1993年 11月21日

河合奈保子【80年代アイドルの90年代サバイバル】知られていないソングライターの活動

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リレー連載【80年代アイドルの90年代サバイバル】vol.9- 河合奈保子

今も根強い人気を保っている河合奈保子


昨今の昭和歌謡ブームにより、80年代にデビューしたアイドルたちが取り上げられることが多くなった。今も絶大な人気を誇る松田聖子、再始動した “歌姫” 中森明菜、マイペースで活躍する小泉今日子など、たくさんの80年代アイドルがいるが、長い間活動を休止しているにも関わらず、今も根強い人気を保っているアイドル… それが河合奈保子である。

しかし、彼女について語られるのはたいてい80年代前半のこと。テレビで使われる当時の映像は「スマイル・フォー・ミー」か「けんかをやめて」。その後自身で曲を作り、シンガーソングライターとして活動を始めたことは知っていても、その後の作品、特に90年代の彼女について知る人はかなり少ないように思う。そこで、あまり知られていない90年代の彼女の活動について、自身が作曲を手がけるようになった80年代後半まで遡りながら語ってみたい。

アイドルからアーティストとしての成長を印象付けた「ハーフムーン・セレナーデ」




まず、1986年から1988年にかけて、“MY SONG” シリーズと題して、自身が作曲した作品を収録したアルバムを3枚リリースしている。『Scarlet』(1986年)からシングルカットされた「ハーフムーン・セレナーデ」は『ザ・ベストテン』にランクイン。この曲は『NHK紅白歌合戦』でも歌われ、アイドルからアーティストとしての成長を印象付けた。

また、『JAPAN as waterscapes』(1987年)にも収録されている「十六夜物語」では『日本作曲大賞』で優秀作曲者賞を受賞。日本作曲家協会の会員であることも話題になっていた。『Members Only』(1988年)ではコンサートのバックバンドとともにアルバムのサウンドを作り上げるなど、アーティストとしての活動を精力的に行っていた。

ただ、これだけの活動をしていても、当時私の周りでは「アイドルが曲も作ってみました」という印象しかなかったようで、シンガーソングライターとしては受け入れられていなかった。なぜか? 彼女のアイドル時代の作品と比べてさほど違和感がなかったという理由もあるだろう。しかし、それは彼女の作る曲のレベルが高かったという表れでもあるのだ。

前3作と作風が全く違う「Calling you …呼びよせられて…」




そして、1989年リリースのアルバム『Calling you …呼びよせられて…』で奈保子は覚醒する。このアルバムではミッキー吉野をプロデューサーに迎えているのだが、ポップでやわらかい雰囲気の曲が多い前3作と比べると作風が全く違うのだ。

このアルバムに収録されている「あなたへ急ぐ」や「ダンシング・グットバイ」のようなダンサブルなナンバーは、それまでの奈保子の自作曲にはなかったし、「わたしは旅人、あなたは罪人」のようなスリリングな展開の曲も新鮮だった。さらに「悲しみのアニバァサリー」では透明感のあるファルセットが美しく響き、アイドル時代にはあまり見えなかった音楽性の幅広さをここで開花させたと言ってもいい。

当時、作曲の表記をそれまでの "NAOKO" から本名の "NAHOKO" にしたり、使用するマイクを自分で選ばせたり、“自分を表現することを自覚” させるためのアドバイスがミッキー吉野からあったという。

また、ミュージカル『THE LOVER in ME ~恋人が幽霊』で主演を務めるなど、女優としても活躍し始めた頃で、奈保子自身の表現力もより豊かになっていたが、ミュージシャンとして、音楽により深く向き合うようになったのかもしれない。

ソングライターとしての才能は十分に熟成された「ブックエンド」




河合奈保子が作曲家としてさらに覚醒したのは1990年リリースのシングル「美・来」だろう。「たかの友梨 ビューティークリニック」のCMイメージソングとしても使用されたこの曲は、穏やかに揺れるようなAメロから、突然アクセルを踏み込んだように突き進むBメロ、そして力強く訴えかけるサビが印象的だ。コード進行も含めて、こんなにトリッキーな展開の曲を作れるんだ、と本当に驚いた。

