KONTAと杏子、理屈抜きにカッコいいバービーボーイズのツインボーカル
1984~1985年頃といえば、テレビでは中森明菜が「十戒」を、チェッカーズが「星屑のステージ」「ジュリアに傷心」を歌っていた時代。中学のクラスメートたちはフミヤに夢中で、男の子たちも意識した髪型をしていたっけ。
そんな中、ふとしたきっかけで耳にした曲が「チャンス到来」だった。ロックバンドがどんなもので、ロックが何かも分かっていない(今でも答えは見つかっていない)少女には、バービーボーイズとの出会いは衝撃的だった。
女性と男性ボーカルが掛け合いのように歌うツインボーカルのスタイルは理屈抜きにカッコよかった。ボーカルのKONTA(以下、コンタ)の独特でクールな歌声、そして杏子さんの男前(?)な格好良さに一気に夢中になった。
まるで恋愛ドラマ? 杏子とコンタのセリフの応酬
バービーボーズにとって4枚目のシングル「チャンス到来」。当時の中学生には “何がチャンスなの?”… というくらい男女の恋の駆け引きなんて分かるはずもなかった。そして、この次に出会ったシングル「負けるもんか」。このときはすでに筆者も高校生となり、うっすらとその意味が “男女の恋の駆け引き” ということくらいは理解できるようになっていた。
近くまで来てるのよ 泊めてくれる?
いきなりで悪いけど 帰れないの
ねェ いいでしょ コインが無いわ
詳しく話すから 着替えでも捜してて
… と歌う杏子の怪しげな空気。そしてそれに応えるように、
あぶないぜ あぶないぜ ah
負けるもんか 負けるもんか
… とコンタが必死に自分に言い聞かせるラブゲーム。今ならその意味はよく分かるが、何に「負けるもんか」なのかまでは、当時は深く理解できていなかったと思う。
彼女がいる男性にモーションをかける女性のしたたかさ。こ、怖い…。そして下心アリの「泊めて」に対して、断り切れない男性の下心のある葛藤ぶりは実に面白い。2人の歌は、まるで恋愛ドラマのセリフの応酬のようだった。
勢いを感じさせるセカンドアルバム「Freebee」
「チャンス到来」「負けるもんか」といった曲たちはライブでも定番の曲となり、これらの曲が収録されていたのが、1985年にリリースしたセカンドアルバム『Freebee』だった。デビューアルバム『1st OPTION』からなんと約8ヶ月ほどという異例の速さでのリリース。いかにこの頃のバービーが、ロックバンドとしてノリにノッていたか、その勢いを感じさせる。
コンタはボーカルで歌いながら、次の瞬間には首から提げたサックスを吹く。本当にお見事。歌いながら吹くというのは本当にすごいし、音色がとても色っぽくセクシーでゾクゾクする。一方、杏子はハスキーボイスを響かせながら、ちょっと “はすっぱ” な女性や、強い女性を歌で演じて見せる。
エンリケのベースは、ファンキーでありながらしっかりとしたロック。コイソのドラムは、どんなに変速的なリズムにも変幻自在にリズムを刻む。
そしてバービーボーイズの要といえば、なんといってもギターのイマサだ。彼はデビュー当時から超越したギターテクを持ち、リフやカッティングの凄さといったらなかった。それでありながら、ほかのバンドのギタリストように「オレが、オレが」と前に前に出てくるようなタイプではなかった。まるで黒子に徹するかのように、ボーカルのサイドに立ち続けてクールにギターを弾く姿には本当にシビれた。
ほとんどの曲の作詞・作曲を担当し、プロデューサー的な目線を持ち合わせたイマサがいて、実力派揃いのアーティスト、ボーカリストが揃ったバービーボーイズは、バンドとして無敵に近かったように思う。
「負けるもんか」で実感できるバービーボーイズの魅力
数年前に、OKAMOTO'Sのベーシスト、ハマ・オカモトは、彼らとの対談で、「音を重ねてどうこうじゃなくて、隙間があるんです」とバービーの魅力を語っていたが、まさにその通りで、音を詰め込みすぎず、あえてどこかに “隙を残している” そのサウンドこそバービーの魅力であり、肝なのだと思う。
さて、「負けるもんか」の世界に戻りたい。アプローチをかけてきた女友だちと、その誘惑に “負けるもんか” と堪えに堪えていた2人はどうなったのか――
無理でしょ きっと落ちるわ
目つきがちょっと違うわ
… と、どうやらお泊まりに成功した杏子。そしてそれに対してコンタの答えはこうだ
いけないぜ いけないぜ ah
かまうもんか かまうもんか
「負けるもんか」と繰り返されていたのに、「かまうもんか」に変わっているではないか(笑)! そして2人は声を重ね合わせながらこう歌う。
誰にもきっとバレずに
このままずっといければ
ぐらついたパッション
とびこんでアクション かまうもんか
「あー、ダメだったか」という、やっぱり感とがっかり感(笑)と背徳感。
大人の恋には “隙” はつきもの。隙がなければほとんどの恋愛は生まれないとも言えはしないだろうか。がっちりと固めて作りこむロックバンドの美しさではなく、あえてサウンドにも歌詞にも隙や遊び心を作る…。その “あえて” … という部分が、バービーのロックであり、そしてそれこそがバービーボーイズというバンドの美学や魅力なのかもしれない。
※2021年10月13日に掲載された記事をアップデート
BOØWY 40thアニバーサリー特集「ライブハウス武道館へようこそ」
▶ バービーボーイズの記事一覧はこちら!
2022.07.25