2023年 5月5日

Mr. Melody【杉真理 最新インタビュー③】君は “音楽の魔法” を信じるかい?

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杉真理の自伝「魔法を信じるかい ミスターメロディ・杉真理の全軌跡」発売日
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『Mr. Melody【杉真理 最新インタビュー②】大瀧詠一、佐野元春、竹内まりやを語る』からのつづき

5月5日に初めての自伝となる『魔法を信じるかい ミスターメロディ・杉真理の全軌跡』(DU BOOKS刊 / 著:杉真理 構成:佐々木美夏)が発売。昨年リリースされた『Mr. Melody〜杉真理提供曲集〜』も好評な日本屈指のメロディメイカー杉真理。インタビュー最終回となるこの第3回では、昨年リリースされた『Mr. Melody〜杉 真理提供曲集〜』について、今どのような音楽に注目しているかなど、現在の杉真理の心境を中心にたっぷり語ってもらった。

「Mr. Melody〜杉 真理提供曲集〜」に込められた思い


―― ソロがあって、バンドがあって、昨年『Mr. Melody』という提供曲集を出しましたよね。楽曲提供の場合には、ご自身の作品とは大きな違いがあるわけですよね。

杉真理(以下杉):それはもう、主人公が違いますからね。自分が主役でずっとやっているよりも違う主役の方が面白いのでは? というのと同じです。

―― 数多くの提供曲のうち、思い入れが深い曲はありますか?

杉:作家の方は思い入れが強すぎると次に行けないとよく言いますよね。でも僕はシンガーソングライターという自分のフィールドがあるので、どの曲にも全力で思いを込めます。それでダメだったら、「自分の活動に戻ります」というシェルターがあるので。

ソロ、バンド、作曲と、それぞれに制約があります。それを不自由と考えない。制約があるからこそ、他の活動に対する自由さが生まれると思います。例えばソロに戻った時はバンドでは制約があって出来なかったことをやってやるぞ! という気持ちになるし。作曲だったら、自分では歌えないけど、これを歌ってもらえたら… ってね。だから自由を求めて彷徨い歩いているのかもしれないです。

―― そんな杉さんの提供曲の中で「ウイスキーが、お好きでしょ」という名曲がありますが、あのメロディが人々の心に溶け込んでいった理由をどうお考えですか?

杉:最近思うのは、あの曲はジャジーなところと、歌謡曲チックなところと両面があるということです。で、それを考えると、僕が一時拒否していた歌謡曲というのも、ほとんどが戦後にジャズを日本人が歌って受け継がれた部分がありますよね。

僕が大好きな作曲家の中村八大先生もジャズピアニストです。八大さんが手がけた「遠く行きたい」もそうだし、「上を向いて歩こう」や、「こんにちは赤ちゃん」もですが、そういう名曲には、元はジャズだけど、外国とは違ったガラパゴス的な進化を遂げた日本ならではのメロディがある。「ウイスキーが、お好きでしょ」にはその流れが汲んでいるのかなとも思います。

―― 先ほど、情念が好きではないというお話がありましたが、歌っている石川さゆりさんは情念を込めて歌う方ですよね。

杉:情念の方ですよ。だからこそというか、あの曲を歌った時に、表現力がすごいな! と思いました。

――「津軽海峡冬景色」の時の石川さんとは全然違いますよね。

杉:違いますよね。上手い人は違う方向性に行っても上手いなと思って。本物は違う!と感じましたね。



杉真理を圧倒させた女性シンガーとは?


―― 最近の女性シンガーでこの人は素晴らしい! という方はいますか?

杉:いるんですよ! 4月に友達がBOXの曲をカバーするからと言われ観に行ったのですが、その時対バンで出ていた人です。ザ・ナスポンズというバンドの中心にいるボーカルの松浦湊さんという方ですね。バックには上原 “ユカリ” 裕さんや、元シネマの小滝(ミツル)君、カルメン・マキ&OZでギターを弾いていた春日(博文)さんというすごい人たちが彼女のオリジナルをサポートしている。

面白いなぁと思って、YouTubeでいろいろ観たらぶっ飛びました! ここまでハマった人はここ数年いなかったぐらいですね。曲によって人格が変わるというか、全然違うんです! ギターが上手くて、ある時は小野リサとかジョアン・ジルベルトみたいな曲をやって、コードの押さえ方も完全にボサノバでメロディも完全にボサノバ。曲によっては、ジョニ・ミッチェル、ボブ・ディランを感じるところもあるし。この人のルーツは何? と思わせる人。歌詞にしてみても、僕には絶対書けないようなフレーズばかりだし。それで僕のラジオに出演してもらって弾き語りをしてもらったのですが、完璧ですね! 僕はファンです!

