リレー連載【グラマラス・ロック列伝】vol.1- X JAPAN
7分を超える超高速ナンバー「Silent Jealousy」、29分の大作「ART OF LIFE」 近年、イントロがなかったり演奏時間が3分弱のヒット曲が増えているという。倍速再生が当たり前の時代にあって令和の若者はサクッと消費できる楽曲を好むとか、再生回数で報酬が決まるサブスク対策としての合理化だとか事情は色々あるようだが、その点でいえばX JAPANの楽曲は現代向きではないのかもしれない。
とにかく彼らの曲は長い。5分や6分は当たり前。超高速ナンバー「Silent Jealousy」も7分を超えているし、中には10分を超える大作もある。極めつきは「ART OF LIFE」で、なんと演奏時間29分!これだけ長くても全く冗長に感じることなく延々と聴いていられるのが、このバンドの不思議な魅力でもある。今や世界的なモンスターバンドに成長したX JAPAN。あらためてその魅力に迫りたい。
「天才・たけしの元気が出るテレビ」に出演していた “X” 私がX JAPANを認識したのは90年代初頭。まだバンド名が “X” だった頃だ。髪を逆立てた派手なルックスはたしかに強烈だったが、それ以上に彼らのひょうきんなキャラクターが印象に残っている。どの番組かは不明だが、「X」を「バツ」と読ませて、「バツです」と自己紹介する姿を見て、「こんなに怖い格好をしているけど、本当はいい人達なんだ!」と子どもながらに親しみを感じたのを覚えている。
Xといえば駆け出しの頃、『天才・たけしの元気が出るテレビ』でバラエティ色の強い仕事をこなしていたのは有名な話だ。そのせいで同業者から白い目で見られたというエピソード込みで、今や伝説と化している。ただ、「紅」のメガヒットで一躍スターダムにのし上がったあとも、Xは比較的テレビ出演に積極的なバンドだった。
特に『ミュージックステーション』には事あるごとに出演しており、1997年に解散するまでそれは変わらなかった。言うなれば彼らは音楽界に旋風を巻き起こすカリスマバンドであると同時に、“お茶の間のスター” であり続けたのだ。
メインコンポーザーYOSHIKIのルーツはクラシック “いくら良い曲を作っても聴いてもらえなければ意味がない” という緻密な計算に基づいたテレビ出演やレコード会社設立など、X JAPANの歴史を語るうえでYOSHIKIにまつわるエピソードは事欠かない。しかし、バンドの魅力として最も強調されるべきは何といってもその音楽性に他ならない。クオリティを追求する一方で、マニアックに偏りすぎない絶妙なバランスを維持し続けてきた彼らの音楽は、まさしく唯一無二と呼ぶにふさわしいものだった。
その最大の特徴は、メインコンポーザーYOSHIKIのルーツであるクラシック音楽を取り入れたソングライティング。そして難解な楽譜に命を吹き込むToshi、HIDE、TAIJI、PATA、Heathという超個性的かつ実力派メンバーが集った奇跡ーーそれこそがX JAPANの全てだと言っても過言ではない。
激しい演奏と美麗なメロディの両立 その名を世に知らしめた名盤『BLUE BLOOD』の素晴らしさは今さら語るまでもなく、インディーズ・アルバム『Vanishing Vision』の時点で、激しい演奏と美麗なメロディの両立は早くも完成の域に達していた。
たとえば「ALIVE」はピアノ演奏を基調にした、後の「ENDLESS RAIN」「Tears」を思わせる悲しげな長編バラードだが、同時に狂気をはらんだ激しさを併せ持つ(そして長い。8分24秒!)。イントロにベートーヴェンの「月光」を一部使用するなど、YOSHIKIのクラシックへの素養が存分に発揮されているのもポイントだ。
VIDEO 一方で、このアルバムには「VANISHING LOVE」「紅」のような迫力ある演奏に圧倒されてしまうほどの高速ナンバーも収録されており、メジャーデビュー前から比類なきセンスと実力を持ったバンドであったことがよく分かる。
VIDEO ヘヴィメタル、ハードロック、クラシック、さらには歌謡曲的なメロディを融合した独自のサウンドで、X JAPANはジャンルの枠を超えた音楽の可能性を生み出した。その潮流は “ヴィジュアル系” と呼ばれる新たなシーンとなり、90年代後半に空前のブームを巻き起こすことになる。
若い世代にこそ聴いて欲しいX JAPAN ブームの火付け役となったLUNA SEA、さらにGLAY、L'Arc〜en〜CielのyukihiroもYOSHIKIが設立したエクスタシーレコードの出身者という事実。ヴィジュアル系の起源については諸説あるが、後世に最も影響を与えたバンドがX JAPANであることに異論を挟む余地はないだろう。
個人的には若い世代にこそX JAPANを聴いてもらいたいと思っている。サブスク全盛の今だからこそ、一曲をじっくりと堪能するという体験は新鮮に感じるのではないだろうか。「ART OF LIFE」がTikTokでバズることはないかもしれないが、彼らの音楽に感化されてバンドを組みたいという衝動に駆られる若者は、きっとこれからも現れるに違いない。
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2024.04.04