4月6日

トレンディアニメ【きまぐれオレンジ☆ロード】とシティポップの幸福なマリアージュ

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1カット平均0.42秒!「きまぐれオレンジ☆ロード」の衝撃的なオープニング


当時小学生のわたしは、漫画『きまぐれオレンジ☆ロード』の春日恭介と鮎川まどかと檜山ひかるの三角関係をドキドキしながら、読んでいた。

1986年秋から作者・まつもと泉の体調不良による休載は本当に残念だったけれども、明けて1987年春からのアニメ放送決定と、さらにジャンプ本誌での連載再開は本当に楽しみだった。

1987年4月6日、『きまぐれオレンジ☆ロード』のアニメ放送第1回。ワクワクソワソワで、でもお茶の間のテレビで見るのは両親や兄弟の視線が恥ずかしくって、親の寝室にある14インチの小さなテレビで、放送5分前からわたしは待機した。



はじまった。「春日恭介、青春してます」のちょっと恥ずかしいポエム。オープニングテーマが流れる。

「かっちょええ」

これから始まる印象的なシーン、漫画を読んでいた人ならわかるだろう様々なシーンが矢継ぎ早に流れる。

夜のディスコで手慣れた風に踊りまくるまどか、サックスをセクシーに吹き鳴らすまどか、サーファールックにサングラスをクイッと外すまどか、スピンするバイクにまたがるひかる、おしゃれな車の前でポーズするまどかとひかる……。そのカット数、実に245!

わずか1分45秒のオープニング、1カット平均で0.42秒という、今のアニメーションでも許されないだろう驚異の全編フラッシュカットのオープニングだった。

サブリミナル効果で否応なしに、ひかるとまどかの魅力が眼に心に浸透していく。ほとんどふたりのプロモーションビデオだ。

そして最後に出てくるというタイトルロゴ、一貫したオシャレぶりにもう痺れた。

歌は池田政典「NIGHT OF SUMMER SIDE」。

彼は、菊池桃子、オメガトライブを擁するトライアングルプロ所属のニューフェイス、杉山清貴、カルロス・トシキに続く藤田浩一プロデュースの第3の男が彼だった(アニメファンにとっては『るろうに剣心』の志々雄真実役、『テニスの王子様』の大和祐大役、といった方がわかりやすいだろうか)。

ちなみに全編フラッシュカットの真逆で、オープニングアニメーションを1カットかつメビウスの輪の構造としたトリッキーな第3期オープニング(主題歌:中原めいこ「鏡の中アクトレス」)も、語らずにはいられないものすごい作りなのだが、今回は割愛する。



80年代という空気だから生まれたラブコメディ


いま振り返ると『きまぐれオレンジ☆ロード』は、“トレンディドラマ” という言葉が生まれるより前にトレンディドラマの概念と手法で作られた、早すぎる、そして80年代という空気でなければ生まれなかったラブコメディであったと思う。

実を言うと『きまぐれオレンジ☆ロード』の物語に明確な軸は一切ない。同時期の『めぞん一刻』や『タッチ』などと比較してもそれは明白だ。

エスカレーター式の私立校である高陵学園中等部・高等部を舞台に、夏には海でスキューバ、冬はスキー、放課後にはバンド活動と、何に不自由することも、将来への不安もない、裕福な家庭(アッパーミドル)の子女である主人公たちは、その幸福を当たり前のものとして享受しながら、恋愛の波打ち際で曖昧な関係を続ける。

その向こうに見えるのは、視聴者の手にも届きそうにみえる、雑誌のグラビアやモデルハウスのような、虚構の都市生活だ。

このふわふわと若さの波間を浮遊するような贅沢なモラトリアムこそが今までのラブコメにはない『きまぐれオレンジ☆ロード』の特徴である。そしてこれは直後にブームとなったトレンディドラマの構造とほぼ同じである。

原作者・まつもと泉が予言したトレンディドラマ?


トレンディドラマの一丁目一番地、フジテレビの月9がスタートしたのは、『きまぐれオレンジ☆ロード』のアニメ放送開始と同じ1987年4月、映画『私をスキーに連れてって』の公開は1987年11月である。

まつもと泉の先鋭的なセンスで提示された新しい時代の恋愛ストーリー、それがお茶の間レベルまで敷衍しはじめたのが、1987年ということになるのだろう。

前述の凝りに凝ったオープニングムービーも、バブル元年であり “トレンディ” な空気が世間に醸成されはじめた1987年という時代の象徴のひとつである。

なお、この『きまぐれオレンジ☆ロード』のモラトリアム的世界観は偶然ではなく、作者・まつもと泉の強い意思によるものと断定していいだろう。それは、大学生になった恭介とまどかを描くことができないと連載を終了したこと、まどかと男女の関係となった恭介がひかると別離する映画版オリジナル『あの日に帰りたい』を認めていないことなど、当時のエピソードからも類推しうる。



さらにちなみに、「トライアングル系サウンド」×「トレンディ」の方程式は、翌1988年のW浅野主演によるトレンディドラマの金字塔『抱きしめたい!』と、その主題歌、カルロス・トシキ&オメガトライブ「アクアマリンのままでいて」に帰結する。

アニメーションとポップスの幸福な関係の始まり


音楽の側面から掘り下げる。

1983年に杏里「キャッツ・アイ」、H2O「想い出がいっぱい」(アニメ『みゆき』の主題歌)がそれぞれアニメとのタイアップでヒットしたことを契機に、80年代中頃から、各大手レコード会社は、アニメ関連の音楽制作にも力を入れるようになる。

