2007年 7月11日

テレビコマーシャルとアーティストの幸せな関係!ナイキ、アップル、キャドバリーの場合は?

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ファイストのシングル「ワン・トゥー・スリー・フォー」
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連載【教養としてのポップミュージック】vol.18 / テレビコマーシャルとアーティストの幸せな関係!ナイキ、アップル、キャドバリーの場合は?

テレビコマーシャルにおける楽曲の再利用方法


以前、Re:minderのコラムで、音楽のコンテンツとしての生涯価値(Lifetime Value)に言及したことがある。コンテンツの生涯価値とは何かというと、1つのコンテンツが発表されてから、その生涯にわたる全期間で生み出す儲けの総額のことだ。

音楽の場合だと、最初にリリースされた楽曲(オリジナル版)がどれだけ売れたかだけでなく、その楽曲を構成する要素の全部、または一部が有償で再利用された場合、その収入も含まれる。だからビジネス的な視点に立てば、生涯価値の高い楽曲こそが良い楽曲ということになる。ということで、今回は、楽曲の再利用方法の1つであるテレビコマーシャルに注目してみたい。

当然のことながら、テレビコマーシャルは広告主の販売促進活動の一環として制作、放送されるので、その一次的な目的は、広告主の商品・サービス、あるいは会社全体の価値を高めることにある。だが、それと同時に、楽曲を提供するアーティストやレーベルに大きなメリットをもたらすことがあるというのも、もう1つの重要な側面である。

そこで今日は、広告主と楽曲提供者が “Win-Win” の関係を築くことができたと考えられるテレビコマーシャルの中から、タイプの異なる3作品を紹介したい。いずれも僕が1人の視聴者として大好きな作品で、今でも鮮明に記憶に残っているもの。皆さんもぜひ一度観て、思い出していただきたいと思う。

【タイプ1】 アップル iPod nano(2007年)


ワン・トゥー・スリー・フォー / ファイスト

このコマーシャルで流れている楽曲はカナダのカルガリー出身のシンガーソングライター、ファイストが2007年にリリースした「ワン・トゥー・スリー・フォー」(1234)だ。ちょっとハスキーでふわっとしたボーカルが印象的だ。



コマーシャルの中で、iPod nanoのディスプレイに映し出されているのはこの曲のミュージックビデオ。様々な人種の人々がカラフルな衣装を纏って踊っている。その様(さま)は、あたかも多様性(Diversity)は創造性(Creativity)の源泉であると言わんばかりで、そういった点でもアップルの企業イメージに合致しているのかもしれない。

この時、ファイストは世界的にほぼ無名だったが、アップルのように既に世界中に知れ渡っているグローバルブランドからすれば、視聴者に印象を持たれていないアーティストや楽曲を使う方が、自社ブランドが邪魔されるリスクを避けることができると考えたのだろうか。一方で、抜擢されたアーティストにとっては千載一遇のチャンスをもらった訳で、その意味では “Win-Win” が成立しているといえる。

ちなみに、日本ではこの曲は、2018年にサントリー黒烏龍茶のコマーシャル「ファストフードに恋してる」篇に採用されている。中条あやみがハンバーガーマンとミュージカルを共演しているのだが、こっちの方で覚えている人もいるかもしれない。

【タイプ2】 キャドバリー「ゴリラ」(2007年)


夜の囁き / フィル・コリンズ

次は、話題のコマーシャルに過去の名曲が採用され、その楽曲が再ブレイクしたタイプだ。ちなみに、キャドバリーというのは1824年に創業した英国王室御用達のチョコレートブランドのこと。この動画で使われた楽曲は、ジェネシスのフィル・コリンズが1981年にリリースしたソロデビューシングルで、彼の代表曲の1つでもある「夜の囁き」(In The Air Tonight)だ。



