意外と少ない?1980年代のクリスマスソング
“恋人と過ごすクリスマスというカルチャーの仕掛け人はユーミンだった!? という説もありますが、あながちそれは間違いではなく… 大戦犯で~す(笑)”
2023年12月8日、ユーミンこと松任谷由実がパーソナリティを務めるラジオ番組『松任谷由実のYuming Chord』(TOKYO FM)で「恋人がサンタクロース」をオンエアしたときの本人の発言である。ユーミンは続けて、“1980年代の幕開けにこの曲をリリースしたあと、バブル景気もあいまって、若者たちに恋愛至上主義が蔓延したんですよね” とコメント。彼女のウインターソングをフィーチャーした映画『私をスキーに連れてって』(1987年11月公開)が大ヒットしたこともあって、“クリスマスは恋人たちの祭り” となったと分析した。
なぜ2年前の話題を出したかというと、毎月お送りしている歌謡ポップスチャンネル『Re:minder SONG FILE』の12月テーマが “クリスマス・スタンダード” だからである。とはいえ、現在スタンダードになっていると言えそうな1980年代のクリスマスソングは意外と少ない。ユーミンが指摘しているとおり、クリスマスが恋人と過ごすイベントになったのはバブル期(1986年〜1991年)以降のことなので、それまでは歌のテーマになること自体が少なかったのだ。
筆者の手元にある『オリコンウィークリー』1989年12月11日号ではクリスマスソングを特集しているが、その時点でヒットチャートのトップ100に入った1980年代のシングルは23作、うちトップ10ヒットは5作のみという状況。もちろん「恋人はサンタクロース」のように、アルバム収録曲が長い時間をかけて浸透していった例もあるので、長く活躍しているスタンダードな存在のシンガーソングライターが手がけた10篇のクリスマスソングを番組のコンセプトにあわせてお届けする。

「私をスキーに連れてって」の劇中歌として使用された「恋人がサンタクロース」
オープニングはやはりこの歌、松任谷由実「恋人がサンタクロース」(1980年)からお楽しみいただく。1980年代に入って到来した最初の冬にリリースされた本作は、リゾートをテーマにしたアルバム『SURF&SNOW』に初収録。2年後に松田聖子がクリスマスの企画アルバム『金色のリボン』でカバーしたためアイドルファンにも親しまれるようになり、前述の映画『私をスキーに連れてって』の劇中歌として使用されたことで定番曲へと昇りつめた。
イースターやハロウィンなど、キリスト教から生まれた祝祭を巧みに採り入れた曲づくりをしてきたユーミンは、クリスマスに関しても1970年代に「12月の雨」(1974年)と「ロッヂで待つクリスマス」(1978年)を発表。両曲はいずれも叙情的な作風だったが、「恋人がサンタクロース」はドライブ感のあるギターソロに象徴される軽快なポップチューンで、ドリーミーな詞の世界観も1980年代の浮かれた空気感を先取りしていた。本人が認めているように、日本におけるクリスマスの位置づけを変えてしまったエポックメーキングな1曲だ。
サザン初のクリスマスソング「シャ・ラ・ラ」
その「恋人がサンタクロース」と同時期に世に出たのが、2曲目に配したサザンオールスターズ「シャ・ラ・ラ」(1980年)である。1986年12月24日に放送された特別番組『Merry X'mas Show』(日本テレビ系)で共演したユーミンと桑田佳祐は、番組用の楽曲「Kissin' Christmas(クリスマスだからじゃない)」を共作(作詞:松任谷由実、作曲:桑田佳祐)で書き下ろしたが、その6年前から、当時は珍しかった“クリスマスをテーマにしたラブソング”で競演していたことになる。
「シャ・ラ・ラ」は横浜を舞台にした「涙のアベニュー」(1980年)に通じるMOR系のミディアムバラード。浮気者の彼と、しっかり者の彼女の掛け合いを、桑田と原由子のデュエットで聴かせるサザン初のクリスマスソングだ。発売当時はそれほど大きなヒットにならなかったが、1983年から始まったドラマシリーズ『ふぞろいの林檎たち』(TBS系)の劇中歌として使用されたことから広く知られることとなった。

