リレー連載【ミリオンヒッツ1994】vol.27
MOTEL / B'z
▶ 発売:1994年11月21日
▶ 売上枚数:131.6万枚
ジャンルや時代を問わず愛されている “ホテルソング”
あなたはお気付きだろうか。ホテルを題材にした歌に名曲が多いことを。“ホテルソング” の金字塔「ホテル・カリフォルニア」(イーグルス)は別格として、「ニューグランドホテル」(矢沢永吉)、「リバーサイドホテル」(井上陽水)、「HOTEL PACIFIC」(サザンオールスターズ)、「時のないホテル」(松任谷由実)と大御所たちの名曲をはじめ、「ラブホテル」(クリープハイプ)、「ホテル」(島津ゆたか)と、代表例を幾つか挙げただけでも “ホテルソング” がいかにジャンルや時代を問わず愛されているかがよく分かる。
そんな数ある “ホテルソング” のなかで、国内最大のヒットとなったのがB’z15枚目のシングル「MOTEL」である。初動売上枚数約73万枚、総売上枚数131万枚という大ヒットを記録したこの作品は、CDバブル真っ只中の1994年にリリースされた。彼らにとって8作連続でのミリオン達成、また11作連続の1位獲得シングルとなった。
1994年はB'zの暗黒時代?
まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで売れに売れていたB’zだが、この1994年の活動をファン、そして本人たちまでもが “暗黒時代" と呼んでいるのは有名な話だ。
この年3月にリリースした2枚組のアルバム『the 7th blues』は彼らのルーツであるアメリカンロックやブルースに傾倒した骨太なサウンドが特徴となっており、パブリックイメージとして定着していたデジタルロック的な色合いを薄めた異色作であった。また前年のメガヒットシングル「愛のままにわがままに 僕は君だけを傷つけない」「裸足の女神」が収録されていないのも、本作が玄人好みとされる要因だろう。
それに伴いライブツアーも派手な演出を抑えた重厚なものとなり、稲葉浩志と松本孝弘のロングヘアーも彼らをアイドル視していたファンからはあまり評判が芳しくなかったようだ。そうした様々な “変化” が重なったことで、この時期ちょっとしたファン離れが起きたというわけだ。確かにアルバムのセールスは前作から約50万枚もダウン… といっても160万枚売れたわけで、普通に考えれば十分すぎるほどの特大ヒットなのだが、これで “暗黒時代” になってしまうのがB’z人気の凄まじさを物語っている。
アメリカ西部の乾燥した荒野を想起する “モーテル” という響き
さて、「MOTEL」は『the 7th blues』から約8ヶ月のスパンを経て発表された、待望のニューシングルであった。この時彼らは『B'z LIVE-GYM '94 “The 9th Blues”』というアルバムを引っ提げてのロングツアーの最中で、本作もアルバムの流れを汲むブルージーなロッカバラードに仕上がっている。
まず印象に残るのが「MOTEL」(モーテル)という、日本ではあまり馴染みのない単語だ。辞書によれば “自動車旅行者用の、車庫付きの簡易宿泊所” (デジタル大辞泉)のことで、アルフレッド・ヒッチコック監督のサスペンス映画『サイコ』の主要舞台であるベイツ・モーテルが有名な例として広く知られている。
この “モーテル” という響きに、リスナーはアメリカ西部の乾燥した荒野を想起する。もしこの曲のタイトルが “HOTEL" であったなら、たとえ同じ歌詞、同じ曲調でもまったく違う印象を受けていたはずだ。稲葉浩志は、曲の世界観を的確に表現した言葉を選ぶのがうまい。超一流のボーカリストであるとともに、極めて優秀な作詞家でもあるのだ。
松本孝弘の繊細な演奏技術が光る、珠玉のイントロ
そしてこの楽曲の情景を決定づけるのが、イントロの渋すぎるギターの音色だ。松本が愛用するアコースティックギター “Martin 1937 000-18” が奏でる極上のブルースフレーズは、ウエスタンな夕暮れを彷彿させ、リスナーの脳裏に当てなき旅路の情景を焼き付ける。ヴィンテージギターならではの表現力が存分に発揮された演奏は、荒野を走る1台の車、そしてその先に浮かび上がるネオンサインの明かりへと、リスナーの想像を自然と導いてゆく。松本の繊細な演奏技術が光る、珠玉のイントロである。
ひとりじゃないから
汚れながら生きてる
罪に寄り添い アイツも泣くよ
星降りそそぐこのモーテルだけが
僕らを撫でてくれる
この歌詞から察するに、主人公は何らかの “罪” を背負っており、パートナーとの逃避行のなかでこのモーテルにたどり着いたようだ。その行く末には明るい展望は一切感じられず、ひたすら絶望的な未来だけが横たわる。しかし、主人公はすべてを受け入れたうえでかりそめの安息に身を委ねるのだ。そう、「♪安い石鹸のように磨り減らし」ながら。
サビへと向かう稲葉のアカペラ、そしてストリングスのアレンジがこの “明日なき逃避行” をドラマチックに盛り上げる。終盤、ギターソロを経て大サビへと入る際の稲葉の鬼気迫るロングトーンシャウトは、身震いするほどの迫力がある。
B’zだけが持つ唯一無二の “宝物”
稲葉は以前、与えられたキーワードから連想する言葉を答えていくというインタビューで、“宝物” に対して “声” と回答していた。B’zをB’zたらしめる最大の要素は、やはり稲葉の圧倒的な声の強さだ。他のグループにはマネすることさえもできない、B’zだけが持つ唯一無二の “宝物”。「MOTEL」では、そんな声の魅力を思う存分堪能することができる。
“暗黒時代” のラストを飾るにふさわしい重々しい楽曲となった「MOTEL」。オリジナルアルバムにも収録されなかったため、ミリオンを記録したにもかかわらず、この時期の彼らのシングルとしてはやや知名度に欠けるのも事実である。しかしB’zの2人は更なる進化と変化を求めて、この曲を最後にデビュー初期からバンドを支えていた制作チーム「B+U+M」を解散。この年限りでロングヘアーをやめ、心機一転で迎えた翌1995年、彼らはこれまで以上の勢いでメガヒットを量産することになるが、それはまた別の機会に。
▶ B’zのコラム一覧はこちら!
2024.11.17