2000年 10月9日

「やまとなでしこ」と MISIA「Everything」閉塞感漂う今の時代こそ “Y2K” リバイバル

71
0
 
 この日何の日? 
フジテレビ系ドラマ「やまとなでしこ」放送開始日
この時あなたは
0歳
無料登録/ログインすると、この時あなたが何歳だったかを表示させる機能がお使いいただけます
▶ アーティスト一覧

 
 2000年のコラム 
解散から24年!ブランキー・ジェット・シティの伝説ライブ「LAST DANCE」プレミア公開!

鬼束ちひろの不思議な浄化作用!Y2Kを象徴する曲「月光」救いでも励ましでも癒しでもない?

aiko「ボーイフレンド」Y2K時代に感じた “生き抜いてやろう” という希望とパワー

朝ドラ「オードリー」堺雅人でも蔵之介でもない!長嶋一茂が陰のある男を演じたのはなぜ?

大滝、細野、清志郎 — 奇跡の楽曲「ハンド・クラッピング・ルンバ」

モーニング娘。「恋愛レボリューション21」現在のアイドル百花繚乱は “Y2K” から始まった

もっとみる≫



photo:フジテレビ  

【Y2Kリバイバル】vol.1 〜「やまとなでしこ」と MISIA「Everything」

「たった1人の人に、めぐり逢えたような気がする」

―― これは、2000年10月9日、通称 “月9” 枠で始まったフジテレビ系の連続ドラマ『やまとなでしこ』で、松嶋菜々子サン演ずる主人公のスチュワーデス・神野桜子が意中の男性を落とす際に用いたキラーワードである。その甲斐あってか、同ドラマは平均視聴率26.4%、最高視聴率34.2%と、2000年代に放映されたラブコメにおいて、今もトップに君臨する。主題歌のMISIA「Everything」(作詞:MISIA / 作曲:松本俊明)もダブルミリオンの大ヒットとなった。

なぜ今、26年前に放映されたドラマ『やまとなでしこ』なのか―― 。その答えが、年のアタマにお届けする本コラムのテーマ【Y2Kリバイバル】でもある。近年、テレビ界はコンプラ(コンプライアンス)やポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)等の影響で、どんどん表現の幅が狭くなっている。SNS社会が蔓延し、番組作りも角が立たず、マイルドな作風が求められがちである。そして、スタバやユニクロの影響なのか、ドラマ作りにおいてもシュッとした地味なキャラクターに収まる傾向にある――。

だが、そんな現状に敢えて異を唱えたい。コンプラやポリコレより、面白いことを優先して何が悪い。多くの人々の無難な共感より、一部の人たちに刺さるコンテンツのほうが面白くないだろうか。そして何より―― キラキラな男女のラブストーリーを描いて何か問題でも?

そう、まるで現代社会の反面教師(アンチテーゼ)が、今回、本コラムで取り上げるドラマ『やまとなでしこ』である。スチュワーデス、一流ブランド、高級レストラン、アッパークラス、そしてラブコメ。なお、同ドラマが放映された当時は、CA(キャビンアテンダント)をスチュワーデス(愛称:スッチー)と呼んでおり、本コラムでは時代の空気感を尊重して、敢えて当時の呼称で通させてもらう。

更なる高みを目指す、松嶋菜々子演じるヒロイン桜子


さて、冒頭に挙げた、同ドラマのヒロイン桜子のキラーワード “たった1人の人に、めぐり逢えたような気がする” の話に戻る。実はこの台詞、第1話だけでも、都合3人の男性に使われている。最初は、南青山の高級レストラン「NOBU TOKYO」(当時オープンして3年目の人気レストラン!)で行われた合コンだった。桜子は居並ぶ男性陣が身に着けている小物類―― 腕時計やカード、靴、クルマのキーを舐めるように見て品定めをすると、メルセデスベンツのキーを持つ男にロックオンを決める。その瞬間、銃で撃ちぬかれたように固まる男性。意外にも、その顔は二枚目とは程遠かった。

