デビュー41周年記念日、突如発表された松田聖子セルフカバー
松田聖子、40年振り “聖子ちゃんカット” … セルフカバー「青い珊瑚礁」のMVで披露
一昨日の4月1日、ヤフトピのこの見出しと “聖子ちゃんカット” の松田聖子の写真が、在宅勤務中の僕の目に飛び込んできた。
41年前の1980年4月1日は松田聖子が「裸足の季節」でレコードデビューした日。その曲ではなく、何故僕が最も愛してやまない聖子ソング「青い珊瑚礁」なのか。しかも41周年…
ためらいが全く無かったと言えば嘘になるが、僕はすぐにApple Musicの再生ボタンを押した。
不覚にも目頭が熱くなる…
続いてYou TubeでMVを再生した。終盤新たなアレンジで「あなたが好き!」がリフレインされた箇所で、遂に落涙してしまった…
家族の誰にも見られなかったのが幸いだった。“聖子ちゃんカット” の59歳女性を観て涙する55歳中年男性… 洒落になりゃしない。
1980年8月、ザ・ベストテンに初登場「青い珊瑚礁」
1980年7月1日、「青い珊瑚礁」は松田聖子の2枚めのシングルとしてリリースされた。そして8月14日『ザ・ベストテン』でこの曲は8位に初登場する。かの羽田空港からの中継である。
この3日前、僕は母方の祖父を亡くしていた。初めての親族の不幸。その訃報に接したのがこの日だった。もやのかかったような気分の暑い夏の夜、タラップから降りてきた松田聖子はまさに天使のようで、瞬く間に僕はファンになってしまった。中3にして初めて、本格的にアイドルが好きになった瞬間だった。
「青い珊瑚礁」がオリコン2位止まりだったことが本当に悔しく、『ザ・ベストテン』で1位を取ったことが本当に嬉しかった。
ジャケット写真は篠山紀信による。個人的には間違いなく松田聖子のベストシングルジャケット。この年、篠山がジョン・レノンとヨーコ・オノの『ダブル・ファンタジー』のジャケットも撮っていることは忘れないでおきたい。
僕は1982年いっぱいで松田聖子から離れるのだが、「青い珊瑚礁」はファンの頃から今日まで不動のベスト聖子ソングである。そしてこの曲は僕の音楽ファン人生の入口にもなったのだ。
大村雅朗アレンジへのリスペクト&オリジナルキーに胸アツ
実に41年振りにリメイクされた「青い珊瑚礁~Blue Lagoon~」のアレンジャーは、この原稿を書いている時点では誰か分からないが、オリジナルの故・大村雅朗の名アレンジをかなり踏襲している。
上昇する名イントロ、オリジナルの若松宗雄プロデューサーが激賞した劇的な間奏、そしてアウトロは、印象的なストリングスを含め結構忠実に再現されている。新型コロナ禍のせいにしてしまおう、残念ながらサウンドは1980年のものに比べて薄めに感じられてしまうが、大村リスペクトに僕はまず安堵し、そして同時に胸が熱くなった。
そして松田聖子のヴォーカル。古い曲を歌う時にありがちだった溜めのある歌唱が鳴りを潜め、そして何よりオリジナルキー。もうこれだけで目頭が熱くなってしまった。
1980年の時ほどの勢いも艶やかさも、そりゃあ足りないかもしれないけれど、この、いい意味で力の抜けた、少し乾いた細いヴォーカルも年輪を感じさせて、同世代の人間に迫ってくるものが確かにあった。
松田聖子自らMVを監督、“聖子ちゃんカット” 登場の見事な演出
さらに恐る恐るMVを観る。おでこ全開の、青とピンクの衣装を着ている松田聖子が、間奏明け2番になってもしばらく、代わる代わる出てくる。“聖子ちゃんカット” の聖子はなかなか出て来ない。
このリメイクの最も大きな変化、アレンジが、2番のサビ前の「あなたが好き!」の部分、オリジナルでは1回だったのをリフレインするところである。
その1回め、遂に “聖子ちゃんカット” が後ろ姿で登場した。そして2回め、振り返った!
「あなたが好き!」って歌った!!
言いたいのはこっちだ!!
そこにいたのは、41年前中3の僕があっという間に好きになった松田聖子だった。瞬時、遂に落涙…
このMV、聖子自ら監督している。見事な演出です。脱帽しました。直後におでこ全開の場面に戻るのは、申し訳ないですが、もったいない気がしてしまいました。
曲の終盤、畳みかけるように “聖子ちゃんカット” の聖子が登場する。その愛くるしさに思わず頬が緩んでしまう。ラストカットも顎のあたりで両手を合わせた “聖子ちゃんカット” の聖子だ。
何をか言わん。“夢のような” とはこういうことを言うのではないか。“夢のような”とはかくの如く甘美なものなのか。
新型コロナ禍における音楽的収穫、決して悪いことばかりじゃない
併せて、松田聖子の40年余り全く変わらない体型も忘れてはなるまい。これぞプロ。この変わらぬ体型があったからこそ、“聖子ちゃんカット” も蘇ったのだ。
実はこのセルフカバー、新型コロナ禍が無ければ生まれていなかったかもしれない。昨年松田聖子はデビュー40周年を迎え、記念アルバム『SEIKO MATSUDA 2020』をリリースした。このアルバムにはセルフカバーも何曲か収められたが、1982年以前の曲は含まれず、「青い珊瑚礁」も入っていなかった。
昨年予定されていた40周年記念ツアーは今年に延期になった。この起爆剤として「青い珊瑚礁」がセルフカバーされた面もあるだろう。もしツアーが昨年行われていたら、「青い珊瑚礁」はリメイクされなかったかもしれない。
そして松田聖子も、新型コロナ禍の中、皆を元気づけるためにこの曲をセルフカバーしたとも明らかにしている。“聖子ちゃんカット”復活もまさにこのための最後の切り札だったのではないだろうか。
新型コロナ禍は新年度に入ってもまだまだ収まりそうにないが、そんな新年度の初日、僕は確かに元気をもらった。個人的には、ポール・マッカートニーの『マッカートニーⅢ』や、ザ・クロマニヨンズの東京ガーデンシアターでの圧巻のライヴ、フジファブリックの新譜『I Love You』に続く、新型コロナ禍における音楽的収穫となった。
決して悪いことばかりじゃない。いいことだってあるんだ。
最後に、この曲の作曲者であり初期松田聖子躍進の立役者、小田裕一郎も3年前ニューヨークの自宅で亡くなっている。彼のスタジオのフェイスブックのアカウントがこのセルフカバーの記事を紹介していたことはまた微笑ましかった。
2021.04.03