大江千里デビューシングル「ワラビーぬぎすてて」から40周年
今年、大江千里がデビュー40周年という。なんとなんと、時の経つのは早いもので、1983年にデビューシングル「ワラビーぬぎすてて」から40周年だなんて…。
「十人十色」、「YOU」、「GLORY DAYS」、「格好悪いふられ方」etc… 私の青春時代には、きまって大江千里がいた。千里ミュージックは、傷ついた心を癒やし、ちょっぴり甘酸っぱくてほろ苦い青春の思い出なんかとともに、心の中でいつも変わらず息づいている。
大江千里がデビューした当初は、どこか男の子のための音楽というイメージもあった。今では多くのミュージシャンたちがカバーしている名曲「Rain」の世界のように、ナイーブで、でも女性から見たらちょっとワカママにも映る男の子のリアリティ。私にとっては「なるほど… 男性はこんな風に感じるものなのか」と下手な恋愛ノウハウ本よりも男性の気持ちを教えてくれたのは大江千里の楽曲だった。
デビュー40周年記念アルバム「Class of '88」に込められた想い…
そして大江千里といえば、アルバムのタイトルも非常に文学的だった。アルバムタイトルも『未成年』、『乳房』、『AVEC』あたりは、パンチのあるタイトルに当時は衝撃を受けたものだ。タイトル以外でも、詩の世界のそこかしこに散りばめられた言葉一つひとつにも、どこかとても文学の匂いを漂わせた。知的さとポップミュージックのクオリティの高さには、今でも聞き返しては驚くことばかりだ。
そんな大江千里が5月24日に、デビュー40周年記念アルバム『Class of '88』をリリースする。でもなぜ、デビューの年ではなく「'88」なのか。デビューは83年なのに? という問いについては音楽ウェブマガジンotonanoの大江千里ロングインタビューでも触れられている。
その中で88年といえばアルバム『1234』リリースの年であるとしながら――
「『1234』は私小説的でありながら、それがポップとして成立した記念碑的な作品でした。たくさんのアイディアが詰まっていたし。だから今、アメリカでやっているジャズを聴いている人がノックするドア、そして日本でポップスを聴いてくれていた人がノックするドアとして考えた時に、どういうタイトルがいいかなぁと思ってつけたのがこの『Class of '88』というタイトルでした」
―― と語っている。
そう! 今回のアルバム『Class of '88』はポップス時代の名曲がジャズとしてアレンジされたセルフカバーアルバムであり、新曲も収録されている。Matt Clohesy(b)、Ross Pederson(ds)のトリオでレコーディングされた極上の大人なアルバムなのだ。
ジャズやポップスなんてジャンルで区切ることのナンセンスさ
今回のアルバムでは、「原曲のメロディとコード進行を変えず、80年代に完成させたメロディとコード進行を保ちつつ、刺激的なジャズに作りあげていくかがとても大変だった」と話していた大江千里(音楽ウェブマガジンotonanoより)。
それにしてもアルバム2曲目に収録されている「竹林をぬけて(Bamboo Bamboo)」を初めて聴いた時は驚いた。ジャズだとこんな風な曲になるのかと鳥肌が立った!
そして7曲目の「STELLA'S COUGH」。これはとにかくトリオの息の合わせ方が神がかっていて最高に気持ちがいい。三位一体というか、3人のセッションの阿吽の呼吸がなんとも言えない曲と仕上がっている。ドラムもベースもピアノもそれぞれが生き生きとしている。
「ジャズ」と聞くと、確かに「私に分かるだろうか」、「ちょっと敷居が高くて難しい」という声もある。けれど、ぜひそういう人にこそ今回のアルバムを聴いてほしい。耳馴染みのある日本のポップスが、ジャズにアレンジされる面白さ、そしてジャズという音楽の素晴らしさが伝わってくる。
そして何より心地よい。音楽を聴くときに頭を使うことなんてなく、ましてやジャンルにとらわれる必要はない。素敵なものは素敵で、カッコイイものは無条件にカッコいい。そう心で感じるのが音楽だと、このアルバムが教えてくれる。
ポップスの大江千里から入った人も、ジャズの大江千里からアクセスした人も、どちらにとってもきっとこのアルバムは心に響くことだろう。
ぜひ、聴いてみてほしい!
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2023.05.24