映画に限らず音楽、漫画、小説、詩などで、今で言うヤンキー物と言われるジャンルは古くは60年代あたりからあったように思う。
その血脈は今でも脈々と続いているが最近のヤンキー物、特に映像においてはコンプライアンスが厳しいせいか、マストアイテムであるタバコ、シンナー、ナイフなどの表現は駄目、箱乗りやノーヘルも駄目な時代である。だが、それでもヤンキー物は生き残っている――
1986年8月9日にヤンキー映画の金字塔『ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎哀歌』が公開された。シリーズ2作目であり夏休み中に公開され大ヒット。仲村トオル、清水宏次朗のコンビが暴れまくる『ビー・バップ』シリーズは全部で6作あるがこの2作目がシリーズ最高峰と言われている。
『高校与太郎哀歌』では1作目からのヒロイン中山美穂も出演。元々、彼女は木村一八と共演したドラマ『毎度おさわがせします』で性に興味を持つ年ごろのヤンキー少女を演じている。しばらくは、そのイメージを引きずっていたが、『ビー・バップ』の清純なヒロイン役でさらなる飛躍を遂げた。ヤンキー役からヤンキーにモテる清純派へとイメージがガラリと変わったのはこの映画の出来が良かったからだろう。
『ビー・バップ』は漫画原作であり、主人公のトオルとヒロシは映画よりも硬派、敵ヤンキーも渋め設定が多かった。仲村トオルと清水宏次朗主演のシリーズ以外にアニメ版、Vシネマ版があるがこちらの方が原作に忠実だろう。だが、アイドル・中山美穂が出演し、娯楽要素が強い2作目『高校与太郎哀歌』がヤンキー映画の金字塔になった。
それは何故か?
ヒット作には色々な理由があるが、私はこう考察する―― それは「暴力」と「笑い」が交差しているからだ。
ヤンキー物では、必ず敵との抗争が描かれる。要するに、主人公と違う中学や高校の不良たちとのケンカである。『高校与太郎哀歌』には城東工業のテルという男がラスボスとして降臨。とにかく、このテルという男のキャラが濃すぎるのである。
テルは、ボンタン(ズボン)狩りを学校単位で計画… 要するに他校のヤンキーの学生ズボンを無理矢理奪ってコレクションしようとするわけ。歩いてるだけでいきなり殴られ、ズボンを脱がされたあげく、ズボンは帰ってこないという、よく考えると凄まじい計画だ。ターゲットにされた主人公・トオルは精肉工場に連れ込まれ、ボンタンを脱がされたあげく、口鉛筆をやられる。
口鉛筆?
説明しよう。口鉛筆とは『鉛筆を適当に三分割位に折り、敵の口の中に無理矢理入れて顔面を殴る』という行為である。1作目では鼻鉛筆だったが2作目は口鉛筆である。
これは、痛い… トオルは下半身パンツ1枚の状態で口鉛筆を喰らいテルに土下座。当時、一部のリアルヤンキーは口鉛筆をホントに真似してたらしい… そんな渦中に中山美穂である! 何なんだ! この映画。
清純で真面目な優等生の彼女は喧嘩を丸く収めようとするが、結果的にさらわれてしまう。ヒロインを救出するべくトオルとヒロシは再びテルに立ち向かう。だが、これがもう無茶苦茶で、金属バットで殴る、2階から突き落とす。ついにはテルがナイフを持ち出し「お前を殺って、年少行ってやるぜ」とうそぶいたりする。とにかく暴力、暴力、暴力暴力暴力暴力である。さて、この映画の凄いところは、これだけ暴力の嵐なのに何故か笑えるところである。
何故笑えるのか? それは全てにおいて表現が過剰だからだ。ラスボス・テルの歌舞伎のようなセリフ回し、想像を絶するアクション、何もかもが過剰。もう笑うしかない。
そして、暴力の嵐の中で笑って笑って、最後に敵を倒しハッピーエンドになった瞬間、エンディングで流れるのが中山美穂の「JINGI・愛してもらいます」。絶妙なカットインで流れるこの曲の作詞は松本隆、作曲はなんと小室哲哉。そういえば、地方ヤンキーの憧れ、浜崎あゆみも歌っていた。ポップチューンとして素晴らしく、映画のテーマソングという枠を超え大ヒット。
歌詞に「好きなら好き そうよ素直に 純なとこ見せれば ホロリとおちるかもね」とある。『ビー・バップ』でヒロインを演じた中山美穂が歌っているから妙に説得力があり、この曲を聴いてからというもの、私は意中の人に素直に告白できるようになった! 中山美穂さん、良い曲を歌って頂き人生変わりました!
え? それで付き合えたのかって…
まあ、結果はご想像にお任せするが、シャバ僧じゃないんで… でも、私はヤンキーじゃなく、ヲタ&サブカル人種でした… ははは…、はは…。
2018.10.14
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