菊池桃子の7枚目のシングル「Broken Sunset」がリリースされたのは、1986年2月13日。春まだ遠い冬だ。でも、僕はこの曲を聴くと、いつも夏の終わりから秋の始め、そう、ちょうど今頃の季節を思い浮かべる。
「Broken Sunset」は、ひとつの恋が終わるという悲しく切ない曲。恋の終わりは夏の終わりが相応しい。サンセットと言えば夏という勝手なイメージからか、この曲を聴くたびに僕の頭の中で再生される映像は、8月最後の土曜日の夕方、海沿いを走る国道のパーキングエリア。アイドルの曲で、ここまで明確に頭の中で映像が再生される曲を僕は他に知らない。
菊池桃子は4枚目のシングル「卒業-GRADUATION-」から「アイドルを探せ」まで7枚連続オリコンチャート1位を獲得。もちろん「Broken Sunset」もその中に含まれている。1985年から1987年にかけて、オリコンチャートの上位をおニャン子クラブ関係の曲が独占する中での記録だから大したもんだと思いませんか。
彼女の曲は、いわゆるアイドルらしいフワフワした曲調とは一線を画す曲が多い。デビューからずっと菊池桃子の作曲を担当している林哲司は言う。
「アイドルの曲には単調なものが多くてあまり好きではない。だから菊池桃子にはアイドルアイドルした曲ではなく、メロディがしっかりした作品を作ると決めた。」
つまり、林哲司は、新しいアイドルのスタイルを菊池桃子に求めたわけで、彼女とアーティストとして向き合ったわけだ。
もちろん、作詞の有川正沙子もアイドル菊池桃子ではなく、アーティスト菊池桃子をイメージして作詞しているはずだ。
「Broken Sunset」の次の曲である「夏色片思い」も有川正沙子が書いている。秋元康時代の菊池桃子の曲ももちろん好きだけど、僕は、有川正沙子作詞のこの2曲が一番菊池桃子に合っていると思う。その切なさが実に素晴らしく、そしてたまらなく愛おしい。アーティスト菊池桃子の集大成と言ってもいい。
そして、菊池桃子の魅力と言えばウィスパーボイス。その詞が切なければ切ないほどその魅力は増していく。だからか、「Broken Sunset」が菊池桃子の曲の中で一番好きなんだ。彼女を一番身近に感じることができるから… まるで曲の中で運転席にいる「あなた」が僕で、助手席の「きみ」が菊池桃子であるかのように。
もちろん、この曲は女性目線で書かれた曲だけど僕は男性なわけで、勝手に男性目線に変えてみると…
結論を出さないといけない
今日別れを告げないといけない
でも彼女を傷つけたくない
だから僕は嘘をつく
他に好きな娘ができたと…
彼女をさらうことを諦めないといけない理由はなんなのだろう。妄想もいい加減にしないと疲れる。この齢になっても大学3年の時と同じ妄想をしている、困ったもんだ。そして結論は今も昔も一緒。相手が菊池桃子なら僕だったら絶対に別れないのに、だ。
最後に余談。「Broken Sunset」って、海のトリトンの主題歌になんとなく似ていると思いませんか。僕だけだろうか…
2017.09.17
YouTube / Winde Stream Spirits
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