116曲の提供作品を収録。6枚組CD-BOX「Mr.Melody〜杉真理提供曲集〜」
ビートルズに憧れてミュージシャンとなり、秀でたポップスセンスで多くの作品を世に送り出してきた杉真理。自身の歌はもちろんのこと、その数300を超えるという他人への提供曲にも傑作が多い。最近ではなんといってもCMソングでお馴染みの「ウイスキーが、お好きでしょ」がよく知られるところだが、ほかにも著名なヒット曲から意外な歌手が歌ったものまで多種多彩である。
この度発売になった6枚組CD-BOX『Mr.Melody〜杉真理提供曲集〜』は、116曲もの提供作品が収められて、贅沢な作品集となった。
慶應大学在学中からバンド活動に勤しみ、1974年には「ヤマハポピュラーソングコンテスト」の関東・甲信越大会に出場。同年には「ヤマハJコンテスト」決勝大会で作曲賞を受賞した。デビューは1977年、ビクターから出された「思い出の渦」が最初のシングルで、杉真理&レッド・ストライプ名義。23歳の時だった。同時にアルバム『MARI & REDSTRIPES』もリリースされている。
同じく杉真理&レッド・ストライプス名義によるセカンドアルバム『SWINGY』を1978年にリリースした後、アーティストとしては少しの休養期間があったが、その間にレイジーのアルバム『Dream a Dream』に作詞・作曲した「ロックン・ロールさえやってりゃ」「真昼のメインストリート」の2曲は最初期の提供楽曲になる。
1980年にCBS・ソニーへ移籍後に出されたセカンドシングル「Hold on」は、前年に竹内まりやのアルバム『UNIVERSITY STREET』に提供した曲のセルフカヴァー。大学時代から交流のあった竹内へは彼女のファーストアルバム『BEGINNING』に書いた「目覚め(Waking Up Alone)」「ムーンライト・ホールド・ミー・タイト」をはじめ、複数の提供曲がある。並行して竹内は杉のアルバムにコーラス参加している。
1980年は、後にユニットも結成することになる須藤薫のファーストアルバム『Chef's Special』にシングルリリースもされた「LOVE AGAIN」ほかを書き下ろした。以後もシングル、アルバムに数多くの作品を提供して、彼女のメインライター的存在となってゆく。アレンジを手がけた松任谷正隆との縁で松任谷由実とも繋がり、1982年にはユーミン、須藤薫とのジョイントコンサート「Wonder Full Moon」ツアーが実施された。
杉真理の知名度を一気に高めた「NIAGARA TRIANGLE Vol.2」への参加
一般的に杉の知名度を一気に高めたのは、やはり大瀧詠一の指名で第2期ナイアガラ・トライアングルに佐野元春と共に参加したことだっただろう。1981年10月にシングル「A面で恋をして」が出された後、翌1982年3月にはアルバム『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』が発表され、杉の作品は4曲収録。その中の「ガールフレンド」は、竹内まりやに提供した「目覚め(Waking Up Alone)」を自身の詞に書き換えて改題したセルフカヴァーである(元の詞は松山猛)。また「夢みる渚」も元々は竹内のシングル用に書かれた曲だったという。
1982年秋の自身のシングル「バカンスはいつも雨」は、堀ちえみが出演したグリコ「セシルチョコレート」のCMソングとして、その鮮烈な映像とともに記憶される。同時期には、全11曲中8曲を作曲(うち6曲は編曲も)した川島なお美のセカンドアルバム『SO LONG』のプロデュースも手がけている。アイドルファンならずとも必聴の名盤である。翌年に出されたハート型仕様のスペシャルシングル「Ash Wednesday」も杉の作曲による佳曲だった。この時期の充実した仕事ぶりが窺われる。
極上のポップスワールド、山口百恵、松田聖子などビッグネームが続々と
CMソングでは、自身が歌った味の素のスポーツドリンク「TERRA」の「いとしのテラ」もよくテレビから流れていたが、提供作品ではなんといっても、1984年にシチズン「リビエール」のCMに起用された、ハイ・ファイ・セットの「素直になりたい」が白眉。洗練されたメロディに井上鑑の瀟洒なアレンジと美しいコーラスが相まってエレガントを極めた一曲。個人的には提供曲のナンバーワンに挙げたい。ハイ・ファイ・セットへは続けて、カネボウのキャンペーンソング「星化粧ハレー」も提供している。作詞の田口俊とのコンビネーションは「ウイスキーが、お好きでしょ」へと至る。
ほかにも山口百恵「想い出のストロベリーフィールズ」、松田聖子「雨のリゾート」などビッグネームが続々と。意外なところでは由紀さおりやノーランズへの提供作もある。杉真理の極上ポップス・ワールドがたっぷりと詰まったCD-BOX『Mr.Melody〜杉真理提供曲集〜』でその軌跡をぜひとも確かめてみて欲しい。
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2022.11.23