そう、桜子の狙いは、あくまで財力。顔や性格ではない。なぜなら、彼女は幼少期の極貧生活がトラウマとなり、自らのステージを上げてくれる玉の輿を狙っていたから。ゆえに、アッパークラスとの出会いを求めてスチュワーデスになり、ファーストクラスで標的を見つけては、得意のロックオンで名刺をもらい、そんな男性陣との合コンに日々勤しんでいる。なお、ロックオンした男性はあくまでキープ。彼女は更なる高みを目指し、次の標的を探し続ける。

実は、そんな桜子には本命がいた。大病院の御曹司・東十条 司(東 幹久)である。先の合コンの帰り、キープの男性にベンツで送ってもらい、降車した10秒後には東十条から電話が入り、駆け付けた彼のアウディ TT(当時最新の人気モデル!)に乗り込んでいる。“合コン?” と問いかける東十条に “まさか” と笑顔で返した桜子は、例のキラーワードを惜しげもなく繰り出す。“あの時、たった1人のあなたに、めぐり逢えてよかった” ――。

何ゆえ、桜子は東十条という優良物件を持ちながら、今なお合コンに励むのか。ある日、その理由を後輩スッチーの若葉(矢田亜希子)に問われた彼女は “もっと凄い金持ちが今夜の合コンに紛れ込んでいたら?” と笑顔で返し、更なる優良物件を見抜く秘策を語る。“中央競馬会の馬主のピンよ” ―― いぶかしがる同僚たちに、桜子 “サラブレッドの馬主はね、年収5,000万円以上で、億の資産の査定をクリアした、筋金入りの金持ちしかなれないの” ――。

ⓒ フジテレビ


もう1人の主人公、堤真一演ずる小さな魚屋を営む三十路の男、中原欧介


ちなみに、これは伏線である。ドラマのもう1人の主人公は、堤真一サン演ずる代官山で小さな魚屋を営む三十路の男、中原欧介である。実は欧介、かつて数学者の道を志し、米マサチューセッツ工科大学に留学するも、挫折。父親が亡くなったのを機に実家に戻り、母(市毛良枝)と魚屋を切り盛りしているという異色の経歴を持つ。

その夜、欧介は、大学時代からの親友、大学付属病院の勤務医の佐久間(西村雅彦 / 現:西村まさ彦)に誘われたスッチーとの合コンに、気が乗らないまま参加していた。佐久間曰く、お相手のスッチーは “すっごい美人” で、医学学会のニューヨーク出張からの帰りの飛行機で知り合ったという。一方、同じく合コンに参加する大学時代からの親友・粕屋(筧 利夫)はテンションが爆上がりである。その日の合コンは男性陣が全員、医者の設定という紳士協定が結ばれた。

さて、合コンが始まる直前―― 欧介の携帯に馴染み客から “牡蠣にあたった” とのクレームが入る。席を立って帰ろうとすると、遅れてやってきた1人の女性とすれ違い、足が止まる。桜子だった。欧介にとって彼女の顔は、7年前にフラれた恋人、雪子と瓜二つ―― 。一方、桜子のほうも欧介が胸のポケットに付けたピンが目に入る。そのピンこそ―― 彼女が追い求めていたサラブレッドの馬主の証だった。ここで、例のキラーワードが3度、語られる。“今夜は、たった1人の人に、めぐり逢えたような気がする” ――。

かくして、桜子は欧介を外に連れ出すと、家まで送るとタクシーに同乗する。だが、欧介は車中で馴染み客からの電話の一件を思い出し、クルマを降りる。そして、ある大邸宅の門の呼び鈴を押して、執事の案内で中へ入る―― その後ろ姿に驚愕する桜子。種明かしをすると、ソコは馴染み客の邸宅で 、“牡蠣にあたった” のはお腹に来る風邪の早とちり。欧介が付けた中央競馬会のピンは、その馴染み客が店に忘れたものだった。