ストーリーは至ってシンプル。曲が静かに流れる中、画面にアップで映る一頭のゴリラ。黙ってドラムセットに座っている。しばらくうっとりと曲に聴き惚れた後、突然ゲートリバーブのかかったドラムのフィルインが飛び込んでくると、それに合わせてゴリラが全力でドラムを叩き始める。商品は最後に登場するだけで、コピーさえ出てこない。

実は当時、キャドバリーは自社の製品から食中毒患者が発生した問題で窮地に陥っていた。そこで、消費者のブランドエンゲージメント(消費者が特定のブランドに対して示す、積極的な関与や感情的な繋がり)を再び高めることを目的に、商品を前面に押し出すのではなく、1つのエンターテインメント作品として、家族や友人の間で話題になることを目指してコマーシャル動画を制作したそうだ。この作戦は完全に功を奏し、商品の販売数とブランドに対する消費者の意識、その両方が上昇したと言われている。

だが、このコマーシャルで得をしたのは、キャドバリーだけではない。この曲はリリースから26年も経っていたのに、再び全英シングルチャートにランクインし、最高位14位まで到達した。このケースも、広告主と楽曲提供者の間に “Win-Win” が成立したと言っていいのではないだろうか。

【タイプ3】 ナイキ 『シークレット トーナメント』(2002年)


おしゃべりはやめて / エルヴィス・プレスリー

最後は、2002年に開催されたサッカー日韓W杯(FIFA World Cup 2002)用に、ナイキが制作したテレビコマーシャルだ。その内容はといえば、廃船に集められた当時のスター選手24人が、3人ずつ8チームに分かれて勝ち抜き戦に挑むというもので、エリック・カントナがレフェリーを務めた。決勝でルイス・フィーゴ、ロベルト・カルロス、ロナウドの最強トリオ “オス・トルナドス” を、ティエリ・アンリ、フランチェスコ・トッティ、中田英寿の “トリプル・エスプレッソ” が、ちょっとしたズルによって倒すのだが、中田のいるチームを優勝させたのは開催国日本に対する配慮、なんてことはあるだろうか。

この超豪華な映像の後ろに流れているのが、エルヴィス・プレスリーが1968年にリリースした「おしゃべりはやめて」(A Little Less Conversation)のリメイク版。このコマーシャルのために、映画音楽作曲家として知られるトム・ホーケンバーグが、ジャンキーXLとしてリミックスを手掛けた。それにしても、さすがはエルヴィス。力強く特徴的な歌声は、テンポの速い映像にも、当時最先端のトラックにも全く負けていない。



このバージョンは同年「ア・リトル・レス・カンヴァセーション」(JXL ラジオ・エディット・リミックス)としてリリースされ、エルヴィスが亡くなってから25年経っていたにもかかわらず、全英シングルチャートでNo.1を獲得した。その点で、広告主と楽曲提供者の間に “Win-Win” が成立したといえる。でも、それ以前にサッカーファンと音楽ファンの両方を喜ばせたのだから、これ以上に幸せなテレビコマーシャルがあるだろうか。

ということで、今回はテレビコマーシャル3作品を紹介したが、いずれも映像と音楽の相乗効果がいかんなく発揮された好事例といえるだろう。そして、これらの作品は広告主と楽曲提供者だけでなく視聴者をも喜ばせたのだから、そこでは “Win-Win” ならぬ、“Win-Win-Win” が成立している。このような幸福な関係は、コマーシャルの主戦場がテレビからインターネットに変わった今日においても十分に成立するだろうから、これからも魅力的なコマーシャルを世に送り出し続けていただきたいものである。

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2026.03.13
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1965年生まれ
中川 肇
上記3作品のYouTube動画です↓。こちらもお楽しみ下さい。
===
(1) Apple iPod Nano
https://youtu.be/sijSh4tMPVg
(2) Cadbury's Gorilla Playing Drums
https://youtu.be/Rs2z7OA3XKI
(3) Nike -Secret Tournament (The Cage)
https://youtu.be/1HfE0z630mQ
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カタリベ
1965年生まれ
中川肇
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