自分のやっている音楽はマイノリティ。再生回数にこだわるものではない


―― 今はYouTubeで好みの音楽を検索したり、サブスクで聴き放題になったりと、音楽を楽しむ環境も随分と変わってきましたよね。

杉:確かに便利になったと思います。ただ、今はみんな再生回数にこだわりますよね? あれって要するに何万枚売れてなくてはいけないというところに似ていて、それは僕が求めているものではないなと。再生回数にこだわる人と僕は違うと思っています。

―― サブスクについては、この本の中にも「もう一回立ち止まろう、知った気でいるのをやめよう。サブスクとか配信で音楽の楽しみ方の選択肢が増えたはずなのに、逆に減ったんじゃないかなって気がした」と書かれていましたが、僕も情報が溢れているから、自分から主体的に音楽を追求していく人が減ったなと感じています。

杉:そうですね。僕でさえも、アルバムをダウンロードしたり、サブスクで聴いたりという環境があると、いつでも聴けるからと聴いた気になってしまう。だけど、いつまで経っても聴かないという(笑)、録画した番組をいつまでも観ないのと似ていますよね。だから再生回数を気にするというのは僕のスタンスではない。そう思うと自分のやっている音楽はマイノリティだなとも思います(笑)。今はすごく便利になってきたと思いますが、それを深く聴き込むというのは二の次ですよね。だから僕はいいなと思った作品は物で買うことにしています。

―― アルバムはジャケットがあっての作品だと僕も思います。杉さんもレコードの時代ならA面、B面を意識して制作されていたと思います。これはCDの時代になっても大切な部分だと思います。

杉:ジャケットはイメージを広げてくれます。イメージが広がると異次元にいける。それに今は簡単に曲を飛ばせる。だけどレコードの時代は、針を上げて曲を飛ばすのが面倒臭いから全部聴こう! みたいになりましたよね。今は便利になった分、深く入ろうと思ったら、決心が必要になると思います。

メロディやビートが持つ力、曲が持つ前向きさを感じて欲しい


―― この本にも書かれていますが、3.11の東日本大震災やコロナ禍を経て常識や考え方が変わってきた部分が大きいと思います。こういった部分が音楽にどのような影響を及ぼしたと思いますか?

杉:根っこがどの方向に向かっているかだと思います。僕は音楽をやっていて自分も元気になりたいし、聴いた人が元気になったり、慰めになったりして欲しい。傷口を舐め合う音楽をはやりたくない。そういう音楽も必要だと思いますが、それは僕の役目ではないので。傷口を舐め合う音楽ではなく、僕の視点で素晴らしいものを見つけて、それを歌にしていきたい。

―― なるほど。音楽の役割は外科ではなく、内科である。人の心を内側から元気にさせ、癒しになるものだとも書かれていましたよね。震災でエンタテインメントがストップして、その後再開されたとき、どんなことをお考えになりましたか?

杉:日本だと、歌詞ですべてを判断しがちだな… と感じました。言葉って、上層もあるし、その下もある。だけど、上層しか見ないで「これは慰めの歌だ」とか、「これは言ってはいけない言葉だ」と決めつける場合があります。実際、震災の後に東北に行った時、「WAVE」という曲を歌えなかった(2001年のアルバム『POP MUSIC』に収録)。良い波が来ますようにという願いを込めた歌だけど、津波の後は絶対歌えなかったんですよ。何年か後に行った時に「WAVE」をやったら仙台の人が「『WAVE』をやっと歌ってくれてありがとうございます」と言ってくれました。

“波” という上っ面の言葉だけでこれを歌ってはいけない…。だけど慰められている人は、慰める歌ばかり歌わないで、もっと大笑いできる歌も歌って欲しいと思う人もいる。だけど、言葉だけ、タイトルだけで決めつけてしまう…。



―― 本当、表層的な部分しか見ないという傾向はありますよね。それで当然、世の中は自粛する方向へ流れていきますよね。

杉:すぐに叩かれるからね。でもそうではない。特に日本では最近、歌詞ばかり注目してしまう。もちろん歌詞は大事だけれど、メロディとかビートが持つ力、曲が持つ前向きさ、そういうところを見なくなっている。それは音楽の楽しみ方からするとすごく浅いような気がします。

