伊藤銀次が書き下ろしたクリスマスソング
12月24日生まれの僕にとって、1983年はなんとも象徴的で、ある意味記念すべき年となった。なんとクリスマスソングを1年に3曲も発表することになったからなのである。
長いあいだ日の目をみることがなかった70年代が開けるやいなや、まるで休火山が一気に活動をはじめたかのように、銀次は1982年4月から1983年4月にかけて、立て続けにポリスター・レコードから3枚のアルバムをリリースした。
銀次のポップンロールが開花した、いわゆる「アダルキッズ3部作」。この頃ノリにノッていたとはいえ、間髪いれぬ3枚の連続リリースはなかなかに大変なものだったけれど、そのおかげで、若い新たなポップスファンが多くついてくれて、晴れて自分の全国ライヴツアーもできるようになったのはとてもありがたい出来事だった。
そこで、つづく4枚目となる『WINTER WONDER LAND』は、これらのアルバムを支持してくれたファンへの、僕からの感謝の気持ちを込めて送るグリーティングカードのような冬休みアルバムを目指して制作、さらにクリスマス・イブ生まれということを意識して、「雪は空から降ってくる」と「フェアウェル・ブルー・クリスマス」の2曲をアルバムのために書き下ろした。
高橋信之&高橋幸宏兄弟プロデュース「WE WISH YOU A MERRY CHRISTMAS」
これでもう生涯クリスマスソングを書くことはないだろうと思っていたら、なんとこのアルバムのリリース前に、アルファ・レコードからいろんなアーティストが参加するクリスマスソングのオムニバスアルバムに参加してほしいとのオファーがあったのだ。
そのアルバムのタイトルは『WE WISH YOU A MERRY CHRISTMAS』。海外ではこういったクリスマスソングのオムニバスのアルバムはよくあったけれど、日本ではまだかなり珍しかった画期的な企画。
プロデューサーは高橋幸宏君、高橋信之さん兄弟で、参加アーティストは高橋幸宏、大貫妙子、細野晴臣、越美晴、上野耕路、戸川純、ムーンライダーズ、ピエール・バルーというそうそうたるメンバー。当時の日本のロック / ポップスでの最先端をいくニューウェーブシーンの立役者たちばかりで、僕はちょっと浮いてるのではと心配したけれど、ぜひにというお願いだったので、あえて他のアーティストのことは考えず、僕らしいサウンドでいこうと決めて、ハリー・ニルソンかバカラックみたいな曲を意識して書いたような曲調でレコーディングすることにした。
自分のアルバムのために書いた2曲の詩は、ドリーミーで幸せないつもの銀次ポップスだったので、さすがに3曲目も似たような感じにするのはちょっと芸がない気がしたので、方向を変えて、別れた二人が、クリスマスイブの夜に街でばったり出会うことからはじまる、ちょっとビターで大人の味わいのクリスマスソングにした。それが「ほこりだらけのクリスマスツリー」。
伊藤銀次らしいクリスマスソング「ほこりだらけのクリスマスツリー」
はたして僕はかなりアルバムの中で浮きまくってしまうのではないかと、たえず心配しながらレコーディングしていたら、レコーディングをのぞきにきてくださったプロデューサーの高橋信之さんから「銀次さんには最初から他の参加アーティストにはない銀次さんらしいものを期待していたのでばっちりです」といううれしいお言葉が。
信之さんはバズのヒット曲「ケンとメリー~愛と風のように~」の作曲でおなじみの音楽プロデューサー。会うのは、かつて70年代にバズのレコーディングでギターを弾いた時にお世話になって以来。そのときはゆっくりお話ができなかったけれど、このレコーディングのときにはいろいろと打ち解けてお話をすることができてよかった。
もうはっきりとは覚えていないけれど、あれはセディック・スタジオやレコードショップのWAVEが入ってた六本木にあったビルのどこかで、たしかこの参加メンバーが一堂に介してレコ発のトークライヴをやった記憶がうっすらとあるけれど、細かいことは残念ながら忘れてしまったね。
うれしいことにこのアルバム、40年近い時を経て、2021年の12月現在の今でも手に入れることができるというのは、夢のようでまさにアーティスト冥利に尽きることだ。
ちなみに、その後2017年の僕のアルバム『MAGIC TIME』のために「誕生日がクリスマス」という曲を書いたので、なんと生涯にクリスマスソングを4曲も持つという実におめでたいアーティティストに!! これもひとえに、クリスマス・イブに生まれたということからくる一種の宿命みたいなものかもしれないね。なにはともあれ、そんな僕からみなさんに――
メリー・クリスマス!!
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2021.12.17