この「美・来」が収録されたアルバム『ブックエンド』もミッキー吉野によるプロデュース。Jazzyな雰囲気の「風に吹かれて」やボサノヴァが心地よい「哀しみをしるまえに」など、前作よりさらに研ぎ澄まされたサウンドが楽しめる。全体的にわかりやすいラブソングではないことから、少しとっつきにくい印象は拭えないが、奈保子のソングライターとしての才能は十分に熟成されていた。

シングルではその他にテレビ朝日系『トゥナイト』のエンディングテーマとなった「眠る、眠る、眠る」や、カントリー調の「Golden sunshine day」をリリース。そして、1992年には小金沢昇司とのデュエット「ちょっとだけ秘密」をリリース。しかしその後、『さすらい刑事旅情編』『ママじゃないってば!』といったドラマ出演が増えたこともあり、音楽活動がだんだんと少なくなっていた。

「engagement」は上質なシティポップの仕上がり




1993年には前作から3年ぶりとなるオリジナルアルバム『engagement』をリリースする。本作は現時点で最後のアルバムとなっているが、奈保子自身がプロデュースを手掛け、シンガーソングライターとしての河合奈保子と、歌手としての河合奈保子を両方堪能できる作品になっている。

アレンジャーはEPOや大江千里、平松愛理のアレンジで知られる清水信之と、沢田研二のバックバンド “エキゾティクス" のキーボーディストだった西平彰が担当。どの曲も上質なシティポップに仕上がっている。

たとえば「Traveling Life」はMAYUMI(堀川まゆみ)作曲による、軽快な16ビートに乗って爽やかに展開するシティポップ。「さよならを言えるまで」は中崎英也作曲によるミディアムテンポの切ないナンバー。岸正之作曲でシングルでもリリースされた「エンゲージ」はテレビ東京系ドラマ『夏樹静子サスペンス劇場』のオープニングテーマとして使用された。

また、このアルバムでは作曲だけではなく作詞も手掛けている。「言葉はいらない-Beyond The Words-」では愛する人に対する気持ちを淀みなくストレートに表現している。メロディがフォーク調の「愛してる」はファンの間で人気が高く、CD BOXをリリースする際の人気投票でも上位に入っている。

リリース当時の奈保子は30歳。同世代の女性の気持ちに寄り添った素敵な作品だったと思うのだが、残念ながらセールス的に成功したとは言えず、オリコンアルバムチャートで100位内に入らなかった。

ファンはずっと奈保子の歌声を待っている




このアルバムを最後に、ボーカルの入ったアルバムはリリースされておらず、シングルも1994年にリリースされた「夢の跡から」が最後になっている。コンサートツアーを開催したり、テレビ番組『THE夜もヒッパレ』などで歌う姿を見かけたりすることはあったが、1996年に結婚。出産を期に活動を休止。現在はオーストラリアで暮らしている。

しかし、奈保子は引退を宣言したわけではない。2006年には自作ピアノ作品集『nahoko 音』をリリース。関西にある “池田泉州銀行” のCMでは、奈保子が作曲したインスト曲が使われており、音楽活動は地味にではあるが継続しているのだ。

2018年にNHK-FMで放送された『今日は一日 “竹内まりや” 三昧』という番組では、竹内まりやに対しての40周年お祝いメッセージが本人の声で流れた。ここで本人の今後について語られることはなかったが、最近の80年代アイドルたちの活動を見ていると、ファンとしては奈保子の歌手としての活動再開を期待してしまう。

アルバム『engagement』のラストチューン「FOR THE FRIENDS」には、こんなフレーズがある。

 何も求めずに助け合う
 青春を離れても
 ふたりは友だちよ ずっと
 あなたが私を望むなら会いにゆく
 遠くてもすべてを捨てて

私はこれを聴く度に “FRIENDS” を勝手に “ファン” と当てはめてしまうのだが、ファンはずっと奈保子の歌声を待っている。歌詞の通り「すべてを捨て」なくても良いから、もう一度その歌声を聴かせてほしい。そして80年代当時を知らない若い世代にも、河合奈保子のアーティストとしての軌跡をぜひ知ってほしいと思う。

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2024.04.26
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カタリベ
1966年生まれ
綾小路ししゃも
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