レコード会社・会議室のシークレットライブ、招待客は30名程度
「岡村靖幸シークレットDATEにご招待」。
1995年11月、そう書かれた返信用ハガキが届いたときのうれしさは今でもよく覚えている。
92年までは順調にツアーを行い、曲もコンスタントにリリースしていたのに、93年以降、岡村ちゃんの活動は一気に鈍くなっていた。だが、95年10月にシングル曲「チャームポイント」を久しぶりにリリース。11月には、bayfm『ラジオのチカラ』という生放送番組で、マンスリーナビゲーターを担当。番組の5回目、つまり最終回にはなんとシークレットDATE(岡村ちゃんのライブはDATEと呼ばれています)を開催することが発表された。
ラッキーなベイベ(岡村ちゃんファン)だけが参加できる秘密のDATEに見事招待された私は、当日夜、返信用ハガキを握りしめながら会場に向かった。場所は、青山ツインタワー内にあったエピックソニー会議室。集合時間は夜9時。10時からのライブに備えて、エピックソニーのオフィスを通って、会議室に並べられたパイプ椅子に座った。
招待客は30名程度といったところか。見知らぬ同士だが、ここにいる人たちには “岡村ちゃんだいすき” という共通点がある。「久しぶりのDATE、ドキドキしますね」「いつから好きなんですか?」なんて、ベイベ同士おしゃべりも弾む。
レコード会社の会議室というのも、いかにも秘密っぽくて、そりゃ気持ちは高まる。生放送のラジオで中継されるとはいえ、その現場にいられる幸せを私はかみしめた。
30分? 1時間? どのくらい歌ってくれるのかな。岡村ちゃん、今どんなんなってるのかな。
ふっくらとした体型、くるくるの長髪。この人、岡村ちゃん?
しばらくすると、bayfmのディレクターが登場。DATEに対しての注意点が告げられた。アコースティックライブなので、決して席は立たず座って観るのが原則とのこと。
「岡村さんは、番組開始から少し経ったところで登場します。登場したら、みなさん拍手でお迎えください」
10時になり、番組のテーマ曲であるプリンスの「エンドルフィンマシン」が流れると、会議室が暗くなった。そして、ドアが開き、大きくて黒い服の人が入って来た。
え? お、岡村ちゃん? だよね?
拍手と同時に「わーきゃー」といった歓声が起きるが、会議室内は暗いまま。スポットライトもあたらぬまま、岡村ちゃんらしき人は椅子に座ってアコースティックギターをかき鳴らし、即興で作ったらしい曲を歌い始めた。
この声……間違いない、岡村ちゃんだ!(そりゃそうだ)
だが、ふっくらとした体型、くるくるの長髪。私が知っている彼とは、だいぶ印象が異なる。だいたい、なんでこんな暗いのよ! 顔がよく見えない!
薄暗い中、岡村ちゃんはメドレーで「家庭教師」「Out of Blue」といったおなじみの曲を熱唱。10分くらい歌ったところで、アコギを置いて、さっと会議室を出て行ってしまった。みんなポカーンである。まさか、これで終わり?
そう、そのまさかである。岡村ちゃんが出て行った数十秒後、会議室は再び明るくなった。30分くらいは歌うだろうと、勝手に思い込んでいた私たちが悪かったのか。それにしたって短すぎやしないか。デートで彼氏に置き去りにされたような気分だ。
非売品 “チャームポイント” Tシャツをゲット!でも…
すると、今度はエピックソニーの人が登場。たしか「短くてごめんなさい」的なことを言われた後、「お詫びというわけではないのですが、岡村さんのグッズがいろいろあるのでプレゼントしましょう」との流れになった。
巨大ポスターや、レコードショップに置く立て看板など、販促グッズを紹介しながら、箱の中にある往信用ハガキを引き抜くエピックの人。名前を呼ばれた人がグッズを受け取るたびに大きな拍手が起きる。うんうん、よかったね、通常は手に入らないレアなグッズばかりだもんね。私も非売品の “チャームポイント” Tシャツをゲットした。
そして、岡村ちゃんに会えた高揚、時間が短すぎた無念さ、Tシャツが当たった喜びなど、ごちゃまぜの感情を抱えながら、青山ツインビルをあとにした。
会議室を暗くしたのは、本人の希望だったのか、エピックソニーかbayfmが久々にひとまえにでる岡村ちゃんを気遣ったのか。今でも謎である。
彼がどんな姿であっても、私はだいすきだし、永遠にベイベだ。あのとき、太ってしまった岡村ちゃんに戸惑ったのも事実だが、今はむしろ、ほっそりしすぎで心配になる。ちょっとふっくらくらいが理想的なのに…なんて言うのは勝手すぎるだろうか。
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2023.11.05