円谷プロ製作によるSFドラマ「猿の軍団」
1974年秋、日曜の夜7時30分に三つ巴で激突したテレビ番組があった。それが『アルプスの少女ハイジ』『宇宙戦艦ヤマト』、そしてSF実写番組の『猿の軍団』である。知名度の点ではハイジとヤマトに大きく水をあけられているが、ここでは隠れた名作である『猿の軍団』を紹介したい。そう、あのウルトラマン・シリーズで知られる円谷プロ製作によるSFドラマ。その物語の発端はーー
舞台は現代。低温科学研究所に勤める泉和子、そして彼女のもとを訪れたユリカ(15歳)と次郎(12歳)が、突如起こった地震から避難する際に誤って入ってしまった “コールドスリープ・カプセル” が作動する。やがて彼女たちが目覚めると、そこは猿が世界を支配する西暦3713年の未来だった…。
原作は小松左京、豊田有恒、田中光二の3名
作品の原作者は『日本沈没』や『復活の日』などの大作で知られる日本SF界の巨匠・小松左京。小松は、共同原作者として2人のSF作家を指名する。1人は『時間砲計画』などのジュブナイルのほか、古代を舞台にした作品や韓国に関する著書でも知られる豊田有恒。そしてもう1人は『大滅亡(ダイ・オフ)』『わが赴くは蒼き大地』など、多くのスケール豊かな作品を著した田中光二である。
かつての映画『隠し砦の三悪人』(1958年)においても、脚本には黒澤明監督のほか菊島隆三、小国英雄、橋本忍の3人が名を連ねているが、黒澤はこの3人に次々と難関を提示し、主人公たちが如何にしてそれを突破するかを考えさせ、脚本を練り上げていった。そう、この『猿の軍団』における小松も、全体のストーリー構成のほか、『隠し砦の三悪人』での黒澤にあたる役割も担っていたようだ。
思い返してみれば、30分番組の20分を過ぎたあたりで問題はいったん解決するのだが、主人公たちはすぐ次の難関に直面し、続きはまた来週に… という展開が多かった。これすなわち、連続テレビドラマのあるべき姿だったといえよう。
猿が支配する西暦3713年の世界
さて、猿が支配する世界にタイムリープした泉先生、ユリカ、二郎の3人は “ゴード” という人間の青年に出会う。この未来世界に生まれ、両親や多くの仲間を猿に殺害された彼は、泉先生たちと行動を共にする。そこへさらに、ひょんなきっかけで子猿の “ぺぺ” も加わり、猿が支配するこの世界の謎を探るために旅を続けていく。
一方、世界を支配する猿たちはゴリラ派、チンパンジー派、オランウータン派などで構成されており、西暦3713年の世界は中央政府の治安大臣をゴリラの “ビップ” が務めている。彼のほか、副官 “サボ” などのゴリラ派は、絶滅の危機に瀕している人間を保護しようとするが、徹底的に人間を抹殺しようとするチンパンジー派と対立しており、物語の終盤ではゴリラ派に対するチンパンジー派のクーデターも描かれいてたりもする。
その中でひときわ鮮烈な印象を残すのは、警察署長を務めるチンパンジーの “ゲバー”。彼は自身の妻子をゴードが殺したと思い込み(やがてそれは誤解だと判るのだが)復讐の鬼と化す。時には任務を忘れて半狂乱でゴードを追い詰めようとするため、味方の猿の命を奪うことや悪逆な行動に出ることも厭わない。ひたすら憑かれたようにゴードを追い続けるその一途ぶりに、視聴者は刮目せずにはいられない。
ⓒ 円谷プロダクション

“キレンジャー vs ライオン丸” さながらの迫力
劇中において大半の猿は、スーツアクターとは別の俳優がセリフを当てているが、治安大臣のビップとゲバー署長だけは、演じた俳優自身がセリフも担当している。
ゲバーを演じたのは『秘密戦隊ゴレンジャー』(1975年〜)でキレンジャーこと大岩大太を演じることになる畠山麦。猿役を演じる俳優は、いわば仮面劇の出演者のように、ボディアクションと着ぐるみの外からも見える “目” だけで演技をしなくてはならない。畠山はそのハンディキャップを物ともせず、ただただゴードへの恨みを晴らすことだけを生き甲斐に突き進むゲバーを見事に演じ切った。
そしてゴードを演じたのは、『快傑ライオン丸』(1972年〜)での獅子丸が印象深い俳優、潮哲也だ。復讐の念のみに生きるゲバーのエキセントリックなアクション。そして渾身ともいえるゴードの華麗なるアクション。その2つがぶつかり合ったスタント無しのバトルシーンは、まさに “キレンジャー vs ライオン丸” さながらの命がけの迫力に満ちたものだった。
数々の謎が明らかになっていく物語の終盤
泉先生の一行は、旅の途中で様々な猿に出会う。中には友好的な猿もいるが、多くは人間のことを “裸の猿” と呼んで見下し、忌み嫌う。考えてみれば、全身が体毛で覆われた猿からみると、頭頂部や目の上、ほか何ヶ所かのみに毛が生えている人間の姿は、いかにも珍妙に見えることだろう。異種、異端、異人、異文化に対する忌避の念は、人間の中にも存在する。
例えば、私たちの住む家に服を着た猿の一行が訪れ、“追われているのでかくまって欲しい” と言ってきたとしたらーー。ハイ、そうですかと招き入れるだろうか。人間を忌避する猿たちの姿は、そのまま私たち人間の姿なのではないだろうか。いやそれ以前に、今も世界中で起こっている様々な紛争は、人間と猿のような異種同士ですらない。同じ人間同士が銃口を向け合った戦いである事実に、私たちはいったい何を考えるべきなのだろう。
物語の終盤では、なぜ人間は絶滅の危機に瀕しているのか、なぜ猿が世界を治めているのか、そして度々現れて一行の危機を救う円盤の正体はいったい何なのかといった、数々の謎が明らかになっていく。
ーーその結末において解明された謎の裏には、人間が機械文明に身を委ねること、そして人間同士で無益な戦いを続けることに対する危惧と、それに対する示唆に富んだ原作者のメッセージが込められている。2025年現在、配信サービスでの取扱いが無い作品だが、機会があったらぜひご覧いただきたい。
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2025.09.11