アニソン界を騒然とさせる、かつてないカバーバンド現る
今、日本中のアニソン好きを騒然とさせているバンドがいる。昭和のアニソン、特撮を中心にあらゆる歌をカバーする、毛利泰士とザ・ベスト(通称:モリザベス)だ。YouTubeのチャンネル登録者は2026年1月現在68,000人を超え、総再生数は2,380万回。毛利泰士を中心に総勢11人で編成された、アニソンカバーの職人集団だ。
彼らの凄みは、なんといってもそのコピーレベルの高さにある。1970〜80年代のアニソンを中心に、完コピのレベルが、とにかくけた外れに高い。尋常ではないと言っていい。多重録音で再現したとしても驚愕のレベルだが、これをライブで、生演奏で再現していることが衝撃なのである。
例えば、「炎のさだめ」(作品名:装甲騎兵ボトムズ )。この歌を知っている人なら、曲の出だしのパパパ!という3音を聴いただけで、それが “まんま” であることに気付くだろう。続く演奏はその期待を裏切ることなく、「♪ぬすまれた過去をさがしつづけて」と始まる。これを歌うのはギターボーカルのKAZUKO(梶原健生)だが、モリザベスは他にも毛利泰士、小寺可南子といったメインボーカル3人体制であることが、あらゆるアニソンをカバーできる理由だ。声質が異なる男声2人と、女声1人という編成により、山本正之から水木一郎、ささきいさお、堀江美都子からMIO(現:MIQ)まで、名だたるアニソン歌手の歌を再現することを可能にしている。
モノマネではない “寄せる” ボーカルでリスペクトを込めて再現
彼らの歌はモノマネではなくオリジナルに “寄せる” ボーカルで、それを高度に再現していることが大きな特徴だ。誇張した歌い方ではなく、原曲の微妙なニュアンスを取り入れ、曲によってメインボーカルを変えながら本家に寄せて歌う。オリジナル歌手に多大なリスペクトを込めていることが、その歌声からビンビン伝わってくる。
曲ごとに微妙に歌い方を変えられるのは、地のうまさがあることはもちろんだ。毛利泰士は「宇宙空母ブルーノア 〜大いなる海へ〜」(宇宙空母ブルーノア)で川崎麻世ふうの甘い声を出したかと思えば、「地獄のズバット」(快傑ズバット)では水木一郎になる。KAZUKOは「シャアが来る」(機動戦士ガンダム)で堀 光一路の乾いた声を再現する一方、「戦え!ポリマー」(破裏拳ポリマー)では、ささきいさおになって絶唱する。
モリザベスのセンターはコテカナこと小寺可南子
両者ともいずれ劣らぬ歌唱力だが、圧巻はセンターに立つ小寺可南子、通称コテカナだ。「コブラ」(スペースコブラ)で前野曜子が醸す大人の色気を歌い上げたかと思えば、アニソン界の女王・堀江美都子となって「ボルテスⅤの歌」(超電磁マシーン ボルテスⅤ)や「恋は突然」(愛してナイト)までを歌い上げる。堀江美都子が歌うアニソンは曲によって時に勇ましく、時にかわいらしい女の子になって歌うのだが、その歌い分けをコテカナは曲ごとに再現する。同じ堀江美都子でも、歌い方や声の出し方、語尾の表現などが違うのだ。
また、彼女は低音の色気もさることながら、高音もすごい。あの「エルガイム –Time for L‐GAIM–」(重戦機エルガイム)の大サビの「♪エルガーーーイム!」を地声で完璧に歌いあげると言えば伝わるだろうか。あまりの爽快感と歌いおった!という驚愕から、ライブ会場がどよめく瞬間である。
コテカナのすごさはこれだけではない。アメリカのシンガー、ローズマリー・バトラーの曲である「光の天使」(幻魔大戦)という難しい歌も彼女は歌う。声量、音程、ビブラートの美しさ、これら全てを本家に寄せて堂々と歌い上げる姿は、神々しさすら漂うといっても過言ではない。
「ワイワイワールド」(Dr.スランプ アラレちゃん)では水森亜土になり、「デリケートに好きして」(魔法の天使クリィミーマミ)では太田貴子になり、「オレンジのダンシング」(ななこSOS)では高橋みゆきになる幅の広さ。加えて、アニソンに欠かせない子どもの声のコーラス。コテカナは歌うまの路線だけでなく、男性がメインを務める歌ではコロムビアゆりかご会となって、女児の声でコーラスを乗せてくるのである。恐るべし。
4人が奏でる管楽器の音色が、アニソンカバーの大きなポイント
ボーカル3人の歌のうまさに加え、生演奏でアニソンを再現するにあたり、モリザベスにはホーン隊がいることがなんといっても大きい。サックスにトロンボーン、トランペット2人という4人編成だ。そう、管楽器は昭和アニソンの大半に使われており、逆に言えば、ホーン隊なくしてはこれほどの再現は不可能なのだ。
彼らがカバーする「ガッチャマンの歌」(科学忍者隊ガッチャマン)も「ダンバイン とぶ」(聖戦士ダインバイン)も「行け!ザンボット3」(無敵超人ザンボット3)も「ゲッターロボ!」(ゲッターロボ)も、イントロから全てホーンありきの名曲である。「宇宙戦艦ヤマト」(宇宙戦艦ヤマト)のあの荘厳さだって4人のホーン隊は見事に再現する。
また、近年メンバーにバイオリンが加わって、その再現度にさらに幅と厚みが出ている。例えば「HELLO, VIFAM」(銀河漂流バイファム)のアウトロや、『機動戦士ガンダムⅢ』のテーマソング「めぐりあい」など、バイオリンなくしては成り立たない名曲だ。目立つ部分だけでなく、バイオリンもアニソンには欠かせない楽器だったことを思い知らされる。つまり、11人もの大所帯でなければ、昭和アニソンを再現することはできないのだ。昭和の子どもたちは、なんと豊かな音楽を聴いて育ってきたのだろう。
足さない、引かない、余計なアレンジ一切なしで完全コピー!
