クリームソーダ店員6人で結成されたロカビリーバンド ブラック・キャッツ
80年代前半を彩った50’Sブームの震源地であり、今もロカビリーフリークの聖域として君臨し続けるファッションブランド、クリームソーダの店員が結成したブラック・キャッツは、6人編成のバンドとして1981年7月21日にビクター・インビテーションより、エディ・コクランのカヴァー「ジニー・ジニー・ジニー」でレコードデビューを飾る。そこから飽くなき探求心でロカビリーの本質を追求、1982年11月21日リリースされたサードアルバム『HEAT WAVE』まで僅か1年4か月という短い期間の中での音楽的深化は他に類を見ないだろう。
2021年はブラック・キャッツがデビューしてから40周年というアニバーサル・イヤーだ。この長い期間、ブラック・キャッツが残した音は時代に風化されることも、懐メロになることもなく、継承され、愛され続けた。彼らが現役時にリリースしたアナログ盤は一時期とんでもない高価なプレミアムが付き中古市場で取引されていた。
だから40周年という大きな節目に彼らの軌跡ともいえる3枚のアルバムと唯一のベストアルバムが2021年最新デジタルリマスター&SHIM-CDで復活するというのは大きな意義があると思う。
デジタルリマスターで蘇る時代の輪郭、ブラック・キャッツの軌跡
ブラック・キャッツといえば、ロカビリーの象徴であるウッドベースにバスドラ、スネア、シンバルのみで構成されたスタンディングドラム、グレッチ社製のフルアコギター、名器 “ホワイトファルコン” にサックス… といった極めてオーセンティックな楽器構成で、ワイルドかつダイレクトなサウンドを打ち出していた。
これはもうロカビリーの醍醐味だ。シンプルでありながらも奥深さを持ち合わせたアーリー80‘Sのサウンドが、今回のリマスターでどのように変化していくか… 興味は尽きなかった。
音源を聴いた第一の印象は音の輪郭がクッキリと浮かび上がっているということだ。おーセンテックな楽器編成だからこそ、それぞれの個性がリアルに際立つ。故きを温ね新しきを知るといった40年前の手法が、時を経てどれだけ革新的だったかというのが音楽の多様化が極まった2021年だからこそ感動的ですらある。
そして先記したように、6人編成のブラック・キャッツが遺した3枚のアルバムにおける音楽的深化は目を見張るものがある。1981年当時、ヨーロッパではストレイキャッツ、ポールキャッツをはじめとするネオロカビリーのムーブメントはピークを迎えていたが、そのような情報も日本にはほとんど入ってこなかった時代だ。例えば、ロカビリーの大きな特徴のひとつ、ウッドベースの弦をスラップし、カチカチと音を出すスラッピング奏法にしても、「あのカチカチって音はどうやって出すの?」といった議論がしきりに行われていた時代である。そんな中にサウンドを開拓していく心意気は後進に大きな道筋を作った。
ティーンエイジャーの激情を存分に詰め込んだ「CREAM-SODA PRESENTS」
結成から間もない期間で制作されたファーストアルバム『CREAM-SODA PRESENTS』は、ロカビリーというよりも、もっと大きくざっくりとしたオールディーズテイストを、クリームソーダのイメージに合わせ最新型のロックンロールとして打ち出したアルバムだ。
そこには、50年代の楽器編成をどのようにダイレクトに鳴り響かせるかが大きな課題だったと思う。その中でスラッピング奏法は用いず重たくロールさせるウッドベースの音が極めて特徴的だった。ここに収録され、デビューシングルとしてもカットされた「ジニー・ジニー・ジニー」などは特に顕著だ。50年代にいち早くエレキベースを導入して革新的な音楽を追求したエディ・コクランのオリジナルバージョンよりもウッドベースを使ったブラック・キャッツのほうがフィフティーズ的だと言っても過言ではないだろう。そして、極めてパンキッシュにシャウトする高田誠一のヴォーカルが重なることにより、唯一無二の存在感を醸し出した。
このように粗削りながらのティーンエイジャーの激情を存分に詰め込んだ記念すべきファーストアルバムの輪郭を今回のデジタルリマスターで存分に感じ取って欲しい。
セカンドアルバム「VIVIENNE」からネオロカビリー最高峰「HEAT WAVE」へ
『CREAM-SODA PRESENTS』のリリースから半年という短いインターバルでリリースされたセカンドアルバム『VIVIENNE』での演奏技術の格段の進歩は当時耳を疑うほどであった。ブラック・キャッツのロカビリーへの本格的な模索はこのアルバムから始まっている。
当時のレコードでは、バディ・ホリーに大きな影響を受け、甘いグリースの香りが漂ってくるような世界観のA面とロカビリークラシックスを中心とした全曲カヴァーのB面で構成された意欲作だ。ここに収録された「Shake Rattle And Roll」などはオリジナルのビル・ヘイリーではなく、エルヴィス・プレスリーのヴァージョンをインスパイアしていることも興味深い。この『VIVIENNE』B面で打ち出した彼らの世界観にはオールディーズテイストは微塵も感じられず、ロカビリー特有の荒っぽいリズムにニューウェイヴな感覚を加味した独自性が際立った “時代の音” として確立していることに注目して欲しい。
2枚のアルバムをリリースしたブラック・キャッツは、当時アメリカNo.1だったガールズバンド、ゴーゴーズにフロントアクトとして抜擢され、ロサンゼルスからシアトルまで北アメリカ大陸を北上する西海岸ツアーを敢行。当時西海岸で隆盛を極めていたロカビリーシーンの影響を大きく受け、日本人ならではのメロディセンスが相俟って完成したサードアルバム『HEAT WAVE』は、ネオロカビリー最高峰と称される傑作だった。
特筆すべきは、このアルバムのレコーディングが六本木ソニースタジオ(通称:六ソ)で行われているという点だ。六ソと言えば、大滝詠一の名盤『A LONG VACATION』もこの場所で行われていた。六ソにはウッドベース専用のブースもあり、この場所で試行錯誤を重ね、ウッドベースやアコーステックのギターの音色を西海岸の渇いた風のように響かせ、今まで聴いたことのないような新境地にたどり着いた。ロンバケの中に潜む50年代、60年代的なギミックとブラック・キャッツの西海岸のロカビリームーヴメントに触発された音作りに近い感覚を感じるのは自分だけではないはずだ。
この生き急いだ短い期間で到達したロカビリーの独自性がデジタルリマスターで蘇った。3枚を通して聴くことで、彼らの進化の凄さを体感することが出来るだろうし、アーリー80’Sという時代の中で異端だった音の輪郭をリアルに感じることで、ブラック・キャッツというバンドが今の時代も懐メロにならず、ファンの心にリアルに響いている理由が明確に分かるはずだ。
そして最後にもうひとつ。今回のBOXには6人編成のブラック・キャッツが唯一残したベストアルバム『Cat’s Street』もインクルーズされている。ここには、シングルのB面としてリリースされ、オリジナルアルバムには未収録の「うわさのラブモンスター」と「グッドラック・ベースマン」も収録。2021年に蘇ったコンプリート・オブ・アーリー・ブラック・キャッツだ。レコードデビュー40周年という記念すべき年にBOXセットでリリースするという英断を下したレコードメーカー、ビクターエンタテインメントには賞賛の拍手を送りたい。
特集 ブラック・キャッツ デビュー40周年を迎えたJAPANESE ROCKABILLYの開祖
2021.11.24