2025年は若いアーティストの活躍と共に、ベテランアーティストたちにとっても元気な年になった。2000年代以降、シーンの細分化によって大きなヒットが出にくくなり、大きなムーヴメントも起きにくくなった。しかし、シティポップの再評価以降、若手のアーティストが1970〜1980年代の音楽に興味を持ち、そういったサウンドを最新の音楽に取り入れる傾向がある。エルダー層(オッサン層)までを虜にする藤井風のような若手アーティストも登場し、シーンの中の時間軸が混ざってきたという印象だ。
2025年は前述したような動きが一層促進され、音楽に新しいも古いも関係ないということを、より多くの人たちが感じるようになったのではないか。ということで、最初のトピックはシティポップ周辺からいってみよう。
よりライトユーザー層に浸透シティポップ
まずは、音楽ファン以外のところにまでシティポップというワードが浸透したことが挙げられる。逆に言えば、本来のムーブメントとしてのシティポップの意味は失われつつある。例えば、これまでなら大滝詠一はシティポップではなかったはずだが、いまやその文脈で語られることに違和感がなくなった。シティポップを冠したイベントも増えたし、よりライトユーザー層に浸透したことが窺える。
そして、他ジャンルへの浸透も進んだ。例えば、シティポップ・リバイバルのキーパーソンの1人であるNight Tempoは、活動の初期から “1980年代の日本的なバブリー感” という基準を元に、アイドル歌謡なども同列に扱ってきたが、同様の感覚はすでに多くのリスナーに浸透していると思われる。1980年代のアイドルポップスの中に、シティポップ的なるものを感じ取っているリスナーは多いはずだ。
また、シティポップ的なるものとして “90年代ガールポップ” や “90年代J-POP” にも動きがあったが、前者はあまり大きな動きにはならず、後者はシティポップとは離れた形で再評価の動きが進んでいるように見える。90年代J-POPは来年以降、何らかの進展があるかもしれない。
1980年代ジャパニーズ・フュージョンが人気
さらにもう1つ、シティポップ流れでの新しい軸として “1980年代のジャパニーズ・フュージョン” が賑やかになってきた。このトレンドはフュージョンの中にシティポップ的なるものを感じ取ったことから始まっている。すでにいくつかのコンピレーションCDやアナログ盤が再発されていて、この動きは一気に加速しそうな気配だ。
特に、高中正義は毎年のようにアルバムの周年ツアーをやったり、2025年はロサンゼルスでもライブをやって大盛況だった。日本ではお客さんの年齢層は高めだが、L.A.では現地の若いリスナーが多かったそう。高中のライブは僕もここ数年で何度か見ているが、ますますダジャレの切れ味も鋭く(笑)、プレイも非常にエネルギッシュで見応えのあるライブを展開している。
アニバーサリーロックアーティストの復活
2025年はバンドの再結成などの話題はそれほどなかったと思うが(洋楽だが、OASISの話題が大きすぎた…)、ベテランアーティストが非常に元気な年だったと思う。1980年代に活動していたバンドがいつの間にか復活していて、ライブをやっているということもよくあるし、1985年デビューだったら今年が40周年となるので、それを記念にライブをやったりすることも。日本のロックは1986年頃から急激に活性化していったので、来年以降、周年を記念した復活は増えていくのではないかと思われる。
個人的にはソロデビュー40周年となるちわきまゆみのライブ再開が胸アツだった(会場が青山のレッドシューズだったのもアツい)。バックのメンバーには仲の良いDER ZIBET(デルジベット)のメンバーなどが参加していたのも嬉しかった。
また、Re:minderでも記事を書かせていただいたパール兄弟の渋谷クアトロ公演は、全員が現役であることもあってか、モンスターな演奏力と、全員が60代後半という年齢にも関わらず3時間以上立ちっぱなしで演奏という、モンスターな体力にも驚かされた。ゲストに小室哲哉という謎の繋がりも面白かった(「Get Wild」のギターを窪田晴男が弾いているという縁)。生演奏に合わせてキーボードのシーケンスを手動で合わせていくという、現在ではあまり見られないシーンがあったのも印象的だった。
