1992年 3月24日

アレステッド・ディベロップメントの【ラブ&ピース】は2023年も有効か?

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アレステッド・ディベロップメントのデビューアルバム「テネシー(遠い記憶)」がリリースされた日
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90年代初頭、ヒップホップがメインストリームに浮上


アメリカのヒット・チャートの主役がロックやポップスからR&Bやヒップホップになってから、もう随分と年月が過ぎた――。

ロックを中心にずっと音楽を聴いてきた私にとって、ヒップホップがメインストリー厶に進出してきた90年代初頭、なかなかそれに馴染めなくて、正直、ちょっと難しい音楽に感じられた…。と言うより、ロックファンの私がカッコいいと思えるヒップホップ・アクトはパブリック・エナミーやビースティ・ボーイズ、デ・ラ・ソウルなど数えるほどしかいない状態だったのだ。ヒップホップやラップこそ、最新型のポップミュージックであることは、頭では理解できるのだけれど、身体と耳はついてこない。何だかんだと言っても、ビートやリズムよりメロディーやエモーショナルな曲展開、エレキギターの歪みやノイズに魅力を感じて音楽に向き合うことが染み付いてしまっていたのだろうか?

アレステッド・ディベロップメントの登場


そんなヒップホップへのモヤモヤした気分の1992年、アレステッド・ディベロップメントは颯爽とシーンに登場した。

アレステッド・ディベロップメントは、ビートやリズム一辺倒ではなく、オーガニックなサウンドとメロディアスな歌モノの要素も多分に含み、ヒップホップ素人の私でも分かりやすく、すんなりと耳に馴染んだのだ。

当時のヒップホップは、ギャングスタ・ラップがシーンを席巻し、アレステッド・ディベロップメントのデビューと同じ1992年には、ドクター・ドレーのアルバム『クロニック』が発表され、大ヒットしている。



同作で鳴っているGファンクと呼ばれるゆったりとしたグルーヴとシンセサイザーを多用したメローな旋律は音楽的に分かりやすいものなのだが、ラップの内容や醸し出される雰囲気は血生臭く、殺伐としている。

東京で普通に生活している私にとって、ギャングスタという存在はぶっちゃけ身近に存在してるはずもなく、見たことも会ったこともないし、学校の同じクラスにも、町内会にもギャングスタがいるなんて話は聞いたことがないわけです。ギャングスタのライフスタイルや主義主張が好きとか、嫌いとか言う前に、よく分からない、ピンとこないというのが正直なところだ。

そんなわけで、ギャングスタ・ラップには全くリアリティが感じられず、あまり夢中になって聴き込むことができなかった。

社会派テーマを分かりやすいサウンドにのせる


一方で、アレステッド・ディベロップメントは、ホームレス等の社会問題や環境問題、スピリチュアルなテーマを中心にしながらも、「公園にたむろして、酔っ払って、喧嘩したがってるゴロツキがいるじゃん。頼むから、オレに声かけないでくれよな…」みたいなアンチ・ギャングスタというか、ごくごく普通な生活人の感性で歌われる曲もあり、私にはとてもしっくりくる雰囲気を醸し出していた。

サウンドの方も前述のとおり、メロディアスな歌モノ要素を含むため、ポップで聴きやすい。それと同時に、アーシーでオーガニックなサウンドを作っており、ルーツミュージックに対するリスペクトや音楽愛が強く感じられ、こうした姿勢にも大きな魅力を感じていた。

文句なしで私のお気に入りになった彼らのデビューアルバム『テネシー(遠い記憶)(3Years, 5Months and 2Days in the Life Of…)』(1992年)は米ビルボードのアルバムチャートで7位、デビュー曲の「テネシー」は同シングル・チャートで6位。この他にシングルカットされた他2曲もトップ10入りの大ヒット連発となっている。

