スリー・ストーリーズ by Re:minder
還暦ロックシンガーの現役感 ③ 奥田民生
世代を限定しない普遍性があった「イージュー★ライダー」
民生の曲って、オレたちにとっての演歌だよなーー。
あれは1996年だから29年前のことだ。みんなでカラオケに行った際、「イージュー★ライダー」を歌い終えた同世代の知人がしみじみそう言った。「イージュー★ライダー」は当時出たばかりの新曲。イージューとは業界用語で “30” のこと。1969年公開のアメリカン・ニューシネマ『イージー・ライダー』に引っ掛けて、奥田民生が三十路を突っ走る自分の現在地と、これから向かう先(= 今後の人生)について歌った曲だ。
当時、1965年5月生まれの奥田民生は31歳。1967年2月生まれの私は29歳。民生は私より1学年上で、ほぼ同世代だ。「イージュー★ライダー」がリリースされたとき、 “ああ、オレたちの世代の曲ができた” と嬉しく思ったし、知人がそんなニュアンスで口にした “民生の曲 = オレたちの演歌” という表現もわからんではない。だが、私はその言葉にちょっと違和感があった。「イージュー★ライダー」の歌詞には世代を限定しない普遍性があったからだ。
何もないな 誰もいないな
快適なスピードで
道はただ延々続く
歌いながら 話しながら
カレンダーも 目的地も
テレビもましてやビデオなんて
いりませんノンノン僕ら
退屈なら それもまたグー
名曲をテープに吹き込んで
あの向こうの もっと向こうへ
僕らの自由を
僕らの青春を
大げさに言うのならば
きっとそういう事なんだろう
ビデオと(カセット)テープには時代を感じるし、ノンノンやグーに至っては、この曲が出た時点で死語だった。ともあれ1990年代を象徴する流行の言葉など、この曲には一切出てこない。いよいよ30代になったけれど、これからも自分の好きな曲を聴きながら、自分のペースで生きたいように生きていこうーー これって、どの世代だろうと、アラサーになれば “ああ、わかる” という感覚だ。
そして、「イージュー★ライダー」は30年近く経った今もカラオケで歌われるスタンダード曲になっている。時の流行りにおもねらず、我が道を行き、普遍性のある言葉で人生を歌う。それが奥田民生というアーティストだ。
自分の身の丈に合った歌を、ユーモアを交えて歌う
そしてその姿勢は、(バンドブームの中で世に出るために必死だったデビュー期は別として)ユニコーン時代から一貫して変わってない。曲の題材は、日々生きていてふと思うこと。そのときそのときに感じた、自分の身の丈に合った歌をユーモアを交えて歌う… なんだろう、日記代わりみたいな? 井上陽水や矢野顕子など、上の世代のアーティストと普通にコラボできるのもきっとそういう事なんだろう。
そう、奥田民生のスタンスで特筆すべきは、“基本、できることしかやらないけれど、やってみたら面白そうなことは、とりあえずやってみる” という精神だ。ソロ活動を始めた1994年以降、民生がトライした主な活動を列挙してみよう。
▶︎ PUFFY、木村カエラをプロデュース
▶︎ 井上陽水と “井上陽水奥田民生” を結成
▶︎ 東京スカパラダイスオーケストラにゲストボーカルで参加
▶︎ スティーヴ・ジョーダン率いるバンド “The Verbs” に参加
▶︎ ポツンと1人で弾き語りをするライブ「ひとり股旅」
▶︎ レコーディング風景をライブで見せる「ひとりカンタビレ」
▶︎ 宅録形式のDIYレコーディングをYouTubeで見せる「カンタンカンタビレ」
▶︎ 斉藤和義・トータス松本ら同世代と “カーリングシトーンズ” を結成
▶︎ 自身のレーベル「ラーメンカレーミュージックレコード」を設立
特に印象的だったものをザッと思い出すだけでこれだけあるし、その多彩さがお分かりいただけるだろう。このジャンルにこだわらない雑食性も民生の魅力の1つだ。だが、何をやろうが彼の音楽の軸には “ロック” が確固としてあり、そこはまったくブレていない。
2020年秋には、軽自動車に録音機材を詰め込んだ “トツゲキ号” で日本中を巡りながら、ご当地ソングをレコーディングしていく企画、『ドーロムービー “トツゲキ!オートモビレ”』を敢行。もともとは所(ジョージ)さんの世田谷ベースにクルマを見せに行こうという動機から始まったもので、広いバンじゃなく、あえて手狭な軽自動車を使っているところがいかにも民生らしい。カッコつけずにオチをつけるとこが、カッコいいんだよなぁ。
吉川晃司とOoochie Koochieを結成
で、いよいよ還暦を迎える2025年は何をやってくれるのかと思ったら、なんと同い年の吉川晃司とスーパーユニット “Ooochie Koochie”(オーチーコーチー)を結成。ご存じのように2人はともに広島出身で、高校時代からお互いの存在は知っていたそうだが、デビュー後の接点は意外にも少なかった。よく話すようになったのはここ数年のことで、各地の音楽フェスで一緒になる機会が増え、酒を酌み交わすうちに “還暦の年に2人で何か面白いことをやろう” と意気投合したという。
Ooochie Koochieは “大人しゅうない大人じゃけぇ” がキャッチコピーで、すでに何曲かシングルをリリースしている。ぜひ聴いてほしいのが、歌詞が全編広島弁の「ショーラー」だ(2人の共作)。
みんなは しょうらあ
きしゃっとしょうらあ
あんたはあんたのみちをえらんどってんが
いちばんじゃろ
おどりゃ ちゅうちょしなさんな
おもい はよ ぶつけんにゃあ
あんなーと ちゅーとか したいんじゃろ
はよせにゃとられるでー
タイトルにもなっている「ショーラー」とは広島弁で〇〇しているという意味で、2人のロック魂がみごとに “炸裂しょーらー”。改めて気づいたが、広島弁はロックによう合うんじゃねー。
注目は「♪あんたは あんたのみちをえらんどってんがいちばんじゃろ」という歌詞だ。先に挙げた「イージュー★ライダー」の歌詞とみごとに重なっているし、奥田民生が約30年間わが道をブレずにまっすぐ進み続けた証でもある。肩肘張らず,自然体で、自分らしく。だからこそ彼の曲は、どの世代にとっても生きる指針になるのである。
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2025.08.20