なお、1980年代のジャパニーズロックは、中古レコード市場で値段が急激に上がっている傾向にある。何が起きているのかよく分からないが、注目しておきたいところだ。
マニアックなインディーズシーンのロックにも注目
マニアックではあるがもう1点。SO-DOというバンドのコンピレーション『Studio Works '83-'85』が英国のレーベル “Time Capsule” からリリースされたことを記しておきたい。SO-DOは1980年代に長野を拠点に活動していたインディーズバンドで、当時はシングルを3枚残したのみ。それらの音源をまとめたのがこのアルバムだ。歪なニューウェイヴ・ファンクという感じで、トーキング・ヘッズあたりが好きな人におすすめしたい音になっている。
ここ数年、こういった日本の作品が海外のレーベルから再発され、逆輸入されてくるというケースが目立つようになった。ガールズバンドのOXZのコンピレーションや、関西サイケデリック・フォークの名作、ハレルヤズ『肉を喰らひて誓ひをたてよ』ほか、入手困難な作品が海外で再発されて逆輸入されている。特に1980年代のニューウェイヴ的なパンクは海外で再評価される傾向が高いが、その熱は日本国内ではあまり高まっていない。どのタイミングで化けるかわからないので、入手可能なうちにチェックしておいた方がいいだろう。
1980年代アイドルたちの活躍
10月10日から13日までの4日間にわたって、恵比寿ザ・ガーデンホールで行われた『EBISU JAM 2025』は印象に残っている。10日は安田成美、11日は高岡早紀、12日と13日は伊藤蘭というラインナップで、僕は10日と11日に参加した。中でも安田成美は奇跡といっていい内容だった。
まさかの約40年ぶりのソロコンサート。デビュー当時の1980年代から奇跡の歌唱力と言われ、その絶妙なヘタウマさ加減に虜になるファンが続出していたのだが、その紙一重のバランスはまさに天然の産物だけに、再現性のないものだと思っていた。しかし、声、歌い方、全てがあの頃のままで、ファンが見たかった安田成美がそこにいた。この変わらなさ加減。一緒に見に行った同業のライター諸氏たちと “奇跡だったね!” と盛り上がったものだ。
翌日の高岡早紀はちゃんと音楽に向き合っている感じが素晴らしく、しばらくライブに通いたいと思うほどだったし、伊藤蘭は2023年の50周年記念コンサート(日比谷野外音楽堂)を見ているが、その存在の華やかさに圧倒された。ほかにもここ数年で何組かの1980年代アイドルを生で見たが、皆一様に若々しくオーラがあり、歌もいい意味であの頃の味を失っていない。驚くほどの満足感が得られるので、昔好きだった1980年代にデビューしたアイドルたちのライブにはぜひ足を運んでみてほしい。
日本の音楽を求めている中国の音楽ファン
浜崎あゆみや、ゆずが中国でのライブが中止になったという話題は、ニュースでご存知の方も多いだろう。実は、今年になって日本人アーティストが中国でライブをやることが急増している。中国はポップミュージックの分野においてはまだまだ後進国であり、日本人アーティストに憧れを持つファンが意外と多い。そこで、中国側からのお誘いがあり、中国でライブをやるアーティストがめちゃめちゃ増えているのだ。浜崎あゆみのようなビッグネームもいれば、ライブハウス級の会場での公演もある。
今年、僕も某アーティストをアテンドする形で中国に行ってきた。上海と北京のブルーノートで公演を行って、両日ともほぼ満員。お客さんは熱心で、終演後にサインを求める列もすごかった。中国の音楽ファンが日本の音楽を求めていることが明らかで、どこで情報を知ったのか、僕が企画した日本でのライブにもわざわざ中国からのお客さんが来たことがあった。この流れを断ち切ってはいけないと思う。
ここまで、超主観的な視点で2025年を振り返ってみた。あまり派手な動きはなかった印象だが、次の大きな動きに向けて水面下で何かが起こっている、そんな印象が強い年だった。来年は先にも書いた通り、1980年代のジャパニーズ・フュージョンが大きくなるのは間違いないし、1980年代のジャパニーズロックや、1990年代のジャパニーズR&Bにも動きがありそうだ。海外でDOUBLEが話題になるなど、徐々に高まりを見せているので、その動きにも注目しておきたい。
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2025.12.30