7月10日

さだまさし「関白宣言」は最上級の愛情表現、夢みる男のわがままソング?

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photo:MASASING TOWN  

じっくりと最後まで聴いてほしい、さだまさし「関白宣言」


今の時代「俺より先に、寝てはいけない! 俺より後に起きてもいけない!」などと声高に叫べば、世の女性からは批難ごうごう、挙句SNSでの炎上は避けられず、よもやの大惨事になること間違いなし。男尊女卑だの女性蔑視だのと、正義という名目でうっ憤を晴らす人間からズタズタにされ、そりゃあもうタダでは済まされないはずだ。

ただ、この「関白宣言」、久々に聴く同世代の方も、初めて聴くという方も、ぜひ最後までじっくりと聴いて欲しい。歌詞を十分に聴きこめば、そこから伝わってくるパートナーへの愛おしさに本当しみじみするはずだ。今年で結婚生活30年を迎える僕は、これを聴いていた中学生の時とはまた違う味わいがどっと脳内に押し寄せてきて、うっかり涙が止まらず大変だったのである。

リリース当時の社会情勢は? 歌詞の本意は精一杯の愛情


さあ、それでは一気に時間を巻き戻してみよう。時を遡ること四十余年。

1970年初頭、アメリカを席巻したウーマンリブ運動の流れが日本にも押し寄せ、その勢いはピンク色のヘルメットと過激な活動で知られる “中ピ連” という団体を発生させた(※注1)。

その中ピ連が社会現象を巻き起したのはおよそ1972年から1974年(中ピ連は1975年に解散)、その後1977年に中ピ連の流れから日本女性党が結党され参議院選挙へ候補者を擁立、党としては賛同を得られず解党に至ったが、とにかく70年代後半にかけて “女性の強さ” が如実に世間へ浸透してきた時代だった。裏を返せば男性の弱体化とも取れる時代である。

そこからの1979年。当時TVではテリー・ファンクとドリー・ファンク・ジュニアが日本のプロレス界に旋風を巻き起こし “強いオトコ” を大々的に演出する傍ら、日本野球界では後の語り草である “空白の一日” によって大人の事情を存分に世間へ知らしめる「江川事件」(※注2)によって、日本男児たるや世に残念な印象を与えてしまっていた。そんな世間の流れを汲んでの「関白宣言」である。

もちろんその当時、男性目線、上から目線とも取れる歌詞をめぐって女性団体などから反発や抗議を受ける騒動があったけれども、それはその歌詞の表面上だけを突くことであって、歌詞(さだまさし本人は “歌詩” とこだわる)の本意は、自分の奥さんになる人へ向けた精一杯の愛情に他ならないと僕は思っている。そう、それは曲調、及び歌い方によって完璧に表現されているのだから。

160万枚を超える大ヒット、しんみりさせる一番の見せ所の重み


さて、この「関白宣言」160万枚を超える大ヒット曲でありながら、本人曰く「一番売れた曲イコール一番良い曲ではない」と言っているのだ。不思議だなあと思う反面、確かに人気投票があるならば、僕は良い曲として「療養所(サナトリウム)」などバラード曲を推したいところだし、コメディータッチなら「パンプキン・パイとシナモン・ティー」に票を入れるであろう。

では何故、この「関白宣言」が気になってしまったかというと、人生完全に折り返してしまったことだ。齢五十を超えた僕が今、自分の中で余命を意識するようになってきたからなのである。

まあ、余命という書き方が “命が余る” なので、何となく僕としては “命へ向かう” としたほうが潔いのではないかと思うけれど、それはさて置き、歌詞の終盤、コメディータッチから一気にしんみりさせる一番の見せ所が今、若かりし中学生だった当時とあきらかに感じ方が違うのだ。その重みが全然違うのである。

 俺より先に死んではいけない
 例えばわずか一日でもいい
 俺より早く逝ってはいけない
 何もいらない 俺の手を握り
 涙のしずく ふたつ以上こぼせ
 お前のお陰で いい人生だったと
 俺が言うから 必ず言うから

愛があればこそ通じる “わがまま”? 主人公が宣言する一世一代の愛の賛歌


あぁ… これほどまでの宣言がどこにあろう。

これから一緒に暮らすパートナーに対し、これほどまでの愛情表現がどこにあろう。

これはもう本当、奥さんに言いたいし、願わくは先に土へ還った僕に向かって奥さんに言って欲しい言葉でもある。もちろん逆も然りだけれど。

結果この「関白宣言」は、男性目線の思いあがりであり、わがまま三昧な言い分であることは百も承知で、けれどもそんな “こまったちゃん” である主人公が宣言する一世一代の “愛の賛歌” なのである。

「好きです」「愛しています」という言葉を一切使わずに、ここまで回りくどく最上級の愛情表現を繰り出しちゃうなんて、子どもっぽさ全開だけれど、愛があればこそ通じるのが “わがまま” であって、愛がなければそれはただの自分勝手なのだ。

愛とは、その形、姿が喪失した後もなお、思い続けられるものである。

この「関白宣言」から十数年後に訪れる「関白失脚」(※注3)へと移ろうその時まで、この美しい余韻にわがままBOYは暫し酔っていたいのだ。


※注1:中絶禁止法に反対しピル解禁を要求する女性解放連合の略称。
※注2:1978年ドラフト会議前日に読売ジャイアンツと電撃的な契約を結んだ江川卓選手の去就をめぐる一連の騒動。79年シーズン5月31日まで出場自粛という禊で決着。
※注3:1994年に発表された関白宣言のアンサーソング。さだまさしデビュー20周年記念コンサートが初出。翌年のコンサートツアーでライブ録音。ダスキンのキャンペーンでも使用された。

歌詞引用:
関白宣言 / さだまさし



※2018年2月24日に掲載された記事をアップデート

2021.04.10
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