11月21日

久保田早紀は「異邦人」だけじゃない!異国路線にケジメを付けたアルバム「サウダーデ」

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異国路線からの脱却、久保田早紀の転換点とは?


70年代と80年代の狭間で大ヒットした久保田早紀の「異邦人」は、多くの中高年世代が今も口ずさめるくらい知られた昭和歌謡の定番ソングである。しかし、「異邦人」以降の彼女の活動は、あまり知られていない。

1979年10月に「異邦人」でデビューした後も、彼女は約5年にわたり音楽活動を続けていた。その間にシングル9枚、アルバム7枚をリリースし、1984年11月のコンサートをもって引退する。その後は音楽家の久米大作氏と結婚し、本名の「久米小百合」として教会音楽家(キリスト教の音楽伝道師)に転向。教会で賛美歌コンサートを開いたり賛美歌アルバムをリリースしたりと、今も活動を続けている。

この「久保田早紀」として活動した5年間のなかで、彼女の音楽には “異国路線からの脱却” とも言える転換があった。今回、その異国路線にケジメを付けた3枚目のアルバム『サウダーデ』を中心に、久保田早紀の “転換” について述べたい。

若干21歳の久保田早紀、「異邦人」は140万枚を超えるミリオンセラー


よく言われるように、久保田早紀が「異邦人」でデビューした時の衝撃は凄まじかった。特に、異国ロマンが漂い何度も聴きたくなるこの曲を、21歳の美しいシンガーソングライターが弾き語りしていると知った時の驚きは絶大だった。当時のシルクロードブームも追い風になり、「異邦人」はオリコンで7週連続1位を獲得、140万枚を超えるミリオンセラーを記録する。

デビューアルバム『夢がたり』も当然のようにオリコン1位となり、売上も50万枚を超えた。80年代音楽界の最初のスターは、紛れもなく久保田早紀だった。

こうした彼女の大ヒットの要因は指南役さんのコラム『久保田早紀の名曲「異邦人」あの日 運命を背負って生まれた歌』に詳しいが、彼女がポルトガルの民族音楽「ファド」の影響下で曲作りをしていたことも少なからず影響したはず。彼女が作る民族音楽のような楽曲に説得力を与えたからだ。

しかし、「異邦人」の余韻が冷めた1980年4月にリリースされた2枚目のシングル「25時」は、異国ロマンを踏襲した良曲にもかかわらず、オリコンのベストテンに入らなかった。同じテイストで作られた2枚目のアルバム『天界』も最高11位に留まり、売上を一気に落としてしまう。どちらも楽曲の完成度は1作目と比べて遜色ないと感じるが、何を歌っても二番煎じに思われるくらい「異邦人」のインパクトは強すぎた。

―― こうしたなか、3作目の制作が始まった。



異国路線が継承された3枚目のアルバム「サウダーデ」


1980年9月に発売された彼女の3枚目のシングル「九月の色」は、異国路線ではなく歌謡曲テイストのメランコリーな曲。大人の久保田早紀が感じられて私は好きだったが、逆に彼女の特徴が失われたと思われたのか、売上は低迷する。一方、3枚目のアルバム『サウダーデ』は異国路線が継承された。というのも、ファドの本場であるポルトガルのリスボンで録音されたからだ。

彼女の著書『ふたりの異邦人』によれば、ポルトガル録音はレコード会社からのボーナスであり、「エキゾチックな旅路線の “完結盤” を、ファドの故郷で制作しよう」とスタッフが発案したものだった。ただし、ポルトガルで録音されたのはA面5曲のみ。B面は東京で録音され、ニューミュージック路線でテイストが異なる5曲が収録されている。彼女は異国路線にケジメを付けつつも、今後の音楽の方向性を探っていたようだ。

そのA面では、彼女がリスボンの写真集やガイドブックを見ながらファドを意識して作った曲が、ポルトガルギターの物悲しい伴奏に合わせて歌われている。特に、1曲目の「異邦人」のアコースティックバージョンは、メロディーと歌声の美しさが際立ち、全く別の曲を聴いているかのよう。他の4曲もリスボンの日常風景が歌われ、久保田早紀のファドを堪能できる。リスボンの名所を舞台にした「アルファマの娘」や「4月25日橋」を聴いていると、現地を想像してしまう。複数のギターが重なりあう伴奏も素晴らしい。

異国路線からの転換を4枚目のアルバム「エアメール・スペシャル」で宣言


こうして「異邦人」から始まった久保田早紀の異国路線は、ユーラシア西端のリスボンで終止符が打たれた。翌年以降、彼女の曲作りは大きく転換する。それは、キリンオレンジのCMソングに採用された4枚目シングル「オレンジ・エアメール・スペシャル」に表れている。エレキギターが鳴り響くなか、彼女が重荷から解き放たれたように明るく、生き生きと歌っているからだ。4枚目のアルバム『エアメール・スペシャル』でも異国路線は影を潜め、ニューミュージック系のメロディーに都会風の歌詞が付いた曲が収録されている。その冒頭の曲「プロローグ」では、彼女自身が転換を宣言している。

 鏡に写った横顔は
 あなたの知らないもうひとりの私
 いつ頃から こんな目をしてるかしら
 少し翳りをおぼえたみたい~(以下略)

もともと彼女は「異邦人」のような異国路線は志向していなかった。しかし、ファドの影響下で曲作りをしていた段階でデビューが決まり、エキゾチックにアレンジされた「異邦人」が予想外に大ヒットしてしまった。

そして、いつしか芸能界で流されるまま、周囲の期待に応えようと曲作りをしていた自分がいた。そのことを「鏡に写った横顔」と表現したのである。

ここから彼女は、自分がやりたかった音楽を探す旅に出た。引退までにリリースした作品からは、自由な音作りに挑戦した成果を聴くことができる。特に、引退直前にリリースされたラストアルバム『夜の底は柔らかな幻』は、彼女自身が「自分がやりたかった音のすべてを注ぎ込んだ」と言うくらい、先鋭的なアレンジと幻想的な歌詞が調和したクオリティが高い音楽を堪能できる。

久保田早紀は、「異邦人」などの初期作品だけで評価するのはもったいない。特にファドの世界観を追求した『サウダーデ』や、『エアメール・スペシャル』以降の異国路線を脱した作品は、もっと再評価されていい。全アルバムがサブスクで配信されているので、聴いてみてはいかがだろう。



<参考文献>
久米小百合著『ふたりの異邦人 久保田早紀*久米小百合自伝』フォレストブックス(2019年)

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2023.06.07
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カタリベ
1966年生まれ
松林建
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