2023年 4月14日

谷原章介も狂喜乱舞!デビュー40年のメタリカがメタリカであり続ける奇跡

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「キル・エム・オール」から40年! メタリカがメタリカであり続ける奇跡


メタリカが本国デビューして40年の節目を迎えた。かつてアンダーグラウンドシーンの象徴だった彼らが、紆余曲折を経て世界のヘヴィメタルシーン、ひいてはモンスターバンドとしてロックシーンの頂に君臨しているのは、デビュー当時の状況を思い返すと隔世の感を禁じ得ない。血気盛んな若者らしさを激しいスラッシュメタルで表現していたメンバー達も、今や還暦前後に差し掛かった事実に、40年という歳月の長さを改めて感じてしまう。

そんなメタリカと並走し、長年に渡ってブレずに応援し続けたダイハードなファンも多いが、僕の場合、日本デビュー当時の84年に『血染めのハンマー』を手に入れて以来、メタリカを愛聴してきたものの『ブラックアルバム』で少々心が離れてしまった、オールドファンに “ありがちな” タイプだ。



それでも、90年代以降のメタリカに失望や不満を重ねようと、いまだに彼らは自分にとって特別な存在であり続けている。それはメタリカと出会い、初めて聴いた瞬間に受けた衝撃の強さが、自分の中で継続し続けているからに他ならない。

先日、フジテレビ『めざまし8』にラーズ・ウルリッヒがプロモーション出演した際、オンライン会談した司会の谷原章介が、狂喜乱舞してメタリカマニアぶりを見せた様子がネットで話題になったが、谷原氏もまた、出会った時の衝撃が今も継続している一人なのだろう。

時代や作品によって距離感が変化していったメタリカが、再び近く感じられたのは前作『ハードワイアード...トゥ・セルフディストラクト』だった。それから約6年4ヶ月、コロナ禍という特殊な状況を挟んで、彼らがどこに向かうのか?世界中が待ち望んだ『72シーズンズ』への期待は、個人的に『ブラックアルバム』以降で1、2を争うものになった。



どの世代のファンも置き去りにしない! 比類なきメタリカブランドの刻印


そんな『72シーズンズ』には、40年もの歴史を重ねた全時代のメタリカが、過不足なく網羅されていると第一印象で感じた。

メタリカの強みは、バンドのルーツとアイデンティティに根ざした核となる「不変性」と、時代を捉えて新たな方向に果敢にチャレンジし、サウンドを巧みに変化させてきた「柔軟性」を兼ね備えている点だろう。それは、ベースとなるダイハードなファンを保持しながらも、新たに共鳴したファンを時代ごとに増やし続けることにつながった。

長年培った多様性で幅広いファン層を持つメタリカだけに、その全てを100%満足させる作品を生み出すのが困難なのは自明の理だ。例えば初期のスラッシュメタル路線に徹底回帰すれば、オールドファンは喜んでも、比較的新しいファン層にとっては逆に違和感があるかもしれない。

前作ではメタリカサウンドの最適解を提示しているように感じたが、今作でもそれを継承しつつ、曲ごとのコントラストがより明確になった印象を受ける。いずれの時期にメタリカを好きになったファンでも、どれか気に入った曲が見つかるはずだ。

例えば、自身のルーツとなるNWOBHM(ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィメタル)やモーターヘッドの匂い、スラッシュメタルの先鞭をつけたアグレッシヴなリフとリズムの応酬、『ブラックアルバム』で開眼した圧倒的なヘヴィネス、『ロード』以降のグルーヴィーでダークなテイスト等々。

メタリカの刻印がビシッと押された統一感の範疇で、多様な要素が絶妙なバランスを保ち、過不足なく円熟の域で盛り込まれている点が何とも心憎い。過去をただ網羅するに止まらず、今のバンドの状態の良さを象徴するように、デビュー40周年とは思えぬフレッシュなムードも漂わせている。

メタリカ史上最長の11分に渡る曲まであるが、多くの曲がコンパクトにまとめるのを放棄したように長尺なのも特徴だ。メンバー4人が繰り広げる、ロック本来のダイナミズムを重視したジャミングから生み出されたものを、そのまま真空パックしたような生々しい印象を受ける。

様々な時代のメタリカを匂わせつつも、強固なアイデンティティ、根底にある軸も全くぶれていない。年齢を感じさせないエナジーを放出しながら、こうしたアプローチをやり切れるベテランバンドは珍しい。

