「ハイティーン・ブギ」がハシリだったツッパリブーム
70年代の終わり頃から、俗に言う "ツッパリ" が流行った時代があった。小学館の『プチコミック』に連載された牧野和子が作画を担当した漫画『ハイティーン・ブギ』辺りがハシリだっただろうか。80年代に入ってからは、きうちかずひろの『ビー・バップ・ハイスクール』。こちらは講談社の『週刊ヤングマガジン』で連載されて人気を博した。ブームとはいえ、皆が作品の世界を実践するわけではなく、フィクションの世界で擬似体験を楽しんでいた人が大半だったろうが、ファンの中には実際にヤンキーの皆さんもいたのかもしれない。
こうした文化は音楽の世界にも系譜があり、遡れば70年代はキャロルやクールス、それらを一種パロディー的に歌謡曲の世界に寄せて成功したのが80年代になって登場した横浜銀蝿だった。また、 “なめんなよ” のキャッチフレーズで一世を風靡したキャラクター企画 “なめ猫" を忘れてはならない。ツッパリブームを一般大衆に引き寄せた彼らの活躍なくしては、あそこまで盛り上がらなかっただろう。ちなみになめ猫も "又吉&なめんなよ" 名義の「なめんなよ」でレコードデビューしてそこそこ売れてしまったりしたから、ブームっておそろしい。
大映ドラマ特有のトンデモ展開、「不良少女とよばれて」主役は伊藤麻衣子
テレビドラマの世界でも、「顔はやばいよ、ボディやんな、ボディを」の名台詞で知られる三原順子(現・三原じゅん子)パイセンが出演していた『3年B組金八先生』や、『積木くずし』『スクール☆ウォーズ』『スケバン刑事』などでヤンキーたちの暴れっぷりが描かれたが、中でも本気(マジ)でヤバかったのが『不良少女とよばれて』である。
放送開始から40周年を迎える本作品は、大映ドラマ特有のトンデモ展開、なんといっても主人公の曽我笙子役を演じた伊藤麻衣子(現:いとうまい子)の鬼気迫る演技がすごかった。1983年2月に「微熱かナ」で歌手デビュー以来、穏やかな曲をリリースしながら正統派アイドル路線を貫いていた彼女が、デビューの翌年にスタートしたドラマでこんな凄まじい不良少女役に挑もうとは!もっとも、その前に出演した大映ドラマ『高校聖夫婦』でも鶴見辰吾を相手役に、ドラマデビュー作とは思えぬような結構キワどいシーンも体当たりで演じていたから、肝が座っていたことはたしか。
ⓒ TBS伊藤麻衣子は『ミスマガジン』コンテストの初代グランプリを受賞し “1億人のクラスメイト" のキャッチフレーズでデビューした大型新人であった。「微熱かナ」以降も良曲が連なり、それらはもっとヒットしても不思議ではなかったが、82年組の躍進や、それ以前から活躍していた松田聖子をはじめとするアイドルたちがひしめき合うタイミングであったことが惜しまれる。1984年4月にスタートした『不良少女とよばれて』は、おそらく彼女が不退転の決意で臨んだ作品であったことは想像に難くない。
子役時代から培ってきた抜群の演技力を発揮した伊藤かずえの女優魂
スタッフは、『飛び出せ!青春』などの学園ドラマシリーズを手がけていた土屋統吾郎をはじめ、元祖不良もの『高校生無頼控』シリーズの江崎実生、さらに東映で『キイハンター』や『仮面ライダー』の監督を務めていた竹本弘一も加わった多彩な演出陣が支えた。単なる学園ドラマに留まらず、アクションや特撮の要素も採り込まれた個性的な作品の魅力は、テレビや映画で華麗なる実績を築いてきた彼らの力が大きかった。メインライターの江連卓もまた然りで、アクションものや特撮作品が数多く、この翌年には『スケバン刑事』の脚本を手がけている。一連の大映ドラマでも突出した人気を得たことも頷ける布陣であったのだ。
出演者は、国広富之、伊藤かずえ、松村雄基、岡田奈々、中条静夫、三ツ矢歌子、名古屋章といった大映ドラマでお馴染みの面々。元スケバンのスナックのママ役で山田邦子も出演していた。笙子の少年院仲間でライバルの長沢真琴役を演じた伊藤かずえは、子役時代から培ってきた抜群の演技力を遺憾なく発揮していた。
ⓒ TBS最近ではレストアして長年乗り続ける愛車・シーマの話題が先行することが多いが、彼女の女優魂は素晴らしく、劇中の特徴ある台詞は今でも暗記しているという。この作品でブレイクしたことで、翌年の『ポニーテールはふり向かない』では主演に抜擢された。そして、伊藤麻衣子も80年代後半には女優業をメインにシフトチェンジしてゆくのだった。
ドラマの人気と並走してヒットに至った主題歌「NEVER」
『不良少女とよばれて』を語る上で外せない要素のひとつが主題歌である。1981年にピンク・レディーを解散した後、ソロ歌手として活動し始めたMIE(現・未唯mie)が歌った「NEVER」。古巣のビクターで5枚のシングルを出した後、CBS・ソニー(現:ソニーミュージック)へ移籍しての第1弾だった。映画『フットルース』の挿入歌に起用された、オーストラリアのロックバンド、ムービング・ピクチャーズのカバーで、ドラマの人気と並走してヒットに至った。日本語の詞は松井五郎によるもの。今でもこのメロディを聴くと、伊藤麻衣子の迫真の演技と芥川隆行の味のあるナレーションが脳内で再生される。
劇中では様々な曲が挿入歌として使われた。第3話で院生たちが歌う「ギザギザハートの子守唄」と「涙のリクエスト」、第19話では「悲しくてジェラシー」のレコードをかけるシーンもあり、当時のチェッカーズ人気が窺われる。
笙子の親友の1人でやがて更正して歌手となる辻村晴子役のかとうゆかりは、1982年に歌手デビューしており、第15話では彼女の実際のデビュー曲「シュガーぬきのSaturday Night」がテレビで歌われるシーンがある。『不良少女とよばれて』のファンを自認するレコードコレクターは、「NEVER」だけでなくこのシングル盤も持っておくべき。第20話で退院する院生たちを送り出す際、「いい日旅立ち」が歌われるシーンも印象深い。
常軌を逸した設定と複雑な人間関係、味のあるキャストが顔を揃えて惹きつけられる大映ドラマ。その独特の世界観を象徴する作品のひとつに挙げられる『不良少女と呼ばれて』は、当時の社会背景も踏まえつつ、映像表現の限界に挑んだ作品であった。コンプライアンスなどというつまらない放送基準に縛られた現在では決して生まれ得ないであろう傑作である。
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2024.04.17