島倉千代子登場後、ピカレスクものに変貌する「地獄に堕ちるわよ」
Netflixで今年春から配信され、大きな話題を呼んだドラマ『地獄に堕ちるわよ』。事実に基づいた虚構として、占い師・細木数子の波乱の人生を描いている。
前半は、さしずめ細木数子を通した昭和史。細木も悪女というより、逆境に負けない肝の据わったヒロインという描かれ方をしている。なんなら、あの手この手でさまざまな困難を乗り越える細木を応援したくなってくる。これはこれでおもしろいのだが、配信前に『細木数子 魔女の履歴書』(著:溝口敦 / 講談社刊)を読んだ私からすると “あれ? 思ってたんと違う” という感じ。少女の頃にポン引きまがいのことをしていた話は? お母さん、こんなにけなげな人だった?
だが、島倉千代子登場後、ドラマはするりとピカレスクものに変貌する。“そうか、ここまで観てきたのは、あくまでも細木が小説家に語った虚構まみれのストーリーだったのか” と、気づかされる構成になっている。自身のギャラがいくらかも知らない世間知らずのお千代さん。彼女こそ、細木にとってまさにカモネギ。島倉の興行権を手に入れた細木は、年間何百ステージもの過酷なスケジュールを強いて、まんまと大金と高級マンションを手に入れる。
ⓒNetflix
多額の借金と失明の危機を淡々と語る島倉千代子
このドラマを観ていてふと思い出したのが、数年前にCSで観た、昔の音楽番組の再放送だ。番組タイトルは、『トップスターショー 歌ある限り』(1976年〜 / TBS系)。司会は二谷英明と久米宏。“ジュリーが出てる” とウキウキ観ていた私だったが、一緒にゲストで出ていた島倉千代子から目が離せなくなった。歌っているとき以外はずっと、どこを見ているかわからない虚ろな表情。
“4億の借金はほぼ完済できそう”
“失明するのではと16年前から心配だった目が何ともないことがわかってほっとした”
グランドピアノを囲みながらの司会者とゲストの楽しいはずのトークコーナーでは、島倉がそんな “近況” を淡々と語っていた。この回が放送されたのが1977年。なるほど、細木数子と共に記者会見した頃か、とあとで合点がいった。そりゃ表情も虚ろになるわけだ。それこそ、細木と “二人三脚” で馬車馬のように働いていた時期だったのだろう。
お人好しか、カモネギか、観音様か。数々の不運に見舞われたお千代さん
幼少時の左腕の大ケガ、ファンの投げたテープが目にあたったことによる失明の危機、3度の中絶、泥沼の離婚劇、連帯保証による借金地獄、姉の自死、乳がん、歌手生命を失いかねない喉の異変…… 華やかなスターが私生活では次々と不幸に見舞われる、というのはよく聞く話だが、島倉千代子は見舞われすぎだ。そりゃ本気で「♪バラもコスモスたちも 枯れておしまい」と思ってしまうだろう。
「振り返ってみて、運はあまりよくなかったと思います。不運を呼び寄せているわけじゃないんですが、不器用だから避けきれないでぶつかってしまうんですね。」
主婦と生活社刊『夢は叶う トップランナー30人「運の履歴書」』より
こんな風に語っていたお千代さん。避けきれないというより、自らぶつかっていっているような気さえする。失明の危機を救ってくれた医師を信じたい気持ちはわかるが、実印を渡してしまうって、どれだけお人好しなのか。
だが、彼女の最後の手記、『島倉家 これが私の遺言』(文芸社刊)からは、うらみつらみの言葉はほとんど見つからなかった。そのかわりといってはなんだが、「人生いろいろ」の歌詞を作詞の中山大三郎に変えてもらったエピソードが印象に残った。当初は、酒で悩みをまぎらわすというような歌詞があったのだが、お酒が一滴も飲めない島倉。「♪髪をみじかくしたり つよく小指をかんだり」といった歌詞に書き変えてもらったのだそう。
鈴を転がすような声に、ふっくら優しい面立ち。過酷すぎる私生活を知っても、お千代さんの印象はずっと変わらない。観音菩薩のよう。“音を観る” と書くのも、彼女にぴったり。お千代さんが、地獄に堕ちることなく極楽浄土にいることは確かだと思う。
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2026.06.19