9月21日

多岐川裕美の「酸っぱい経験」シャツのボタン二つはずして僕はメロメロ

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日常生活に溶け込んでいるフランス語


日常的にフランス語を使うことってなかなか無いし、「フランス語なんて全然わからないよ」と思うのは、ごく自然なことだと思われる。

けれども、フランス語… これ、単語として、けっこう日常生活に溶け込んでいたりするから面白かったりする。

例えば、口紅のことを “ルージュ” なんて言うけれど、ルージュはフランス語で “赤” である。じゃあ白は? となると、ブランマンジェという洋菓子が一時期流行ったが “ブラン” はフランス語で “白”、“マンジェ” は “食べ物” という意味。食べ物で言えば山崎ビスケットの “ノアール(ノワール)” は “黒”。ジーパンの “藍色” のことを “インディゴ” なんて言うけれど、これもフランス語なんだよね。

カゴメ トマト&レモンのCMソング、多岐川裕美「酸っぱい経験」


さて今回はカゴメ「トマト&レモン」のCMで、白いシャツが印象的だった多岐川裕美さんが歌う「酸っぱい経験」をもとに、まだまだ子どもだった17歳の思い出について語ってみたいと思う。

高校生の僕は、ちょっと変わった後輩と出会った。

それはちゃんと付き合うことになった初めての女の子なんだけど、それはもう恥ずかしながら僕の完全な一目惚れで、年齢はひとつ下… その子はまだ16歳で1年生だった。

彼女は、授業中にノートは一切取らず、授業が終わったあと、休み時間にノートに要点だけまとめるという秀才で “実に頭の良い変わり者” と、同級生の評判。都内のライブハウスに通ったり、映画のオーディションを受けたり(『乱』という黒澤明監督の映画のオーディション最終選考の3人まで残ったのに、撮影が夏休み全部を使うと言われて辞退するという変人っぷり)、でも僕はそんな彼女のアグレッシブなところとか… いや、もはや恋は盲目なので、全部が “好き” で埋め尽くされていたのだ。

僕らは、廊下ですれ違うとわざとよそよそしくしたり、でも二人っきりになるとベタベタした。当時流行っていたチャゲ&飛鳥や村下孝蔵、白井貴子なんかの話題で盛り上がり、部活を終えると彼女を送るため、毎日自転車のうしろに乗せて駅まで突っ走った。そんな二人乗りの姿は、傍目から見れば青春そのものとして映っていたに違いない。

「酸っぱい経験」の歌詞そのもの? 17歳の思い出


そして、少し日差しが強くなった5月のとある日、教室で――

男子は学ラン、女子はブレザーの高校だったけれど、窓際にいた彼女はさっとブレザーを脱いで真っ白なブラウスになり、暑かったのだろうそのブラウスを第二ボタンまで外したのだ。

白い肌が胸元の際までのぞき、目に飛び込んできた小さなふくらみと水色のブラジャーが上気した彼女のピンク色の頬と相まって僕はドキドキした。窓の外にはこっちを向いている生徒だっているからだ。心の中で「見えてる…! おい… ちょっと… 見えてるって!」と、目が泳いでいたに違いない。

まさにこの体験こそが「酸っぱい経験」の歌詞そのもので、CMを見たときにはわからなかった感情の点と点が、場面として一気に結びついた瞬間だった。

 シャツのボタン
 二つはずしただけで
 他の男の視線 気にしてる

そう、彼女はひとつ年下だったけれど、中身は僕の何倍も大人だったのだ。

モンシェリー… フランス語で “愛しい人”


30年以上も前のことだけれど、僕は彼女からBL(ボーイズラブ)の小説を借りて衝撃を受けたし、カフェオレという飲み物が世の中にあることを教えてくれたりもした。

僕は彼女に「好き」ってことばを言って欲しかったのに、彼女はいつも「嫌いじゃないわ」と僕をたしなめて、軽くキスをするような女の子だった。

ブラウスのボタンを外した彼女は、ちょっぴり悪戯っぽく笑い、それは完全に “うぶな僕” を試して面白がっていて、そんな彼女に僕はメロメロだったのだ。

 あなたおいくつと
 ひやかせば
 ムキになる人… モンシェリー

これだ。この「モンシェリー」という言葉。当時モンシェリーという商店街が地元にあって、その言葉はすっかり生活に溶け込んでいたけれど、実は、英語だか何だかさっぱりわからなかったんだよね。

もちろん今ならわかる。これはフランス語で「愛しい人」という意味。けれどもこの歌の雰囲気から意訳すれば「可愛いわね… ぼうや」ということだろう。年下の女の子に弄ばれる僕… なんたる情けなさであろう…。

作詞は三浦徳子、キャッチーなメロディに乗せた味わいあるストーリー


「酸っぱい経験」の作曲は、小笠原寛(現在は手使海ユトロとして活動)その楽曲は、お洒落で印象的なコード進行とベースラインが格好良く、そのキャッチーなAメロがCMで使われていた。

歌詞は、「裸足の季節」や「青い珊瑚礁」「チェリーブラッサム」など初期の松田聖子に貢献した人気作詞家の三浦徳子。その歌詞の世界は、酸っぱい経験を巧みに表現した味わいあるストーリーだ。

シャツのボタンを外してからかった女性がこの後どうなるかというと、

 枯葉色の 街を見つめていれば
 私達の人生がまわる
 ピアニッシモで過ぎてゆく
 それが好きなの 今は

 あなたの歴史のページの
 ちょっとすっぱいあたし
 想い出にしてね

と、移ろう季節とともに彼の「酸っぱい経験」として、身を引く淡い恋物語のヒロインとして描かれている。やはり彼女は大人なのだ。

ちなみにカゴメ「トマトジュース」は、その頃からずっと食塩無添加を売りにしていて、100%トマト果汁のジュースに初めてレモン果汁を加えて発売した亜種が「トマト&レモン」である。

商品としてはそれほど人気が上がらず、今は生産していない。カゴメの公式ホームページにこの「トマト&レモン」の商品ラインアップがないところをみると、カゴメにとってもこれは酸っぱい経験だったのかもしれない。

そういう僕と彼女も、高校卒業とともに疎遠になり、あんなに楽しかった日々も、今は酸っぱい想い出としてだけ、僕の記憶に刻まれている。

初恋とは、得てして酸っぱい経験そのものなのだ。


※2018年5月5日に掲載された記事をアップデート

2021.02.16
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  YouTube / ちちウルトラ


  YouTube / makotosuzuki (1分17秒よりカゴメCM)
 

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カタリベ
1967年生まれ
ミチュルル©︎たかはしみさお
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