ドラマのクライマックスで流れるMISIAの「Everything」


とにかく―― そんな風に運命の出会いを果たした2人のラブストーリーが幕を開ける。翌日、東十条は桜子にプロポーズするが、昨夜の件が頭を離れない桜子は、その申し出を保留し、欧介をデートに誘う。再会する2人。欧介はことあるごとに自分の正体を明かそうとするが、なかなか言い出せず、一方の桜子はどんどん彼に前のめりになる。デートの別れ際、意を決した欧介は桜子に向き合う。

欧介「お話があります」
桜子「私も…」

―― と彼女もうつむく。

欧介「あの…」
桜子「さっき婚約者と別れました!」

―― 桜子の衝撃の告白に驚く欧介

欧介「どうして?」
桜子「欧介さんとめぐりあえたからです!」

―― そして欧介の目を見て、思いを吐露する

桜子「あなたといると、未来が見えるんです」
欧介「10年後の僕が… あなたには見えるんですか」
桜子「見えるわ。10年後も20年後も」

そして欧介に近づき、不意にキスをする。驚く欧介――。ここで、主題歌のMISIAの「Everything」が流れる。

 すれ違う時の中で
 あなたとめぐり逢えた
 不思議ね 願った奇跡が
 こんなにも側にあるなんて

キスを終えた桜子が、少し照れながら尋ねる。“明日も手術で朝、早いんじゃないですか?”。ここで欧介のスイッチが入る。この後に続く台詞が、同ドラマの真骨頂と言っていい。目をキリっと見開いた欧介は、桜子にこう告げたのである。“早朝から、立て続けに3つ手術が入っています” ――。



「やまとなでしこ」はラストがハッピーエンドのラブコメ


そう、ドラマ『やまとなでしこ』はラブコメである。但し、おふざけじゃない。不器用ながら、真っ当に生きる登場人物たちによる一流のラブコメである。ハリウッド流に言えば、ロマンチックコメディとも。笑えて、キュンとして、時に切なく、ラストはハッピーエンドで幸せな読後感に浸れる―― それがラブコメである。

ちなみに、欧介が正体を偽り、桜子とハラハラドキドキのデートを重ねる展開は、2話のラストで早々にバレて、ゲームはお開きになる。

欧介「その場限りのウソが、こんなに後を引くなんて…」
桜子「嫌いになりました。サヨナラ」

笑顔で欧介に別れを告げ、きびすを返して立ち去る桜子。そこに1話と同様、MISIAの「Everything」が流れる。前回とシチュエーションが真逆なのに、不思議と歌詞に違和感がない。

 愛しき人よ 悲しませないで
 泣き疲れて 眠る夜もあるから
 過去を見ないで
 見つめて私だけ

自宅に帰った桜子。なぜか表情はすぐれない。その時、家の電話が鳴る。東十条からだった。いつもの笑顔に戻る桜子。“プロポーズのお返事、まだしていませんでしたよね。もちろん、お受けします!” ――が、電話を切った直後、また顔が曇る。そう、彼女は自分でも気づかないうちに、欧介に惹かれ始めていた。自分にすべてを打ち明け、本心を語ってくれた欧介に――。

ここで視聴者は悟る。桜子の表情がさえないのは、彼女と欧介はいわば合わせ鏡だから、と。自分に対して、図らずも見栄を張ってしまった欧介同様、桜子も東十条に偽りの姿を見せている。タワマンに住み、ブランド服に身を包み、きらびやかな暮らしを満喫するスッチーと見せかけ、その実、給料の大半を服に投資し、ボロアパートに住み、カップラーメンをすする現実である。

2021年に放送されたディレクターズカットでは桜子に賞賛の嵐


3話以降、物語はそんな桜子が改心して、欧介との距離を次第に縮めていく展開かと思いきや、同ドラマはそんな安っぽい作りはしない。そう、これはラブコメなのだ。東十条と婚約した桜子は、先方のご両親にご挨拶して、同僚たちにも東十条を紹介して、結婚に向けた準備は着々と進んでいる―― と思わせておいて、東十条を見送った直後、“さ、急いで合コン行くわですかよ!” と、以前と変わらぬ顔を見せる。曰く “私は結婚の約束をしただけで、まだ結婚したわけじゃないの” ――。

