2025年 3月12日

佐野元春がとことん貫く現在進行形「HAYABUSA JET l 」ガラスのジェネレーションを再定義

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「ガラスのジェネレーション」を再定義した「つまらない大人にはなりたくない 」


2025年、デビュー45周年を迎えた佐野元春。つまり、元春がデビュー曲「アンジェリーナ」の中で「♪今夜も愛をさがして」とシャウトし、セカンドシングル「ガラスのジェネレーション」の中で当時のキッドたちに、その後の人生の命題であり、さらには伴走者となる言葉「♪つまらない大人にはなりたくない」と投げかけてから45年という月日が経ったということである。

そんな2025年の年明け早々、元春は配信限定シングルとして「つまらない大人にはなりたくない(New Recording)」をリリースした。そう、「ガラスのジェネレーション」を再定義した新しいバージョンだ。多くのリスナーがそうであるように、僕もこれまで「ガラスのジェネレーション」をノスタルジーで聴いたことは一度もない。この曲に内包されたティーンエイジャーの刹那的な心情をダイレクトに表現した煌めきと、同時に微かに蠢く不安は、いつしか心の片隅に棲家を作り、常に自分自身の心のドアをノックし続けてきた。

元春の「♪つまらない大人にはなりたくない」という問いかけは日々を過ごす指針となっていた。そうやって長い時が過ぎた。当たり前のように心の中にあり続ける「ガラスのジェネレーション」だった。しかし、再定義された「つまらない大人にはなりたくない(New Recording)」を聴いた瞬間、心の中で熟成された「ガラスのジェネレーション」のリアルな姿がここに存在していたのだ。そうか!そういうことだったのか!という驚きと、45年というキャリアの凝縮である綿密なアレンジに心奪われ、毎日聴き続けた。



元春の心の中でも生き続けていた「ガラスのジェネレーション」


「つまらない大人にはなりたくない」は、オリジナルバージョンの跳ねるような鍵盤のイントロとは相反して、不穏な世の中を反映するようなスリリングなイントロが施されている。そして、語りかけるようなボーカルが入る。しかし、聴き続けると、どこか性急さを感じるようになる。ティーンエイジャーがロックンロールの衝動にコネクトした時の、あの居ても立っても居られない衝動だ。ずっと心にしまいこんでいた “つまらない大人になりたくない” という言葉が、「ガラスのジェネレーション」を初めて聴いた時のように心を掻き立てた。

楽曲のアレンジは、間奏でストリングスがドラマティックな展開を見せる。ここではリリースから45年という長い時の中で変化する日常が凝縮されているようだ。つまり僕らと同じように元春の心の中でも「ガラスのジェネレーション」は生き続けていたのだ。



最新型のアレンジで新たな生命体を纏っている「HAYABUSA JETⅠ」


そして、3月12日、この「つまらない大人にはなりたくない(New Recording)」を含む1980年代から1990年代にリリースした楽曲全10曲を再定義した『HAYABUSA JETⅠ』がリリースされた。セルフカバーではなく再定義。ノスタルジーを微塵も感じさせず、それぞれの楽曲がリリース当時の衝動、楽曲の奥底に潜む真意をそのままに、最新型のアレンジで新たな生命体を纏っている。そしてこれは、結成20周年を迎えたTHE COYOTE BANDとの現時点での集大成でもあった。

サウンドの再構築もさることながら、やはり特筆すべき点は言葉との向き合い方だ。つまり、“日本語のロック” の開拓者である元春が、自身の言葉ともう一度向き合い、当時ストーリーテラーとして描いた情景を、時を経た今の視点で見渡し、もう一度その情景が聴き手にとってリアリティがあるものなのか語りかけている。

例えば、タイトルだけを見ても「ダウンタウン・ボーイ」は「街の少年」として、「インディビジュアリスト」は「自立主義者たち」という日本語のタイトルにして、聴き手の想像力を掻き立たせる。歌詞中の英語を、あえて日本語に直すことで、言葉に新たな解釈が生まれ、それはダイレクトに心に響く。

時には囁くように、時には前のめりに疾走するように、緩急をつけながら輪郭を顕にしている。それはまさしく言葉もまた生き続けている証だった。また、「街の少年」の迷いを振り切るような疾走感は、リリック「♪明日からのことも 解らないまま知りたくないまま」過ごした日々がどんなに尊いものだったかということを伝えようとしていた。

『HAYABUSA JETⅠ』は、「♪いつの頃か忘れかけていた 荒ぶる胸の想い」と歌う「Youngbloods(New Recording 2024)」から始まり「♪これからの君はまちがいじゃない」と歌う「約束の橋」で幕を下ろす。そう、このアルバムに潜む最大のテーマは “希望” だ。自身の軌跡を再定義して、未来を見据える。そこには、“つまらない大人にはなりたくない” と願った僕らの現在があった。年を重ね、キャリアを重ねるごとにタフになっていく佐野元春は、今も現在進行形を貫いている。

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2025.03.12
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カタリベ
1968年生まれ
本田隆
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