十分に体現している。”とんでもないバンドが現れた!” 多くの音楽ファンが当時そう思っただろう。

ストーンズ、そのルーツにあるブルースを下地にマッシュアップさせたサウンドの切れ味も最高だが、大江のリリックも初期ルースターズのバンドイメージを堅固のものとするために大きく貢献している。「♪そんなことには かまっちゃいない / 俺はただおまえと やりたいだけ」と繰り返す「恋をしようよ」は、一見フラストレーションを爆発させたようなナンバーに思えるが、実は極めてセンチメンタルなラブソングに思えてならない。つまり、「やりたいだけ」と叫びながら、実は好きで好きでたまらないけど、どういう言葉にすればいいかわからない… という純情が見え隠れしているのだ。一見暴力性を感じさせながら実はセンシティブで多面的な背景が見え隠れする。そんな大江のアーティスティックな側面は、中期のアルバムでより顕著に表れることになる。

ポップなギミックが散りばめられた「THE ROOSTERS a-GOGO」





ファーストアルバムの音楽性を踏襲し約7ヶ月のインターバルでリリースされたセカンドアルバム『THE ROOSTERS a-GOGO』は、ソリッドなロックンロールを主体としながらも時代の先をゆくポップなギミックが散りばめられていた。つまり、ファーストアルバムが黒一色であるとするならば、このセカンドアルバムはカラフルな色合いが満ち溢れている。

躍動感あふれる池畑のドラムミングが特徴的なコニー・フランシスの「LIPSTICK ON YOUR COLLAR」や、ニューウェイブ的な解釈でエコーを効かせたヤードバーズスタイルの「I'M A MAN」などのカバーセンスからも分かるように、まさに温故知新型の解釈で楽曲に新たな魂を注ぎ込んだ。ラストナンバーに60年代のイギリスで活躍した名プロデューサー、ジョー・ミーク作、宇宙時代の幕開けを示唆するインストナンバー「TELSTER」を据えるあたりからも時代の先端を模索する様子が掴みとれる。

本作のレコード帯には “ルースターズ語録” として、「オーソドックスだけど、一番新しいよ、俺たち」と書かれていたが、これがまさに言い得て妙だった。海外で同時期にストレイ・キャッツが50年代のロカビリーをピカピカのニューウェイヴにマッシュアップしたように、ルースターズもまた、60年代の良質なロックンロールをマッシュアップさせ新たな方向性を築いた日本では稀有なバンドだったと言えるだろう。

儚くも美しい名曲「Case Of Insanity」





ルースターズがデビューから1年で築き上げた “温故知新型” のロックンロールは3枚目のミニアルバム『INSANE』まで続くことになるが、ここで変化の兆しが見られる。それは6曲目に収録された儚くも美しい名曲「Case Of Insanity」に象徴される。1960年代のブリティッシュ・インヴェイジョン期を支えたサーチャーズやニューヨークパンクの代表格ラモーンズの影響も垣間見せながら、キーボードが主体の洗練されたアレンジは澄み渡る空のようで、大江のイノセントと狂気の狭間にあるような歌い方をより際立たせた。

「Cause now I'm just a case of insanity」(今のおいらは気が狂っているんだよ…)そう呟くような歌声は、この後、より内省的に音楽と向き合いサイケデリックやネオアコースティックというイギリスの最前衛の潮流に大きな影響を受けた『DIS.』、『GOOD DREAMS』という名盤を生み出すことを示唆しているようだった。

大江の内省的な世界観が全面に打ち出された「DIS.」「GOOD DREAMS」「φ(ファイ)」





『INSANE』のリリース後、ダブ・ファンク的な解釈のプリミティブなビートが特徴的な「ニュールンベルグでささやいて」、終末戦争の予感を孕んだ近未来的なロックンロール・ナンバー「C.M.C」という変化を厭わない革新的12インチシングルを2枚リリース。ギタリスト下山淳、キーボディスト安藤広一の参加によりルースターズの音楽性はこれまでのバンドイメージを覆すような大きな変革をもたらした。ちなみに「C.M.C」のイントロでミサイルが飛来するような効果音は安藤のアイディアだった。切れ味が鋭いナイフのようなビートグループだったルースターズは内省的に幻想的に音を彩るニューウェイヴ期に突入する。

『DIS.』、『GOOD DREAMS』、『φ(ファイ)』の3部作とも言える一連のアルバムでは、より浮遊感が加味され、大江の内省的な世界観が全面に打ち出された作品群となった。その反面、花田裕之というギタリストの漢気というか、前のめりにバンドを奮起させるアティテュードが随所に感じられる。それは、『GOOD DREAMS』に収録され、花田が歌うエリオット・マーフィーのカバー「Drive All Night」の疾走感でも伝わってくる。ひたむきにロールし続ける花田に、革新的に多彩な音楽に接近していく大江。大江が休業状態に入る1984年までのルースターズは、大江、花田、二人の音楽性とアティテュードを中心に、今も大きな影響力を持つ唯一無二の存在感を構築していった。

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2023.11.22
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カタリベ
1968年生まれ
本田隆
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