この瞬間、お茶の間の僕らは、なぜかホッとする。そして桜子のキャラにすっかりハマっている自分に気付くのだ。そう、彼女は正統派のヒロインと違い、典型的なアンチヒロインである。高飛車で、愛よりもお金を優先し、自分に不釣り合いな男を平気で損切りする。一見、お茶の間が感情移入する余地はないように見える。

ところが―― 2021年にディレクターズカットと称して、同ドラマの総集編がオンエアされた際、SNSは、そんな桜子の強気な言葉に歓喜し、共感の声であふれたのである。その時の視聴率は19.6%。このご時世、総集編でその数字は驚異である。

実のところ、みんな桜子が大好きなのだ。スラリとした長身に、美しいフェイス。ヘアは毛先を遊ばせたグラボブ(グラデーションボブ)で、仕事のデキる女をアピール。洋服はセリーヌやヴァレンティノを華麗に着こなし、靴はブルーノ・マリのミュール、バッグはディオールのワンハンドルと、1ミリの隙もない。そして何より、その強気な言葉が、あのキュートなボイスで語られると、お茶の間はたちどころに許してしまうのだ(笑)

「私の武器は1つだけ。この美貌だ」

「借金まみれのハンサム男と、裕福なブタ男。どっちが結婚して、女を幸せにしてくれると思いますか?」

「甘いわね。女が最高値で売れるのは27。27歳が売り時のピークなの。それを超えたら値崩れを起こすわ」

「やっぱり人を幸せにしてくれるのは、お金よね。憧れなんていうのはオマケ。オ・マ・ケ」

―― 等々。その圧倒的なハイスペックな身なりから繰り出される小気味よい台詞の数々は、いつしか現代社会がひた隠すようになった女の本音であり、誰もが身に覚えがある。ゆえにお茶の間の共感を集めた。



主題歌を歌ったMISIAは「紅白歌合戦」で7年連続トリを務める


そして―― 物語は進み、ついに最終回を迎える。数学者としての道を歩み出した欧介を追って、ニューヨークまでやってきた桜子。欧介を前に、もう嘘をつく必要がなくなった彼女は、初めて本音を吐露する。

「私には見えるんです。10年後も、20年後も、あなたのそばには私がいる」

ーー 桜子を見つめる欧介。いつか聞いた台詞だが、今度は違う意味に聞こえる。“残念ながら、あなたといると、私は幸せなんです”。ここで、MISIAの「Everything」が流れる。まるで、桜子の気持ちを代弁するかのように。

 You're everything
 You're everything
 あなたと離れてる場所でも
 会えばきっと許してしまう
 どんな夜でも

 You're everything
 You're everything
 あなたの夢見るほど
 愛せる力を勇気に
 今かえていこう

ドラマ『やまとなでしこ』は、放映後も様々な関係者に恩恵をもたらした。松嶋菜々子はトップ女優の地位を盤石なものとし、以後もコメディからシリアスまで数多くのドラマや映画で活躍する。堤真一は同ドラマ以降、連ドラの常連俳優に。映画『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズでは情熱的な社長を好演した。脚本の中園ミホは一躍ヒットメーカーとなり、『anego[アネゴ]』や『ハケンの品格』『Doctor-X 外科医・大門未知子』などの傑作を生み出す。NHKでは大河ドラマと朝ドラの両方を手掛けた。

そして―― 主題歌を歌ったMISIAは一躍トップシンガーに。国内外で活躍し『NHK紅白歌合戦』では7年連続でトリを務めている。

そう、何かと閉塞感が漂う今の時代こそ、お茶の間が一体になって盛り上がれる『やまとなでしこ』のようなドラマが必要ではないか。ヒロイン桜子の前向きな生き方が支持されるのではないか。皆が口ずさめる「Everything」のような楽曲が求められるのではないか―― 。

新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

▶ テレビに関連するコラム一覧はこちら!



2026.01.01
71
 

Information
あなた
Re:mindボタンをクリックするとあなたのボイス(コメント)がサイト内でシェアされマイ年表に保存されます。
カタリベ
1967年生まれ
指南役
コラムリスト≫