アニメ関連のセクションがなかった東芝EMIも1985年にフューチャーランドとユーメックスの2つのアニメ系レーベルを立ち上げ、洋楽、ロック、フュージョン、シティポップに強い東芝EMIの特色を活かした独自の展開をすすめることになる。

多少蛇足になるが、例えば当時の女性同人漫画の雄・高河ゆんの初の商業オリジナル作品『アーシアン』のイメージアルバム(1988年作品)においてはサウンドプロデュースを濱田金吾が担当するなど、アニメ関連においても、東芝EMIだからこそのラインナップ揃えていく。『きまぐれオレンジ☆ロード』関連のアイテムはこの東芝EMIのフューチャーランドレーベルからリリースされた。

『きまぐれオレンジ☆ロード』の同時代的でスタイリッシュな世界観(まつもと泉は元々ミュージシャン志望であり、彼のカラースクリントーンを多用したクリアなカラーイラストは、鈴木英人や永井博を想起させた。彼は極めて音楽的な漫画家のひとりでもあったのである)は東芝EMIのサウンドと相性がとりわけよかったといえる。

またこの頃になると、ちょうど映画『フラッシュダンス』や『フットルース』『トップガン』などの洋画のサウンドトラックが様々なアーティストのコンピレーションと化したのをお手本に、アニメ関連のアルバムもまた、各レコード会社主催のコンピレーションアルバムと化していく。

今で言う、GIZA studioと『名探偵コナン』のような取り組みの最初期の成功例のひとつが『きまぐれオレンジ☆ロード』であり(同時期のソニーと『シティーハンター』も見逃せない)、担当したアーティストは、前述の池田政典に、和田加奈子、中原めいこと、すべて、東芝EMI所属のアーティストであった。ちなみに劇伴は後の『エヴァンゲリオン』シリーズ担当の鷺巣詩郎だ。



池田政典が歌う主題歌「NIGHT OF SUMMER SIDE」


さらに、第1期主題歌、池田政典「NIGHT OF SUMMER SIDE」について掘り下げる。

都会的でスタイリッシュなラブコメディに、菊池桃子、オメガトライブなどの洗練されたシティポップを常に提供する「トライアングルプロ」のサウンドを重ねる。これはまさに決め打ちの発注と見ていいだろう。

『きまぐれオレンジ☆ロード』は日本テレビが “企画制作” という形でクレジットされたはじめてのアニメーションである。

トライアングルプロの中核である菊池桃子、オメガトライブらの所属するレコード会社・バップは日本テレビ傘下のレコード会社であり、当時彼らのシングルは積極的に日本テレビ系の番組の主題歌に起用されており(1986オメガトライブ「君は1000%」、菊池桃子「ガラスの草原」、ジャッキーリン&パラビオン「Strangers Dream」など)日本テレビとトライアングルプロの関係はこの時まさに蜜月であった。そこでプロダクションはトライアングルであるもののレコード会社は東芝EMIであった池田政典が起用されたといった道筋であろう。

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「少女A」のアナザーサイド? 作詞は売野雅勇


「NIGHT OF SUMMER SIDE」の作詞は売野雅勇が担当。これは、ヒロイン・鮎川まどかのモデル(のひとり)が中森明菜であるということがわかれば説明不要だ(ちなみにもうひとりのモデルは川島なお美なのだとか)。初期の中森明菜のメインライターである売野雅勇を起用し、まどか(=明菜)的な少女像を男性目線で表現する。詞のコンセプトはこれだ。

 Take me to summer side
 口づけより優しさがほしいと
 Night of the summer side
 あどけなさで拒否(かく)した瞳は
 大人だったね

洗練された真夏の海辺のリゾートを舞台に、ガラス細工のような危うさと翳りのある少女を描く。天使のように純粋で壊れやすい不良たちのひと夏の恋の世界。

まさに売野雅勇の真骨頂であり、「少女A」「1/2の神話」「禁区」などの初期の中森明菜の世界の視点を切り替えたアナザーサイドにあたる作品と言っていいだろう。

シティポップとして、シンセポップとして池田政典の再評価を!


最後に池田政典のサウンドについてもう少しお付き合い願いたい。

非バップのトライアングル系サウンドということで、どちらかと言うと継子的なポジションの池田政典であるが、実際、サウンドのアウトラインにおいては杉山清貴・オメガトライブと同様のリゾート&アーバンなシティポップであるものの、味付けがいささか異なる。デジタルサウンドへの取り組みがいい意味で過剰なのだ。

ダンサブルで鋭角的に耳にバシバシと突き刺さってくるシンセの音色は、洗練と滑らかさをもって良しとするドライビングミュージック=トライアングル系サウンドにあって明らかに異質。これは池田のメイン編曲家である新川博・船山基紀の両氏の功績が大きい。

特に船山基紀のやりたい放題さはハンパなく、船山基紀サウンドを深堀りしたい御仁にとっては彼のアルバム『QUARTERBACK』『NATURAL 22』は必聴だ。

80年代後半の船山サウンドのメインストリームは「CCB → 池田政典 → Wink」と筆者は断言するね。船山基紀作曲・編曲の「君だけ夏タイム」なんて、かっこよすぎるだろ。シティポップとしてシンセポップとして、ぜひ池田政典の再評価を!


2021年9月16日に掲載された記事をアップデート

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2023.10.17
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