真夏特有の熱気というのは、一種の風物詩として魅力的ではあるが、炎天下でそれを味わうとなると熱中症のリスクがつきまとう。ならば、涼しい部屋で “熱い音楽” によってその空気を疑似体験しよう。 それに最適なのが、特撮やアニメの主題歌だ。なかでも、1970〜1980年代は “激アツ” な楽曲の宝庫。赤道直下のような灼熱に覆われ、篝火のような熱圧が充満している曲が多いのだ。 そこで、【死ぬほど暑い夏に聴くアニメソング】と題して全5曲、5つの部門から1曲ずつを厳選して紹介する。
クリスタルキングにしか歌えないオリジナリティの高さ
▶ バトル・アクション部門 ・『北斗の拳』主題歌
・「愛をとりもどせ!!」クリスタルキング(作詞:中村公晴 / 作曲・編曲:山下三智夫・飛澤宏元)
クリスタルキングのメンバー、中村公晴(key)が作詞を、山下三智夫(g)が作曲・編曲(飛澤宏元との連名)を手がけており、暴力に支配された核戦争後の荒野と、そこに生きる人々の愛と死──『北斗の拳』の世界が、見事なまでに描き出されている。
まずイントロが強い。重厚なギターサウンドとパワーあるキーボードのぶつかり合いが音の相乗効果を生み、聴く者を一気に曲の世界へと引き込む。そしてそして「♪YouはShock」という冒頭のシャウトで、ムッシュ吉﨑の低音ボーカルと田中昌之のハイトーンボーカルが重なることで、自然と血がたぎる。続くAメロ、Bメロは低音が引っ張り、サビで金属的な高音にバトンタッチ。この構成にクリスタルキングならではの唯一無二感がある。また、間奏や後奏でのギターとキーボードの激突も聴きごたえあり。 これは、このバンドにしか再現できない高次元の激アツ楽曲なのだ。
「スター・ウォーズ」より早かったSF交響曲
▶ SF・ファンタジー部門 ・『宇宙戦艦ヤマト』主題歌
・「宇宙戦艦ヤマト」ささきいさお、ミュージカル・アカデミー(作詞:阿久悠 / 作曲・編曲:宮川泰)
1974年に放送が開始された『宇宙戦艦ヤマト』は、人類全体の危機を描いたスペースオペラでありながら、後年のリメイク作では抑制されたナショナリズムや昭和的なジェンダー観が、物語全体に色濃く反映されている。だが、音楽面においては、当初から画期的ともいえる新しさを備えていた。
従来、SF作品の音楽は未来的イメージを意識した電子楽器を強調したものが主流だったが、1960年代後半の『スター・トレック』のテレビシリーズや、映画『2001年宇宙の旅』などでオーケストラによるスコアやクラシック音楽が用いられ、宇宙には管弦楽が似合うという感覚が定着しはじめた。世界的にこの路線を決定づけたのが、ジョン・ウィリアムズが壮大な交響楽を手掛けた1977年の『スター・ウォーズ』(今でいう『スター・ウォーズ エピソード4 / 新たなる希望』)である。だが、『宇宙戦艦ヤマト』はその4年前に、シンフォニーをスペースオペラに融合させていたのだ。
宮川泰によるフルオーケストラ編成のスコアはマイナー調で、『スター・ウォーズ』とは異なるが、テレビアニメの主題歌とは思えないほどの重厚さと壮麗さ、そして魂を燃焼させるドラマ性がある。 イントロの金管ファンファーレから、「♪さらば地球よ」と高らかに歌い上げる冒頭で聴き手の心を掴む。
ささきいさおのボーカルはまっすぐで力強い。静かで冷たい宇宙に、熱波を放出するような歌唱だ。 また、男声コーラス、女声コーラスが、それぞれ異なるアプローチで加わり、楽曲に厚みをもたらす。 そして、最後の「♪宇宙戦艦ヤマト」の部分で、感情の沸点に達するように構成されている。 この構築力の高さこそが、日本のアニメ音楽における金字塔となった。
松田聖子のソングライターが作ったハイスパート曲
