総合商社・安宅産業の破綻がモデル。松本清張ドラマ「ザ・商社」
2022年は、松本清張没後30年の年。それを記念し、4月から6月の深夜にNHKが過去の松本清張ドラマ3作品を放送した。第1弾『けものみち』(
『登場人物全員悪人!欲望渦巻く「けものみち」フィクサーの玩具になった名取裕子』を参照)、第2弾『天城越え』、そして第3弾が『ザ・商社』だ。
この3作品で私が唯一未見だったのが、『ザ・商社』。演出:和田勉、脚本:大野靖子。出演は、山崎努、夏目雅子、片岡仁左衛門、佐藤慶、中村玉緒などの豪華俳優陣。さらに、4か国でのロケーションと聞いたら、そりゃワクワクするでしょ。再放送してくれたNHKよ、ありがとう。やっぱりぶっこわしちゃいけないのだ。
『ザ・商社』の原作タイトルは『空の城』。モデルとなったのは、1975年に発覚した安宅産業破綻だ。十大商社の末尾から躍り出ようと、石油ビジネスに巨額投資をした総合商社・江坂産業の破綻の過程が克明に描かれている。
山崎努のギラギラに、夏目雅子も水沢アキもメロメロ
ドラマの主役は、山崎努演じる江坂アメリカ社長、上杉二郎。日系二世の米国人で、社内では “英語屋” と揶揄される上杉が、石油取引に目をつけたことがすべての始まり。一匹狼で、江坂産業オーナーらに疎まれていることから、石油での一発逆転に賭けるのだ。
当時40代前半の山崎努がとにかくギラギラしている。ニヒルでクールなのに、内側では野心が燃えたぎっているのだ。小麦色の肌も、ポマードをしっかりつけた髪も、ギラギラ。うんうん、石油に手を出す野心家は、カサついてちゃだめ。石油に負けないくらいギラギラしてなきゃね。
この上杉に、ピアニスト松山真紀(夏目雅子)も、江坂アメリカ社長秘書・矢代かおる(水沢アキ)も想いを寄せる。いやいや40代のオジサンに、20代の若い娘たちがって、オジサンの願望でしょ? と普通は言いたくなるのだが、そうはならない。山崎努がとにかくカッコよくて、それもむべなるかな。私も、ドラマの展開と同時に山崎のギラつきにやられてしまった。
はぁ素敵、ようじやのあぶらとり紙でお顔を拭いてあげたい、いや、このままギラついてたほうが素敵かしら。
安宅産業が伊藤忠商事に吸収合併。たった3年後に放送されたドラマ
当時8時台に放送してたんだよね? と驚いたのが、真紀が夜中に上杉のホテルの部屋を訪ねる場面だ。夏目雅子がスルッとガウンを脱ぎ、小ぶりだがツンと上を向いた形のいいバストがあらわになる。
夏目といえば、『鬼龍院花子の生涯』『瀬戸内少年野球団』などで演じたしっかり者でけなげなヒロインの印象が強いが、『ザ・商社』の真紀は気性が荒くて、行動が大胆。ニューヨークでピアニストとしてのし上がるためには、このくらいでないと… ってことなんだろう。
そして、やたらとショパンの曲を弾きまくる。「別れの曲」「ノクターン」などのしっとりショパンではない。「幻想即興曲」「革命のエチュード」などの激しいショパンだ。ところどころ差し込まれる、気性の激しい真紀が弾く、激しいショパン曲がドラマをさらに盛り上げる。
上杉や真紀の他にも、個性的でクセのある人物たちが続々登場。なかでも印象的なのが、ビジネスより、美術品収集や音楽家育成に精を出す江坂産業オーナーの江坂要造。ボンボン育ちで、市井の人々を下に見ている感じはするが、飄々としていてちょっと憎めない。要造を演じる十三代目片岡仁左衛門がまさにハマり役だ。
それにしても、これどこまで安宅産業破綻を描いているのかと調べたら、かなり実話に近いというのだから驚きだ。ほとんどの登場人物に、ちゃんとモデルがいるらしい。ドラマ放送時が1980年ということは、安宅産業が伊藤忠商事に吸収合併された77年から、たった3年しか経っていない。元安宅産業社員は、関係者は、どんな思いで『ザ・商社』を観たのだろう。
ただひとつ、これだけは言える。上杉のモデルであった某氏、自身を演じたのが山崎努だったことには、納得しているのではないだろうか。
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2022.07.18