1980年代の幕開けを飾ったクリスマスソング甲斐バンド「安奈」
続く2曲は男性バンドによるクリスマスソングをセレクトした。まず甲斐バンドの「安奈」(1979年)、そしてJUN SKY WALKER(S)「白いクリスマス」(1989年)である。1979年の秋に発売された「安奈」は翌年にかけてロングヒットを記録。1980年最初の放送となった1月10日の『ザ・ベストテン』(TBS系)では10位にランキングされており、1980年代の幕開けを飾ったクリスマスソングと言える。作詞・作曲を手がけた甲斐よしひろによると、ヒロインの名前は “英語みたいな響きで、漢字で書ける3文字がいい” と考え、レコーディング当日に「安奈」に決定。冒頭の女性コーラスに続くアコースティックギターは、たまたまスタジオに居合わせた浜田省吾に演奏してもらったという。
一方「白いクリスマス」は1980年代のエンディングを飾るクリスマスソングである。ニューミュージックと呼ばれた「安奈」のヒットから10年。音楽シーンは大きく変化し、バンドブームが巻き起こっていた。原宿のホコ天(歩行者天国)で注目され、1988年にメジャーデビューした “ジュンスカ” はその中核的存在で、オリコン3位を獲得したセカンドアルバム『ひとつ抱きしめて』(1988年)でブレイク。サードシングルの「白いクリスマス」で初の1位を獲得した。日本はバブル景気に沸いていたが、「白いクリスマス」は「安奈」同様、心ならずも別れてしまった相手への想いを切々と歌った内省的なラブソング。世の中が浮かれているクリスマスを舞台にしたことで、主人公の寂しさがさらに際立つ構図も共通していると言えよう。

ラブストーリーの世界へといざなってくれる松田聖子「Pearl-White Eve」
5曲目の松田聖子「Pearl-White Eve」(1987年)はオリコンのシングルランキングで初の1位を獲得したクリスマスソング。同年リリースのアルバム『Strawberry Time』に収録された「雛菊の地平線」に続いて、松本隆(作詞)と大江千里(作曲)がタッグを組んだ楽曲だ。
ピンクのパジャマ リボンほどいて
それが私の贈りものなの
今夜私はあなたのものよ
生まれたままで粉雪の夜(イヴ)
ーー と歌う、かなりベタな展開だが、聖子のクリスタルボイスと、井上鑑の荘厳なアレンジによって生々しさが中和され、寧ろ賛美歌のような格調を感じさせる。スキー場のコテージと思われるリッチな場面設定も手伝い、トレンディドラマを観るようなオシャレ感もある。前年にママになった聖子だが、こういう歌でもまったく違和感がなく、聴き手をラブストーリーの世界へといざなってくれる。歌手としての力量を改めて感じた作品でもあった。
なお、作曲を担当した大江千里には「もう一度X'mas」(1985年)、「サンタクロースがやってくる」(1985年)、「ゆめみるモダンクリスマス」(1986年)など、自身の歌唱曲でも多くのクリスマスソングがある。松本伊代に提供した「Sonatine」(1988年)も傑作なので、この機会にサブスクなどで “千里クリスマス” を味わっていただきたい。

人々に優しい眼差しを向けた「CHRISTMAS TIME IN BLUE -聖なる夜に口笛吹いて-」
大江と同様にEPICソニーを牽引していた佐野元春のレパートリーからは「CHRISTMAS TIME IN BLUE -聖なる夜に口笛吹いて-」(1985年)をお送りする。街の風景を活写しつつ、ヒューマニズムを歌う佐野らしい世界観だが、サウンドにレゲエのリズムをフィーチャーしたこともあって、独特の温もりを感じさせるクリスマスソングが誕生した。
アルバム『Café Bohemia』に収録される前に12インチ盤でリリースされた本作はオリコン7位をマーク。発売40周年にあたる今年は11月にCDとアナログ盤で再発され、週間17位のヒットを記録している。40年前と変わらず、世界のどこかで争いごとが起き、格差は寧ろ拡大している現代だからこそ、人々に優しい眼差しを向けたこの歌はスタンダードとして我々の心をとらえ続けているのだろう。
ソロに転じた杉山清貴のセカンドシングル「最後のHoly Night」
このあとも都会を舞台にしたクリスマスソングが続くが、まずは杉山清貴「最後のHoly Night」(1986年)をお聴きいただく。ソロ活動に転じた杉山のセカンドシングルとして発売された本作は2社(日本航空、ミノルタ)のCMで同時期に使用され、『ザ・ベストテン』では通算4週の1位を獲得した。
ビルの影を蒼く映した
銀色の氷のリンクに
この歌い出しを聴くたびに、かつて日比谷シティや青山ツインビルの一角に、冬季限定で設営されたスケートリンクを思い出してしまうのは筆者だけだろうか。それはともかく、作詞を手がけた売野雅勇によると、本作はプロデューサーとの打合せで出てきた “最後のイヴは本当に好きな人と過ごしたい” というキーフレーズをもとに創作。結婚と恋愛を分けて考えるヒロインを登場させたのは、そうすることで他のクリスマスソングにない色を出そうとしたのだという。

