10月21日

歌手デビューしたプロ野球選手 ー 小林繁の甘い歌声とむき出しの闘争心

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かつての音楽業界は、プロ野球選手が歌手デビューすることが多かった。近年のプロ野球人気や社会情勢を考えると想像しにくい現象だったが、当時レコードデビューすることは人気選手であることの証明であり、多くの場合、“チームの顔” と呼ばれる選手が多かった。そして、聴いてみると選手によってはかなりの美声で驚かされることも多く、中には10万枚以上を売り上げた作品もあったようだ。

では、ここで1980年までの、主な作品を紹介してみたい。


★「白いボール」王貞治(65年)
やっぱりあった、世界の王さんの曲。年間のホームラン記録(当時)55本をかっ飛ばした年に発売している。大活躍した年だからリリースしやすいのかも。

★「あぶさん」江本孟紀(73年)
水島新司さんの人気漫画『あぶさん』との連携曲。かなりのレベル。エモやんは、その後シングル数枚(ウィキペディアによれば、全5枚)とアルバムもリリースしている。

★「ひとり」山本浩二(75年)
先日、本人をインタビューする機会があった。カープの選手というよりもチームリーダーとしての心得をお聞きしたのだが、その責任感の強さに大きな感銘を受けた。ちなみにこの年、カープは初優勝しており、四番・山本は打率.319、30本塁打、84打点、24盗塁という大活躍。MVPを獲得している。やっぱり活躍した年はリリースしやすいようだ。

★「掛布と31匹の虫」掛布雅之(78年)
ミスタータイガース・掛布雅之のメインボーカルに、日本児童合唱団のコーラスが加わった。あまり上手とは言えないが、やさしい人柄がにじみ出た作品だ。ちなみに前年には、関西人なら大抵の人が知っている掛布の応援歌「GO! GO! 掛布」が発売されている。

★「愛してヨコハマ」平松政次(79年)
カミソリシュートを操り、ジャイアンツキラーとしても名をはせた大洋ホエールズのエース。野球もうまいが、歌のうまさにも定評があった。この年も大活躍で、最優秀防御率を獲得している。

★「しあわせに」柳田真宏(79年)
“巨人史上最強の5番打者” と呼ばれた外野手。引退後の1983年には、本格的に演歌歌手としてデビューしたほどの実力だ。

★「亜紀子」小林繁(79年)
さて、本コラムの主題は小林繁。世間を驚かせた大トレードで移籍し、巨人のエースから阪神のエースとなった。それまではクールなイメージであったが、巨人戦になると闘争心をむき出しにして8連勝。柴田、高田、張本、王、シピンと続く巨人の強力打線を圧倒する姿に、阪神ファンは大いに沸き立った。


そして、22勝、防御率2.89という好成績で沢村賞を獲得。悲運のエースと呼ばれた男は、阪神ファンの心を鷲掴みにしたのだ。その勢いに乗ってリリースしたこの作品は、甘い歌声も話題となり、発売1か月で10万枚を超えたらしい。

一方の巨人は、阪神より下位の5位に終わり、後に「地獄の伊東キャンプ」として語られる秋季練習へと向かうことになった。

★「昨日の女」小林繁(80年)
前年に続く活躍で15勝を上げ、登板回数はなんと280.1イニング。これはすごい。5位に沈んだ阪神を献身的に支える姿は、きっと女性ファンを大いに増やしたことだろう。

この年の8月16日、後楽園スタジアムで小林VS江川の投げ合いが初めて実現している。世間の注目を集めたこの一戦は、完投した江川に対し、小林は5回4失点で降板。試合は江川が勝利投手となった。

「昨日の女」は、湯原正幸の曲をカヴァーしたもの。歌にはさらに甘さが加わり、多くの女性ファンに支持された。その裏付けをするエピソードを1つ。

80年代、京都・木屋町のカラオケでは、「亜紀子」「昨日の女」のリクエストが多々あった。知人男性のOさんもしょっちゅう歌ってはいたが、むしろ女性のほうが多かったと思う。

特に京都、いや日本を代表する女性用下着メーカーW社の女性たちが、来店するたびに必ず歌っていた。当時、誰が歌っているのか知らなかった私は、彼女たちから聞かされて驚いたものだ。偉大なエースは、歌でもファンの心を掴んだのだ。

ここまで1980年までの作品を紹介したが、これ以降については別の機会にて。小林繁の歌声を聞いて欲しい。


「亜紀子」
作詞:八谷けい
作曲:内山田洋

「昨日の女」
作詞:阿久悠
作曲:五十嵐悟

2018.01.08
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カタリベ
1964年生まれ
小山眞史
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