松田聖子の2ndアルバム『North Wind』ほど冬らしいアルバムを寡聞にして僕は知らない。聖子ちゃんカットに天使の輪がくっきりと浮かんだ暖色系のジャケットが物語るように、きりっとした寒さだけではなく確かな温もりも随所に感じさせてくれるこのアルバム、聖子初のオリコン1位に輝いたのにあまりスポットが当てられていない気がするのは、アイドル時代の作品であるがゆえなのだろうか。
デビューアルバム『SQUALL』から僅か4か月後にリリースされたにもかかわらず、『North Wind』は前作同様高い水準を誇っていた。「青い珊瑚礁」の作詞:三浦徳子と作曲:小田裕一郎の名コンビが全10曲中9曲を担当。今は亡き名アレンジャー大村雅朗の温もりのあるアレンジも冴え渡るオープニング曲「白い恋人」、長年コンサートで歌われ続けているB面1曲め「Only My Love」あたりが代表曲だ。
2か月前にリリースされた「風は秋色 / Eighteen」の両A面シングルが収められているのがともすると季節感の統一感を損ないかねなかったが、アルバム唯一の平尾昌晃作曲の「Eighteen」ですら違和感無く溶け込むほどの強いトータル性をこのアルバムは有していた。
そしてもう1曲、このアルバムで忘れてはならない曲がある。それが「Eighteen」に続くB面4曲め、最後から2曲めの「ウィンター・ガーデン」である。何を隠そう、この曲こそ松田聖子初のクリスマスソングなのだ。
恐らくはイブの、彼氏と待ち合わせをする女の子の情景を活写した三浦徳子の歌詞は、この翌年の不滅の名曲「夏の扉」を彷彿とさせる。作曲:小田裕一郎、編曲:大村雅朗も「青い珊瑚礁」と同じ。名曲にならないわけがない。大村のストリングスを多用したアレンジは、「白い恋人」同様、キレがある一方で温もりも感じさせる。夏同様、冬のサウンドも軽々とものにする名アレンジャーの早逝が改めて惜しまれる。
当時男子校中3の僕は未だウブな歌詞に胸を焦がしながら聖子のハイトーンヴォイスに耳を傾けていた。その一方で「冬のアルバム」「スプーン一杯の朝」といった少し大人の歌詞が入ったアルバムの他の曲にどぎまぎもしていたのである。
実は僕が生まれて初めて聴いたアルバムが『SQUALL』、そして2枚めがこの『North Wind』だった。この直後ジョン・レノンの逝去をきっかけにビートルズを聴くようになるのだが、最初に聴いたアルバムが松田聖子のこの2枚だったことは良いスタートではなかったかと僕は今でも思うのだ。そしてこの時期がアイドル時代であるがゆえに軽んじられていると感じると、ちょっと物申してみたくなるのである。
2016.12.23
Dailymotion / hawaiiantommy
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