この後も、当時、MTVの人気企画だったアンプラグド・ライブに登場し、その音源もライブアルバム『アンプラグド』(1993年)としてリリースされている。こちらのライブ盤でも、ルーツミュージックに根ざした姿勢はスタジオアルバム以上に色濃く表現されており、しなやかなグルーヴとライブならではのピースフルなヴァイブスに満ちあふれており、ギャングスタ・ラップとは真逆の表現であることが伺える。



ヒップホップ反主流の突然変異種


アレステッド・ディベロップメントはヒップホップの流れの中では、反主流の突然変異種ということになるのだろう。その証拠に彼らに続く同じような傾向のグループが次から次へと出現したかというと、数は少なかったように感じる。

同じような知性やユーモアを感じさせるネイティブ・タン一派も都会的でスマート。南部出身のアレステッド・ディベロップメントとは何となくノリが違うように感じるのだ。

彼らの体現したピースフルなヒップホップは大きな潮流になることはなく、セカンドアルバムをリリースした後にグループは解散してしまう。その後、再結成され、コンスタントに作品がリリースされている。

また、デビュー当初、メンバーのスピリチュアル・アドバイザーであり、ライブではステージ上でゆる〜く踊っていたお爺ちゃん=ババ・オジェイは、残念ながら2018年に他界してしまっている。しかし、リーダーのスピーチを中心にメンバーは流動的ではあるものの、日本にも度々来日し、ピースフルなライブを披露してくれている。

アレステッド・ディベロップメントの功績を再検証


アレステッド・ディベロップメント以降、オーガニック・ヒップホップは、ギャングスタ・ラップのような大きな潮流になることはなかったが、この翌年、海の向こう側、イギリスから登場したジャミロクワイが強く打ち出した環境問題や先住民保護を訴えるメッセージや生音主体のグルーヴィーな音作りは、アレステッド・ディベロップメントと共振していたように感じる。

また、アメリカでも、アレステッド・ディベロップメントの登場から数年を経て、フージーズやブラック・アイド・ピースといった柔軟性を持ったヒップホップ・グループが登場する。こうしたグループの音からはアレステッド・ディベロップメントの影響を強く感じることができる。

さらに、今日のネオ・ソウル(ディアンジェロ、エリック・ベネイ、ジョン・レジェンドなどが代表的なアーティスト)と言われるシーンへ与えたサウンド面の影響も大きい。



2023年、ラブ&ピースは今も有効なのか?


さて、ちょっと固い話になってしまうのだが、来る2023年の世界情勢に目を向けてみよう。

今日、世界中で様々な価値観やイデオロギー、主義主張の対立が、分断と憎悪を生み出している。ニュースを見ていても、ギスギスした気分に苛まれ、ため息をつくことしかできない小市民である自分の無力さを覚える毎日だ。

こんな鬱屈とした気分のまま、久しぶりにアレステッド・ディベロップメントを聴いてみた。アレステッド・ディベロップメントから匂い立つラブ&ピースでポジティブな音楽は、うつむきがちな気分に優しく寄り添い、前向きな気分にさせてくれる。 

2023年、音楽は、世界を変えることができるのだろうか?

音楽だけで、世界を変えることはできないだろう。

しかし、音楽は、ため息をつくことしかできない小市民な私を前向きな気持ちにさせてくれた。そして、世界は、我々、名もなき小市民の集合体だ。そう、世界を変えるのは我々なのだ。

アレステッド・ディベロプメントが30年前に発したラブ&ピースなメッセージとアーシーなサウンドは、私をとても優しい気持ちにさせてくれる。アレステッド・ディベロプメントを聴き、優しさを多くの人と共有できたなら、世界は今より幸せになるはずだ。

そのために彼らの音楽が再評価される機運が醸成されることを願って、本稿を書いてみた。

リマインダーの原稿が世界を変えることは、残念ながら難しい。しかし、このコラムを読んでくれた方が、アレステッド・ディベロプメントを聴いて、優しい気持ちで2023年を迎えてくれたら幸いだ。

そして、来年は今より少し平和な年になることを共に祈ろう!

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2022.12.28
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カタリベ
1972年生まれ
岡田 ヒロシ
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