▶ ロボット&メカ部門 ・『六神合体ゴッドマーズ』主題歌
・「宇宙の王者!ゴッドマーズ」樋浦一帆(作詞:三浦徳子 / 作曲:小田裕一郎 / 編曲:若草恵)
日本テレビ系で1981年10月にスタートした『六神合体ゴッドマーズ』の主題歌は、80年代らしさに満ちた激アツアニソンだ。この時代には、渡辺岳夫や菊池俊輔ではなく、今で言うJ-POPのソングライターがアニソンを作ることがすでに当たり前になっていた。三浦徳子と小田裕一郎は、前年に「青い珊瑚礁」や「風は秋色」など数多の松田聖子楽曲を送り出し、のちにアニソンの枠を越えたヒット曲、杏里「CAT’S EYE」を生み出したコンビでもある。
そして、アレンジャーの若草恵は、厚みのあるシンセサウンドによって、曲のエネルギーを倍増させた。「♪GO!GO!マーズ 宇宙を駆けろ」というフレーズで始まるAメロでは、突き抜けるような高揚感が直感的に伝わってくる。中盤には “六神合体!” という絶叫が入り、さらにアガる。そして、最後の「♪宇宙を駆ける王者‼」というフレーズがスケール感を際立たせる。何度もリピートしたくなる覚醒系アニソンである。
70年代という時代が生んだ格差社会の鎮魂歌
▶ スポ根系部門 ・『あしたのジョー』主題歌
・「あしたのジョー」尾藤イサオ(作詞:寺山修司 / 作曲・編曲:八木正生)
高森朝雄(梶原一騎)とちばてつやによる原作は、野良犬のような主人公・矢吹丈の闘いを描きながら、貧困、格差、脱落、疎外、孤独、敗北… 社会の周縁にあるさまざまな現実や痛みをえぐり出している。アニメ版も、出崎統監督の視覚演出や、オリジナル展開を加えながら、原作を丁寧にトレースした。そして、用意された主題歌はとことん『あしたのジョー』の世界を具現化したものとなっている。
言葉少なく原作の世界を浮かび上がらせた寺山修司の歌詞、ジャズミュージシャン・八木正生による情念的な旋律、煙草臭い昭和のジャズクラブを彷彿とさせる演奏。そして、ハスキーで憂いを帯びた尾藤イサオのボーカル。これらが合わさることで、1970年代的な陰鬱さを備えた高熱量の主題歌が完成した。
「♪だけど ルルルル…」というフレーズは、尾藤イサオが歌詞を忘れて即興で入れたものを、寺山修司や制作陣が気に入り、正式に採用されたといわれている。 もっとも、あのパートに「♪だけど ルルルル…」以上の言葉は存在しないだろう。偶然が生んだ奇跡が『あしたのジョー』に模倣できない深みを刻んだのだ。
池田理代子の原作を高解像度で楽曲化
▶人間ドラマ部門 『ベルサイユのばら』挿入歌
「薔薇は美しく散る」鈴木宏子
(作詞:山上路夫 / 作曲:馬飼野康二 / 編曲:青木望)
「あしたのジョー」がそうだったように、こちらも作品世界をこれ以上ないほど忠実に表現した大傑作だ。「あしたのジョー」の荒削りな魅力に対し、「薔薇は美しく散る」は緻密に計算された芸術性の高さこそが最大の価値だろう。
鈴木宏子のボーカル、洗練された歌詞、哀愁を帯びたメロディ、壮麗で優雅なアレンジ―― そのすべてが主人公の誇りと、劇的な運命、炎のごとき熱情を音楽として形にしている。足りないもの、削るべきものは一切ない。間奏のオカリナ・ソロ、そして後奏に入るアンドレ(志垣太郎)による台詞 “ジュテーム オスカル!” が、完璧な構成にさらなる情感のピークをもたらした。 オスカルとアンドレの物語に寄り添える楽曲は、他に考えられない。
ここに紹介したような1970〜1980年代のアニソンにある、むき出しの熱量と過剰な情念は、今のアニメ業界の環境からはなかなか生まれにくい。ぜひこれらを、大音量で浴びるように聴きまくり、その醍醐味を堪能してほしい。
▶ 漫画・アニメのコラム一覧はこちら!
2025.08.04