先日、テレビをつけながら新聞を読んでいたら、「芸能界で働く薬師丸さん」というナレーションが聞こえてきた。
画面に目を向けるとそこにはヨーグルトのパッケージが映し出されているだけだった。気のせいか? と思いつつ、「薬師丸ひろ子 ヨーグルト」で検索してみると「明治プロビオヨーグルトLG21」のCMギャラリーが見つかった。 そのCMには確かに薬師丸ひろ子が映っているのだが、ほんの1秒程度。ええっ! これだけ! それを見た途端、1980年前後の薬師丸ひろ子渇望時期の記憶が蘇ってきた。
薬師丸ひろ子は映画『野性の証明』でデビューしてからの数年間、メディアへの出演はほとんどなく、唯一の情報源は角川書店が発行していた月刊誌『バラエティ』だった。毎号数ページ薬師丸ひろ子の写真が掲載される貴重な雑誌。モノクロページの掲載だけの時はがっかりさせられたが、それでも何もないよりはマシ。この頃なら1秒のCM出演でも大喜びしたことだろう。
そんな渇望時期にオンエアーされたテクニクスのCM『ハートの詩が聴こえるか』には目が釘付けになった。1秒どころじゃないもんね。ヘッドフォンで音楽を聴く薬師丸ひろ子の目から零れ落ちる一粒の涙。乾いた僕の心を潤わすには充分過ぎるほどの量だ。
このCMがオンエアーされていた頃のこと。学校からの帰り、終電に近い時間、乗り換えの上野駅で薬師丸ひろ子のポスターを見つけた。テクニクスの駅貼りポスターだ。
立ち止まってじっと見ていているうちに、このポスターが欲しくなってきた。周りを見るとほとんど歩いている人はいない。そこは電車が到着すると乗り換えの人が増えるが、その波が過ぎると歩いている人が少なくなる通路だった。迷うことなく僕はポスターを止めてある画鋲を下からひとつずつ外し始めた。
ところがその簡単な作業はすぐに進まなくなった。手がとどかない上辺の画鋲4つを外すことができなかったからだ。
諦めるか? 何かいい方法はないか? と自問自答。でも悩んでいる時間はない。次の電車が入って来たら乗り換え客が押し寄せてしまう。もう上辺が破れるのは仕方がない、と僕は意を決してポスターをやんわりグッと引っ張った。その時、薬師丸ひろ子のアゴのあたりがなぜか破れていくのが見えた。
よく見るとそこにはトラップのように画鋲がひとつ刺されていたのだ。こんなところに画鋲を刺すやつがいるか! と憤るのも後回しに、破れたポスターを丸めながら逃げるように家路についた。
このページのトップにある画像はそのときに剥がしたポスター。破れたアゴのあたりを見るたびに涙がポロっと零れそうになるのだった。
2017.11.29
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