面白い奴はいないかなと楽しみにして入学した高校に、やっぱりひとりぐらいはいるもので、同じクラスにロック好きの同級生がいた。僕の席の斜めふたつ後ろに座っていたモッチだ。
授業中、後ろを振り返り目が合うとモッチがギターを弾くポーズをしながらウインクをしてくる。
そのエアギターを見て「こういう奴と会いたかったんだよ」と自分の村社会が少し広がったような気がしたのは気のせいだろうか。
僕はピストルズ、モッチはチャーが好きだったので、音楽の話題で重なる部分はあまりない。
モッチは僕が持っていたシド・ヴィシャスの写真を見て「なんでこいつは血を流しているんだ?」と聞いてくる。あらためてそう聞かれてもうまく答えられない。
「分からないけど、でもいいだろ?」と返すと「いや、分かんね~よ」とモッチ。まったく噛み合わないのにいつもふたりで音楽の話をしていた。
一学期の終わりの月曜日の朝のこと。
モッチが僕に「FREE SPIRITに行ってきたぜ」とちょっと自慢げに話しかけてきた。「FREE SPIRIT」とは1979年7月14日に日比谷野外音楽堂で開催されたジョニー ルイス&チャーのフリーコンサートのことだ。モッチは興奮冷めやらぬ感じでその日のことを話してくれた。
雨の中、初めて行った日比谷公園、迷いながらたどり着いた日比谷野音、本当に入場料が無料で、うまいこと真ん中の席を確保して一部始終を目に焼きつけてきたと。「SMOKY」では客がステージに押し寄せ一時演奏を中断したと。
「なんか不穏な感じだな。モッチ、もっと話してくれ」
「間奏でずっとムスタングのアームをグニョグニョさせて弾いていて、頭がおかしくなりそうだった!」
と、エアギターを交えながらその演奏の凄さを熱く語るのだが…
「ん? ちょっと待て。頭がおかしくなりそうって、アームでそんなにすげー音出せないだろ~?」
どうにも想像ができず、やっぱりモッチとは趣味が違うなぁと心密かに思っていた。でもその考えが間違っていたことが分かったのが、数ヶ月後に発売されたこの日のライブアルバム『FREE SPIRIT』を聞いた時だった。
B面の1曲目に収録された「Natural Vibration」がその曲だ。初めて聞いた時はレコードを聴いているのに、「げっ!テープ巻き込んだ!」と勘違いしてしまった。
確かにグニョグニョがいつまでも続く。長いギターソロが大嫌いな僕もこのギターソロは何度も聴き返したくなるほどぶっ飛んでいて格好いいと感じた。
こんなものをライブで聴いてしまったら頭がおかしくなっても不思議はないし、エアギターじゃどうやったって伝わらない。
そう思いながらも翌日、学校で「モッチ、俺が悪かった。もう1回ナッチュー(Natural Vibrationのこと)弾いてくれ!」とエアギターをねだるのだった。
※2016年10月4日に掲載された記事をアップデート
2019.06.16
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YouTube / 南風海治郎
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