―― 歌詞ばかりに注目するあまり、コンプライアンスを気にして本質ではない部分で言葉狩りみたいな状況になっていきますよね。

杉:歌詞だけにとらわれていたら音楽を楽しめないし、もっと音楽の効用はあるのに。もちろん、歌詞から音楽に入っていく人もいる。でも、僕のような人は基本的にメロディから入ってその後歌詞の素晴らしさを噛みしめることが多い。提供曲集を『Mr. Melody〜』としたのも、「拝啓メロディ様」という意味からです。

―― 歌詞ばかりを尊重すると作品に対する見方が変わるから心配なところでもありますよね。

杉:そうですよね。ビートとか、メロディとか、コードとか、今一番面白くないのはコード進行ですね。例えば、ビートルズを聴いて、「このコード進行どうなっているの?」と思うのですが、最近は転調を上手く使っている曲は少ないし、転調なんてみんな考えなくなってしまった。もちろん、考えている人もいます。音楽にはそういう楽しみ方がありますが、あまりにも歌詞を偏重してしまう…。もちろん歌詞がハマった時が僕にとって最大の喜びを感じる瞬間ですが。

平和な世の中になるために音楽で貢献したい


―― 杉さんは、ビートルズを通じていろんな人との出会いがあって、現在のご自身があると思います。そんな出会いの中で、大瀧詠一さんや須藤薫さんのようにお亡くなりになった方もいます。そういう人たちから教えてもらったものはどのようなことですか?

杉:当たり前のことですが、持ち時間は無限ではないという、ついつい忘れがちなことを教えてくれました。自分の人生で何をやりたかった、何色にしたかった、それが叶えられたかどうかは自分の責任ですからね。人のせい、時代のせいにするのではなく、そっちに向かわなかった自分が悪いし、何かを得られたのであれば、自分が偉いのだし(笑)。だから時間を無駄にしないで、美味しいものを食べ、良い音楽を聴き、良い音楽を作る、好きな人と会う。そういう当たり前の世の中になるために音楽で貢献出来たらなと思います。それこそ、平和な世の中ですよね。平和な世の中になるために貢献したいと思います。こんな時代だから。

―― 杉さんは「自分の可能性に挑戦していくものがロックだ」と言いましたが、その先に平和があるということですか?

杉:そうですね、自分も周りも。

僕はメロディの魔法で人生が変わってしまった。だから、同じ魔法にかかって、良い世界を作って、良い人生を送りましょう


―― この本をお書きになりながら、いろいろ振り返ったと思うのですが、これまでの人生で一番大きなものは何でしたか?

杉:物事を肯定的に考えることかな。その時に降りかかったことも、今は逆の方向に向かっているように見えても、実は迂回していただけだと、それが結果的に案外近道だったと。僕の人生を振り返ってみると、ほとんどがそうだった。高校受験で志望校に落ちたり、大学受験で落ちたり、女の子に振られたこととか、曲をボツにされたこととか、今思うと、これがあってよかったなと。この本を書きながらそんな風に強く思えました。

でもついつい、「俺はなんてついてないんだ」と思ってしまうのが人間。今の自分に正しい道なのか分からなくても、いつか謎が解けるというのがあります。だから頑張ったのに結果がすぐについてこない時、無理に抵抗したり、突破したりしようとすると自分の宝探しから遠のいてしまうというのをこれまでの人生で学びました。そんな時こそ「Let It Be」です。



―― この本のタイトルは「魔法を信じるかい」ですが、杉さんのファンもメロディの持つ魔法を信じていると思います。

杉:僕はメロディの魔法で人生が変わってしまった。音楽によって世界は変えられないという人もいますが、ビートルズの登場しかり、ずいぶん変わりましたよね。それは後になってわかるだけであって、やはり見えないところで世界を変えているのが音楽であり、それが魔法だなと。

例えば、朝ラジオから流れていた曲で気分が良くなれば、前の車を通してあげて、割り込みを入れてあげたおかげで誰かが何かに間に合って、その誰かが恋に落ち誰かが生まれて、その人が世界の指導者になるかもしれないわけです。実際、世界はそうやって動いているのではと僕は思います。だから、同じ魔法にかかって、良い世界を作って、良い人生を送りましょう。

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2023.07.11
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