今作もそうだが、アルバムをリリースするたびに賛否の議論が巻き起こるのも、それだけ聴き手がバンドと真剣に対峙している証だろう。『72シーズンズ』は、メタリカに魅せられた40年間に渡るファン層をもれなく呑み込み、たとえ100%でなくてもその大多数に相応の納得を与えたはずだ。どの時代のファンも平等で置き去りにしない彼らの思いが、図らずも反映されたように見えるのだ。



新作のリリースに「確かな意味がある」稀なベテランバンド、メタリカ


アルバムリリースに向けた仕掛けでも、メタリカほど斬新でワクワクさせるバンドはいない。彼らはこれまで過去のレア音源などを惜しげもなく公開してきたが、新しい音源でも制作過程を積極的に情報公開しながら、期待感を熟成していくのが実に巧妙だ。

サブスクや動画サイト、SNSなどを巧みに使いこなし、出し惜しみせずに次第に煽っていくのは見事だし、ベテランらしからぬ今時のそうした手法は、若いファンの共感も育んでいく。

『72シーズンズ』というタイトルから導き出される、明確で興味を惹くアルバムコンセプトや、イエロー&ブラックのキービジュアルなど、事前に提示された情報の数々は、音に触れる前からイマジネーションを掻き立てられた。アルバムジャケに自分だけのお馴染みのバンドロゴを生成できるサイトも作られたが、些細な事かもしれないけど、こうした遊び心の一つひとつが楽しい。

今回とりわけ興味深かったのが、発売前日に敢行された映画館での全世界同時リスニングパーティーだ。日本でも全国55個所の映画館を結んで行われたが、デジタルだけでなく、映画館というある種アナログでリアルな場を絶妙に交差させる仕掛けも見事だ。つねにメタリカに最適なブランディングを行い、圧倒的なワクワク感を生み出すことに長けている。

惰性で新作をリリースしがちなベテランバンドとは違い、そこに明確な意味を与えるからこそ、円熟にとどまらないフレッシュな感性がアルバム全体に宿るのだろう。

ライヴでこそ本質を剥き出しにする新曲の凄み! ライヴバンド、メタリカの真骨頂!


“ファンがライヴで聴きたいのはかつての有名曲であり、今さら新作をリリースする意味などない”、といった趣旨の発言をするベテランアーティストもいる。ある意味、それは正しい側面もあるだろう。ライヴでお客さんが求めて盛り上がるのは、結局のところかつてのヒット曲だったり有名曲だったりするのは当然だからだ。

メタリカはそうしたベテランバンドとは新作に対するスタンスが明らかに違う。今回キックオフされたワールドツアーでも、すでに『72シーズンズ』から多くの新曲をセットリストに組み込み披露しており、かつての名曲群と混ざっても、意外なほど地続きで完璧に溶け込んでいる。

オフィシャルも含めて、動画サイトに無数にアップされた『72シーズンズ』のどの新曲も、スタジオヴァージョンの格段上をいく印象を与えるのが興味深い。楽曲が持つ本質が剥き出しになっており、ライヴ映えする楽曲をまるで逆算して作っていたかのようにすら聴こえる。何よりオーディエンスの反応の良さが、それを如実に証明していると言えるだろう。

新曲を披露するメンバーの姿も一様に楽しげで、新作への満足度が伝わってくるようだ。ラーズも格段に調子を取り戻した印象を受けるし、ジェイムズ・ヘットフィールドのフロントマンとしてのオーラと安定したパフォーマンスは、もはやロックシーン随一を印象づける。

広大な場所なのに最低限の機材しか置かれていない、引き算を極めたお馴染みのスネイクピットのステージセットで、オーディエンスと濃く交わり、徹底したファン目線で作られたライヴが実践されていく。幅広い層のオーディエンスとメンバーが渾然一体となってメタリカの音楽を一緒に楽しむ、極めて健全なライヴの状況を目の当たりにすると、『72シーズンズ』はライヴでこそ完成形に至るアルバムだった、と明確に理解できるだろう。

日本ではなかなか叶わないライヴの様子を映像で眺めているだけで、ついつい『72シーズンズ』をリピートしたくなった僕は、まんまとメタリカの狙いにハマってしまったようだ。

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2023.06.15
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カタリベ
1968年生まれ
中塚一晶
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