人間、誰もが何かしらストレスを抱えて生きているものだ。過度のストレスがボクを襲う時、頭の中で必ず流れ出す曲がある。
「ワルキューレの騎行」は19世紀のドイツの作曲家、ワーグナーの作品。カンヌ映画祭でパルム・ドールを獲得した映画『地獄の黙示録』の中で印象的に使われているので知っている人も多いと思う。
ベトナム戦争の真っ只中、米軍のヘリ部隊がゲリラの拠点である村に奇襲を掛けるシーン。指揮官が兵の士気を高める為に、このクラシック曲を録音したテープをスピーカーで戦場に流すのである。そして村の住民に向け音楽と共に雨のように銃弾を浴びせ、砲火ですべてを破壊し尽くしていく。
この映画史に残る名シーンの言い知れぬ狂気が忘れられず、感光したフィルムのように記憶の底に深く焼き付いている。だから、自分にピンチが訪れると必ずこの曲を思い浮かべてしまうのだ。
例えば、散々苦労してようやくデートに誘った女の子を、行った先の洒落たBARのチャラ男店員にかっさらわれた時。
例えば、テレビの仕事で行った取材先でコワモテの男に監禁されかけた時。
例えば、5センチにも満たない距離で顔を突き合わせて、大物芸能人から凄まれた時。
例えば、3ヶ月分のギャラを支払わず、突然クライアントがトンズラした時。
いや、まだある。先輩ディレクターS氏に誘われて行った新宿のニューハーフ店。「取材のお礼を兼ねて飲みに行くから付き合え」と言うので、仕方なく行った時のこと。
先輩はママの執拗な股間タッチが気に入らなかったのか「トイレに行く」と言い残したまま、その場から金も払わず消えてしまった。
あとで話を聞いたところ「だって、怖いじゃね~かよ。酔わされて襲われちまう。」などと言っている。しかもそんな場所に私を一人置き去りにしたのである。正直、先輩ではなくこっちが危なかった。
そう思ったその瞬間、ボクの頭の中で… ワルキューレがぐるぐるとまわり始めていた。
地獄の黙示録(アメリカ映画・1979年製作)
監督:フランシス・フォード・コッポラ
日本公開: 1980年(昭和55年)2月23日
2016.04.16
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