こうしてアニソンをカバーするにあたり、一切のアレンジを加えず完全再現することが高い支持を受けている理由だ。演奏レベルの高さをみれば、彼らが何でもできることは一目瞭然だ。だがモリザベスの面々はアレンジを加えずに完全再現する。ドラムしかり、ベースしかり、キーボードしかり。アニソンならではの特殊な音や楽器も見事にステージ上で再現し、演奏しきるのだ。
そのため、タンバリンやカスタネットやカウベルなど、あらゆる楽器がステージには登場する。演歌などでおなじみの “カーン” と鳴る楽器、ビブラスラップもライブでは定番だ。「勝利だ!アクマイザー3」(アクマイザー3)のイントロに入るキラキラキラという音もまた、フレクサトーンを使って完全再現してくれる。
「ダッシュ!マシンハヤブサ」(マシンハヤブサ)では、オープニングに入るエンジン音も入れ、「トライダーG7のテーマ」(無敵ロボトライダーG7)ではボコーダーまで使っている。YMOが好んで取り入れた、ロボットボイスのようなエフェクトだ。こうした細かなこだわりが、アニソンファンをひきつけてやまないのである。
これら昭和アニソンにはそもそもバンドスコアなど残っているはずもない。つまり、驚くべきは全てのパートを耳コピしているということになる。ドラムやベースラインはもちろん、キーボードの音質の微妙な味付けも、ギターのエフェクトも含めてだ。少しでも楽器をかじった人なら、このすごさがわかるだろう。信じがたいことだが、目の前で起きている事実なのである。
こだわりの強いアニメファンが、こぞって賛辞を送るYouTubeコメント欄
すごいを超えて、感動したを超えて、泣いたというコメントが、YouTubeにはあふれている。最後に、その一部を抜粋してみよう。
凄いよね。もう凄いしか出てこない。みんな凄い。同世代にはドンピシャな楽曲。変なアレンジがないのが最高! すべて素晴らしいです。
なんだこりゃ! 涙が止まらない!生で聴いたらずっと泣いてそう。ダ・カーポの特に奥さん(榊原広子さん)の方の歌い方をちゃんと再現してるとこがまた凄い。
キャプテンフューチャーのEDといい、俺のアニソン名曲ベスト10に入ってる曲をなぜチョイスするんだ!最高だよ!この人たちは「カバー」してるんじゃなく「継承」していると思う。今後もたくさんの名曲を次代に伝えて欲しいと思います。
毛利泰士を中心として、モリザベスの全員が本気でアニソンに向き合っていることは、1曲聴いただけで分かるだろう。アニメファンは総じて、こだわりが強い人が多い。そんな人々を唸らせるだけの魅力が、彼らの歌にはある。YouTubeで演奏を聴いた後、そこにあるコメント欄を読むと、アニソン好きの同志がこれほどいるのかと幸せな気持ちになる。
2021年の結成から4年。2025年末、彼らは800人収容のヒューリックホール東京で行われたコンサートのチケットを完売させた。いち早くモリザベスの魅力に気付いた人々の絶賛と喝采を受け、わずか4年での快挙である。さあ、後編では、バンド結成のいきさつなど、毛利泰士のインタビューをお届けする。
毛利泰士とザ・ベスト / メンバー

・毛利泰士(Vocal / Percussion / Guitar)
・KAZUKO(Vocal / Guitar)
・小寺可南子(Vocal / Percussion)
・高山和芽(Keyboards)
・遠藤龍弘TABOKUN(Bass)
・原治武(Drums)
・丸木英治(Trumpet)
・miwa(Trumpet)
・水島 "DOC" 響一(Saxophone)
・大納言(Trombone)
・須磨和声(Violin)
・Photo by 坂本夏樹
2026.01.15