アルバム「Bewith」で迎えた今井美樹のターニングポイント
唐突ですが、自分の音楽人生における重要なアーティストの一人に “今井美樹” がいます。その期間は布袋寅泰のプロデュースになるまでの1995年まで… と、かなり限定的なのですが、個人的にかなり濃密な時間を過ごしたアーティストだと言ってもいいでしょう。中学時代からシンガーソングライターを専門に生きてきた自分にとって、いわゆる “ボーカリスト” にここまでハマったのは、岩崎宏美、松田聖子に次いで3人目でしたし、今井美樹は冴えなかった生活を鮮やかに彩ってくれた重要な存在だったのです。
僕が最初に今井美樹を知ったのは、大学生時代にアルバイトをしていた喫茶店で、一緒に働いていた高校生から薦められたのがきっかけでした。それは3枚目のアルバム『Bewith』だったのですが、このアルバムを聴いたことがきっかけで、どっぷり “今井美樹の沼” にハマっていくわけです。
今でも一番好きなアルバムはこの『Bewith』なのですが、最初に聴いたアルバムを超えることって意外に難しかったりしますよね。このアルバムは上田知華と柿原朱美が初めて参加した作品であり、ヒットシングルが収録されていないにも関わらず、オリコンの1位を獲得する大ヒットアルバムになったわけですから、大きなターニングポイントになった作品だと思います。そして今井美樹はこのアルバムのヒットで確固たる自身の世界観を築き上げることになるのです。
この『Bewith』が発売になった、翌1989年の年末に、初のベストアルバム『Ivory』が発売されています。89年といえばアナログ盤からCDに音楽フォーマットが切り替わった時期で、恋人たちの車のBGMにもなったこのアルバムはミリオンセラーを記録しています。今井美樹の音楽というのは、センスの良いAOR的サウンドと、唯一無二の声のバランスが魅力なのですが、この『Ivory』はただの寄せ集めではなく、1枚のオリジナルアルバムのように流れを重視して選曲されています。
セカンドシングル「野生の風」。映画・漂流教室の主題歌に起用
今回ご紹介する「野生の風」は1987年7月1日に発売された、今井美樹2枚目のシングルで、原作:楳図かずお、監督:大林宣彦の映画『漂流教室』の主題歌に起用されました。
作詞:川村真澄、作曲:筒美京平、編曲:久石譲という豪華作家陣の手による楽曲ですが、オリコンの最高位は24位で大きなヒットにはなりませんでした。しかし、1997年に発売された筒美京平のBOXセット『HISTORY / 筒美京平 ULTIMATE COLLECTION 1967~97』にも収録された名曲として知られています。
この時期の今井美樹は、モデルや女優として活躍はしていましたが、歌の方はまだそこまで認知されていなかった時期だったにも関わらず、収録アルバム『elfin』はオリコンの5位を記録しており、日本レコード大賞の「優秀アルバム賞」も受賞しています。
ちなみに、この曲は先ほど紹介したベストアルバム『Ivory』にも収録されていますが、アルバムの流れを一切崩すことのない1曲として存在感を放ち収録されています。また、「野生の風」の編曲を手掛けた久石譲は、その後、今井美樹の1992年のアルバム『flow into space』のサウンドプロデューサーに起用されています。
サブスク時代における意外なヒット曲
僕は普段Spotifyユーザーなのですが、調べてみると今井美樹のトップトラックは断トツで「PRIDE」でした。そのあとに続いているのは「PIECE OF MY WISH」「彼女とTIP ON DUO」で、「野生の風」はその次に再生回数が多い楽曲なのです。
多くの代表曲を持つ今井美樹の人気楽曲の中で、ここまで多く再生されているとは思っていなかったので、今回意外な事実を知ることが出来ました。Spotifyの再生回数は人気が如実に数字に反映されるので、意外なヒットを見出すことができてとても興味深いです。
この名曲「野生の風」が発売されてから早35年が経過したとのことですが、この秋にはロンドンから帰国し『今井美樹 with 倉田信雄 Billboard Live 2022』というタイトルのコンサートが開催されるそうです。“withコロナ” の時代に突入し、ようやく彼女の素晴らしい生歌を聴きに行けるファンの方も多いと思います。
歌手デビューから35年以上経過して、さらに洗礼されたアーティストになった今井美樹。彼女のコンサートがご無沙汰な方も、久しぶりに足を運んでみてはいかがでしょうか?
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2022.07.01