“クリぼっち” を描いたプリンセス プリンセス「DING DONG」
さぁ、いよいよ終盤だ。ここからは日経平均株価が当時の最高値をつけるなど、バブル真っ只中にあった1989年の日本で流れまくったクリスマスソングを3曲お届けする。
まずはプリンセス プリンセス「DING DONG」(1989年)から。前年のクリスマスを一緒に過ごした彼と別れた主人公の “クリぼっち” を描いたポップロックで、ともすれば湿っぽくなりがちな状況をカラッと歌い上げるところがプリプリ流と言える。だからこそJR東日本『びゅうスキーパック』のCMに起用されたのだろう。シングル化はされなかったものの、ミリオンセールスを記録したアルバム『LOVERS』の収録曲であり、東日本限定ながらCMでもオンエアされたことから、ノリの良いクリスマスソングとして知られるようになった。
次のDREAMS COME TRUE「サンタと天使が笑う夜」(1989年)は、やはりミリオンを突破したアルバム『LOVE GOES ON…』に収録されたパーティーチューン。気の合う仲間と街へ繰り出し、陽気にクリスマスを過ごす、バブル期の空気感を反映したナンバーだ。同日発売のシングル「LAT.43°N ~forty-three degrees north latitude~」のカップリングにも収められたほか、英語版が1990年のシングル「雪のクリスマス」のカップリング曲になるなど、こちらも「DING DONG」同様、多くのリスナーに届く楽曲となった。ちなみにプリプリも、ドリカムも、ともに恋愛をテーマにしたアルバムから生まれたクリスマスソング。この事実もユーミンが看破した “恋愛至上主義の蔓延” の表れと言えそうだ。

ギネス世界記録に認定されている山下達郎「クリスマス・イブ」
ここまで9曲、1980年代から親しまれるクリスマスソングをお聴きいただいたが、“クリスマス・スタンダード” 特集のトリにふさわしいのはこの歌をおいてほかにない。そう、山下達郎「クリスマス・イブ」(1983年)である。山下いわく、もともと竹内まりや用に書いたものの、使われなかったことから自身で歌うことにしたという。アルバム『MELODIES』に初収録した半年後、12インチのピクチャーレコードとしてシングル化されるが限定盤だったため、当時はスマッシュヒットにとどまった。
1986年に7インチ盤で再発したあとは、様々な形態でリリース。火が付いたのは1988年から始まったJR東海のCMシリーズで、翌1989年に映画『君は僕をスキになる』(企画:秋元康、監督:渡邊孝好、脚本:野島伸司、出演:山田邦子、斉藤由貴、加藤雅也、大江千里)の主題歌にも起用されたことから、発表後6年半を経てオリコン1位を獲得する。初めて1位になったのは1989年12月25日付け、まさにクリスマス当日であった。
その後も毎年冬になるとトップ100入りを重ねており、2016年に “日本のシングルチャートに連続でランクインした最多年数” のギネス世界記録に認定されてからも2024年まで継続中。今年も12月10日に2形態でリリースされたので、番組がオンエアされるときには40年連続の金字塔を打ち立てているに違いない。まさにスタンダードの冠にふさわしい愛され方と言える。
以上、10曲。放送はクリスマスイブ当日(12月24日24時〜25時)なので、名曲満載の本プログラムでクリスマスを楽しんでいただけたら、選者として嬉しい限りです。
Information
Re:minder SONG FILE「クリスマス・スタンダード」
ココロ躍る音楽メディア「Re:minder」がテーマを決めて珠玉のソングファイルをお届け。
▶︎ 放送局:歌謡ポップスチャンネル
▶︎ 放送日時:
・2025年12月24日(水)24:00〜25:00
・2026年1月04日(木)24:00〜25:00
▶︎ 今月のソングファイル
♪ 恋人がサンタクロース / 松任谷由実
♪ シャ・ラ・ラ / サザンオールスターズ
♪ 安奈 / 甲斐バンド
♪ 白いクリスマス / JUN SKY WALKER(S)
♪ Pearl-White Eve / 松田聖子
♪ CHRISTMAS TIME IN BLUE -聖なる夜に口笛吹いて- / 佐野元春
♪ 最後のHoly Night / 杉山清貴
♪ DING DONG / プリンセス プリンセス
♪ サンタと天使が笑う夜 / DREAMS COME TRUE
♪ クリスマス・イブ / 山下達郎
▶︎ 番組ページ:Re:minder SONG FILE
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2025.12.18